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20252025.02.22- 新入職員のOJTで転倒事故、被害者が寝たきりになったことを苦に職員が退職
《検討事例》
3月に専門学校を卒業して入社したKさんは、デイサービスに配属になりました。所長は先輩職員に「みなさん温かく指導して下さい」と紹介し、利用者へも「こちらに配属になった新人さんなのでお手柔らかに」と言ってくれました。2週間経ったある日、先輩職員が「Mさんがトイレに行きたいと言ってる、おまえ介助してみろ」と言われ、パーキンソン病のMさんのトイレ介助をしました。ところが、Mさんの移乗介助中に突然腕がビクッと動きKさんの顔に当たり、はずみでMさんを転倒させてしまいました。Mさんは頭部を強打し硬膜下血腫となり、予後が悪く寝たきりになってしまいました。所長は「Kさんが責任を感じることはないのよ」とフォローしましたが、Kさんは1か月後に退職してしまいました。《事例検討解説》
■新人に身体介護をさせるには
この事故の原因はKさんの介助ミスではありませんし、事故の責任はKさんにはありません。無責任な先輩職員がいきなり新人のKさんに対して、いきなり「Mさんトイレを介助してみろ」と“むちゃぶり”したことが最も大きな原因です。また、新人OJTの体制や手順を整備しないで、現場任せにした管理者の責任です。
技術も知識も備わっていない新人職員にいきなり利用者の身体介助をさせたら危険なことくらい誰でもわかります。ベテランでも新しい職場に来て知らない利用者を介助するには、事前に利用者の身体機能などの知識が備わっていなければ安全に介助はできません。Mさんはパーキンソン病で不随意運動がある利用者のようですから、介助中で予期せぬアクシデントが起こる介助難しい利用者ですからなおさらです。
身体介護はミスが直接利用者の生命の危険に直結する危険な業務ですから、他の介護業務とは異なる高い安全配慮義務が課されています。例えば、本事例のように不可抗力的なアクシデントが原因で事故が起きて裁判になったら裁判官は不可抗力性を斟酌してくれるでしょうか?おそらく裁判官は「身体介護においては利用者は動作の全てを介護職に委ねている状態であるのだから、どんな不測の事態が起きても利用者の身体に危害を及ばないよう高度な安全配慮義務がある」と言って、過失と評価するでしょう。つまり、身体介護における事故では不可抗力性という言い訳はほとんど通用しないのです。
■新人にはリスクの低い利用者を介助させる
前述のように身体介護は高度な安全配慮義務が課されている業務ですが、いつまでも危険だからと新人に任せない訳にはいきません。まず、リスクの低い利用者から慣れてもらわなければなりません。では、身体介護のリスクの高い利用者と低い利用者をどのように評価して区分したら良いのでしょうか?
私たちは新人に任せる時だけではなく、日常から身体介護における安全配慮義務の程度を次のように3つに分けて、その義務に高さに見合った対策を講じています。
1.全介助利用者への身体介護
利用者は動作能力が全くありませんから、介助中は利用者の動作を全て介護職が支配している状態になりますから、どんな不測の事態が起きても対処できるように万全の対策が求められます。身体介護で安全配慮義務が最も大きい介助行為です。
2.半介助利用者への身体介護
利用者の自立動作を介護職が援助して動作を完結させる共同作業になりますから、利用者の自立を妨げない範囲で事故防止の対応が必要になります。身体介護では2番目に安全配慮義務が大きい介助行為です。
3.見守りなどの間接的な身体介護
利用者の動作は自立しているが動作に危険があるような場合、近くで見守り不測の事態がおきた時に対処して介助するケースです。対処しきれない場合もあり全ての事故を防げる訳ではないので、安全配慮義務は比較的低いと考えられます。
介護現場ではこのようなリスクに対する安全配慮義務の程度について、区分して認識されていないことが大きな問題なのです。
■OJTの体制を整備する
さて、本事例は新人のOJTの方法が法人で統一されておらず、現場任せになっていることが根底にある最大の原因と言えます。では、介護現場で安全な新人OJTを行うためには、どのような点に注意したら良いのでしょうか?
まず、安全にOJTを行うためには、お客様に迷惑がかからないようにきめ細かい指導と配慮を行う、指導役が身近にいなければなりません。特定の先輩社員が新入職員の指導役となって、OJTで新入職員を指導する仕組み必要なのです。医師も顧客に危害が及ぶ危険な仕事ですから、指導医というマンツーマンで指導を行う先輩がいます。この仕組みは「ブラザー・シスター制度」などと呼ばれ、多くの会社で導入されています。
具体的には、先輩職員が新人職員にお客様個別の対応方法を教えて、実際に目の前で業務をさせて至らないところを指導します。また、何度も繰り返して実践させて指導し、PDCAを繰り返すことで、自ら学ぶ力や課題解決能力も身に付けさせます。新人職員は座学や実技の研修では学べない、活きた現場でのお客様対応の配慮や工夫を学ぶ貴重な機会となります。ですから、新人の指導に当たる先輩職員も、お客様への対応能力に優れた新人の教育にも適した能力の高い人材が必要になります。
■安全に新人OJTを行うためには
最後に現場の新人OJTにおける事故防止対策のポイントを挙げてみますので参考にして下さい。
【新人OJTにおける事故防止のポイント】
〇新人が身体介護を担当する(介助しても良い)利用者を決める
職場の利用者の中で、比較的介助にリスクが少ない利用者を新人の担当とします。ただし、次の利用者は原則除きます。認知症の重い利用者、パーキンソン病で不随意運動がある利用者、極端に体重の重い利用者、下肢筋力低下や拘縮などがあり身体介護が難しい利用者。
〇担当する利用者の身体機能や介助方法などを教える
担当する利用者の既往症、障害の状況などの情報を一覧にして覚えてもらいます。また、介助方法を先輩職員が実演して見せて注意点を説明します。
〇利用者個別の介助方法を実地指導し身に付けさせる。
先輩職員が利用者役を演じて、実際に新人職員に介助させてみて、介助方法の至らないところをアドバイスします。また、「〇〇さん、姿勢を直しますから少しお手伝いさせて下さい」など、個別利用者への声かけの方法も指導します。
〇介助する時は必ず先輩に見守りをお願いして独りでやらない。
実際に利用者に介助行為を行う時には独りでせずに、必ず先輩職員を呼んで見てもらいながら介助することを徹底します。
〇介助方法と介助上の注意点をメモに記入させ、介助前には必ず確認する
先輩から教わった介助方法と介助上の注意点をメモしてこれを絶えず持ち歩き、介助行為を行う前に必ず確認するように指導します。
〇不測の事態が起きた時の対応教える
トランスの途中でバランスを崩した場合など、事故が起こりそうになった時に危機を回避する手段を教えて、実際に訓練をします。
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20252025.02.22- 認知症利用者の鼻をつまんで食べ物を口に入れ誤嚥事故が起きた
《検討事例》
虐待とも考えられるような介助方法で誤えん事故が起きました。ある介護職員Aが食事介時に、認知症の利用者がなかなか口を開かないため、鼻をつまんで口を開かせ食べ物を口に入れたのです。気管に食べ物が侵入し誤嚥事故となりましたが、幸い命は取り留めました。もちろん、食事介助の方法として、無理矢理口を開かせて食べさせて良い訳がありませんし、これは明らかに虐待行為です。しかし、この事故を起こしたAは「危険な介助方法だとは思わなかった」「主任が“鼻をつまめば口を開くよ”言ったから」と申し開きをしました。話を分かり易くするために“もしこの事故が死亡時になったらどうなるのか”という仮定で、問題点を考えてみましょう。《事例検討解説》
■故意と過失では罰則が異なる
この誤えん事故で利用者が死亡すると、刑法の犯罪として刑事告訴される可能性があります。通常ルール違反や危険が明白であるような行為を行って事故を起こし、相手が死傷するような重大事故につながると業務上過失致死(傷)罪に問われることがあります。ただし、この介助行為がルール違反もしくは非常に危険だということを認識していたかどうかで事情は変わってきます。つまり、ルール違反であることや非常に危険であるということの認識がありながら、故意にその行為を行うと更に罪は重くなり、重過失致死(傷)罪になるかもしれません。
さて、介護職員Aは「危険の認識は無かった」と主張しています。しかも、上司の指示に従ったのだから、自分は利用者を危険に晒すつもりは無かったのだと言っているのです。この主張は認められるでしょうか?この場合介護職員Aのこの行為が、誰の目にも明らかに危険であると考えられれば、彼の主張は認められません。
鼻を塞がれた状態で口に食べ物を入れるとどうなるでしょう?鼻で呼吸ができず口で呼吸をしますから、口に入った食べ物が気管に侵入する危険は極めて高く、誤えん事故に至る必然性があります。ですから、介護職員としてはこの危険を認識して当然であり、「認識していなかった」という抗弁は通用しないかもしれません。もちろん、Aの食事介助の行為が介護マニュアルで「危険なのだからやってはいけない」と具体的に明記されていればルールですから、Aの主張は議論の余地はありません。
■「上司の指示に従った」という抗弁
次に、「上司が“鼻を摘まめば口を開くよ”言った」と主張はどうでしょうか?彼の罪を軽くする抗弁になるのでしょうか?この主張は認められるかもしれません。もちろん、介護職員Aがベテランであれば、自分で危険を判断して行動しなければなりませんが、経験の浅い介護職員であれば上司の指示に従ってしまうかもしれません。
もし、Aの介護職員としても経験が浅く、上司の発言によってこの行為を行っても危険は無いと判断したのであれば、Aの罪は軽くなる可能性があります。しかし、同時に上司である介護主任が同じ業務上過失致死(傷)罪に問われるかもしれません。業務上の事故では介護事故の起こした職員本人の刑事責任と同時に、管理監督責任がある上司や管理者が同様に罪に問われることは珍しくないのです。
■管理者が罪に問われる可能性も
以上のように、利用者にとって危険が明白な介助方法によって事故が発生して重大事故になれば、本人の認識如何を問わず刑事事件につながる可能性が高くなります。Aの食事介助の行為は、介護に従事する職員から見れば「誰から見ても危険」という行為で議論の余地はないでしょう。しかし、介護職場では安全な介助のルールが文書になっている訳ではなく、その判断は現場に任されているのが現状です。
誰から見ても危険という介助方法が職場で常態化しているにもかかわらず、管理者がこれを是正する措置をとらずに今回のような事故が起きれば、管理者が刑事責任を問われ可能性があります。管理者は職場の安全管理に対して、包括的な重い義務を負っているからです。管理者が「危険な介助方法の実態」を全て把握できる訳ではありませんから、施設内で職場リーダーを中心に「不安全行動(※)」を点検してみてはどうでしょうか?
※不安全行動:労災事故では事故につながる危険のある従業員の行動をこう呼んでいる
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20252025.02.22- クレーマーとの面談で相手に無断で録音したら「盗聴は犯罪だ」と言われた
《検討事例》
介護付きホームの入居者Hさんの息子さんは、入所時に「母を転ばせないで」と強く要求しました。相談員は「最善を尽くします」と答えましたが、転倒事故が起こると「転ばせないと約束したのになぜ転ばせた」と大きな声を出します。その後も身勝手な要求を繰り返し、こちらが言ってないことを「言った」と威圧的な態度でゴリ押しします。ある時息子さんが「〇〇と言ったはずだ」と言ってきたので、詳細な会話の記録を見せると、記録など当てにならないと言います。相談員は「録音して記録したのだから間違いない」と言ってしまいました。息子さんは「勝手に会話を録音するのは違法だ」と言います。交渉相手との会話を録音したら違法なのでしょうか?《事例検討解説》
■無断録音は盗聴ではない
Hさんの息子さんのように、こちらが言っていないことを「言った」と強引に主張して、暴力的・威圧的な態度で理不尽な要求をしてくる相手に対しては、防衛手段として会話を録音する必要があります。相手の同意を得て録音すれば何の問題もありませんが、Hさんの息子さんが会話の録音に同意するとは思えません。では、相手の同意なしに会話を録音したら違法なのでしょうか?
私たちは、無断で会話を録音する行為は、後ろめたく違法性があるように感じます。隠しマイクで人の会話を録音することを「盗聴」と言いますから、盗撮のように犯罪と思えるのです。他人の容姿を無断で撮影すればプライバシーの侵害ですから、無断録音も同様に権利の侵害とも受け取れます。
しかし、相手の同意なく会話を録音することは、違法ではありませんし犯罪でもありませんから、正確な記録のために録音することは構いません。他人同士の会話を隠れて録音する行為、すなわち「盗聴」はそれだけでは犯罪にはなりません。盗聴器を仕掛けるために住居に不法に侵入したり、電話回線に盗聴器を仕掛けて会話を受信するような行為が犯罪になるのです。
また、他人同士の会話を無断で録音すればプライバシーの侵害になりますが、相対して話をしている相手と自分の会話を無断で録音する行為(無断録音)は、権利侵害の程度が低く問題にならないと考えられます。
■威圧的な相手との会話は録音すべき
Hさんの息子さんは威圧的な態度で無理な要求をしてくる人です。その上、こちらの言っていないことを「〇〇と言った」と、自分の都合の良い主張に変える人です。このような相手と交渉する場合には、後日のトラブルに備えて準備が必要です。
まず、相手のとの交渉には必ず2名で臨み、1名が相手との交渉を担当し、もう1名が記録を取ります。単独で交渉に臨むと、後日「言った言わない」という争いになった時、こちらの主張の正当性が弱くなってしまうからです。そしてこちらの主張を裏付ける記録を正確に取るために、相手の同意が無くても会話を録音します。交渉の場で相手がこちらを脅かすような暴言を吐けば、脅迫罪になるかもしれませんから、後日この録音を証拠に相手を刑事告訴できるかもしれません。また、暴力的で威圧的な相手に対しては、録音を条件に交渉に臨むと相手に伝えることで、暴力的な行為をけん制することもできます。
このように、会話の録音自体は違法ではありませんし犯罪でもありませんが、録音したことが相手に分かれば相手との信頼関係を損ねます。また、こちらが相手に敵対意識を持っていると受け取られますから、信頼関係を重視している相手に対しては録音したことが分からないようにしなければなりません。
■録音の取扱いには注意が必要
さて、無断録音は違法性がありませんから会話の録音は構いませんが、録音したデータの取扱いには注意が必要です。録音されたプライバシー性の高い内容が職員から口外されれば、プライバシーの侵害で賠償請求される可能性もありますから、厳重に管理して他の職員がアクセスできないようにしなくてはなりません。
消費者保護の観点での配慮も必要です。2人の職員が1人の相手と交渉し無断で録音までしているのですから、消費者保護の観点から好ましい光景とは思えません。相手が威圧的でやむを得ない場合のみ録音するとした方が無難でしょう。介護福祉事業は公共性が高く利用者保護への配慮が必要とされていますから。
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20252025.02.22- 面会の家族が食事介助を申し出たのでお願いしたら誤嚥事故発生、施設の責任は?
《検討事例》
頻繁に特養の入所者に面会に来る長男の妻が、いつものように食事介助を申し出たためお願いしました。ところが、介助中に利用者の顔が急にガクッと下を向いて動かなくなり、気付いた看護師が誤えんと判断し吸引を施行して救急搬送しましたが、病院で亡くなりました。病院に駆けつけて来た長男は、取り乱して泣いている妻を見て「入所者の介護は職員がやるべきではないのか?」と、施設の責任を追及します。施設長は、「介護したいとおっしゃればご家族の責任でお願いしています」と答えましたが、息子さんは納得していないようでした。施設長は相談員に「家族が介助中に起こした事故の責任は家族が負う」と一筆いれてもらおう」と言いました。《事例検討解説》
■家族の介助による事故で施設の責任が発生するか?
面会の家族が利用者を介助して事故が起きても、基本的には施設の責任は問われないでしょう。面会時に家族が利用者の介助を申し出ることは珍しくなく、施設は家族に介助上の注意を伝えてお願いしています。いくら「本来施設の職員がやるべき業務である」であっても、家族の介助の申し出をむげに断れませんから、施設は事故の責任を問われては困ります。
では、施設内の家族介助による事故で施設は責任を絶対に問われないか?というと、必ずしもそうではありません。介助業務を素人である家族に任せることに顕著な危険がある場合などは、事故が起こった時賠償責任が追及されトラブルになるかもしれません。本事例では次のような場合です。
1.入居者に摂食えん下障害があり家族にその認識が無い場合
入所前は摂食嚥下障害が無くその後機能障害や機能低下が生じていて、家族がこれを知らない場合には、きちんと誤えんのリスクを説明しておく必要があります。
2.介護職員でも食事介助が難しく、家族に任せることで明らかな危険が生ずる場合
匙への盛り方や口への運び方や姿勢など、介助方法が難しくこれを怠ると誤えんの危険があるような場合は、家族に任せると危険です。
3.誤えんのリスクが高く、しかも家族には誤えん発生時の適切な対処が期待できない場合
家族は介護のプロではありませんから、誤えん発生時の救命処置が正しくできるはずがありません。
また、取り乱す妻を気遣う息子さんの施設を咎めるような発言に対し、施設長が過敏に反応して責任回避の言葉を口にしてしまいましたが、事故直後の発言として適切ではありません。危うくトラブルになることころでした。利用者に事故が起こると、家族がその責任を追及してもいないのに過敏に反応して、すぐに施設側の責任回避ばかり主張する管理者がいます。事故発生直後のこのような管理者の責任回避の発言は、家族に対して「責任感が無い」「誠意が無い」という強烈な悪印象を与え、事故後の家族トラブルに発展するので注意しなければなりません。
■家族の介助に危険がある場合の対応
さて、このような面会の家族による利用者の介助に危険がある場合、どのように対応したら良いのでしょうか?利用者の家族が配偶者であれば、介助を任せると不安があるような、少しおぼつかないお年寄りもいますが、むげに断る訳にも行きません。
例えば「少し認知症がある夫が頻繁に訪ねて来て妻を歩かせる」「食べ物を持って来て居室で一緒に食べてしまう」などの場合、頭ごなしに「禁止」というのでは家族の気持ちに対する配慮に欠けます。完全看護の病院ではありませんから、介護職員も「余計なことをしないで下さい」とむげに断ることもできず困ってしまいます。
では、施設長が言うように、「家族が介助して事故が起きた時には“介助中の事故は家族が責任を持ちます”と一筆入れてもらう、という対応はどうでしょうか?これも適切ではありません。ご存知のように、“事故が起きても事業者の責任を追及しません”と一筆入れてもらっても法的な効力がありませんし、このような約定をさせることは消費者軽視になりますから控えなければなりません(※)。
少し考え方を変えてみたらどうでしょうか?施設サービスは利用者の生活を支えることですが、面会の家族も実は利用者の生活を支えています。面会の家族が利用者に寄り添って歩くことも、一緒に美味しいものを食べることも、単調な施設の入所生活の中では生活の彩であり、生活することの張りでもあり、利用者はみな元気になります。「家族と協力して利用者の生活を支える」という考え方をすれば、家族に適切な注意喚起を行った上で、安全に歩いてもらい、安全に美味しいものを食べてもらえば良いのです。
※消費者契約法によれば、「事業者を消費者との契約において、事業者の消費者に対する損害賠償責任の全部または一部を免除するような条項は無効とする(同法第8条)」とされています。
■高齢の家族への注意喚起の方法とは
事故防止の手法として、「利用者や家族の注意を喚起する」「注意を促す」という方法があります。利用者の自発行為で起こるような事故でも、施設職員は介護のプロですから、プロの立場からリスクを予測して本人や家族に必要な注意喚起をしておかなければなりません。
では、どのような方法で注意を喚起すれば、施設職員は介護のプロとしてやるべき安全配慮をしたことになるのでしょうか?面会の家族が配偶者のようなお年寄りであるケースも踏まえると、次のような注意喚起の方法が必要です。
①リスクを具体的に伝えて事故の重大性を認識させる
お年寄りはリスクに対する想像力や感受性が衰えてきますので、事故の結果どのような重大な事態になるのかを具体的に伝えなければなりません。「転倒すると危ないですから」ではなく、「転倒して入院すれば肺炎を起こして亡くなる人もいるのですから」と説明すれば良いでしょう。
②相手の理解力に即した平易な言葉で説明する
お年寄りは語彙が豊富ではありませんし、新しい言葉や難しい言葉は分からない人が多いですから、平易な言葉で分かり易く伝えなければなりません。介護の専門用語を使ってはいけません。「誤えんしたら大変ですよ」などの専門用語はできる限り避けて、「食べ物が喉に詰まったら窒息して死んでしまいますよ」と伝えれば良いでしょう。
③リスク回避の方法も具体的にアドバイスする
リスクを正しく認識できても、これを回避する方法が分からなければ、事故は防げません。ですから、分かり易くお年寄りにもできる事故の防止方法を伝えなければなりません。「注意して食べさせてください」ではなく、具体的にどのようにすれば良いかを伝えなければなりません。「4つくらいに切り分けてお茶と一緒に召し上がって下さい」と伝えれば良いでしょう。
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20252025.02.22- デイの送迎時玄関で「ここでいいですよ」と奥様に言われ交替したら転倒
《検討事例》
Dさんはデイサービス利用している86歳の男性利用者です。通常移動は車椅子介助ですが、送迎時は居宅の門から玄関まで車椅子が使えず介助員が手引き歩行をしています。ある日、介助員がDさんの手を引いて玄関まで歩いたところで、奥様(82歳)が玄関のドアを開けて「ここでいいですよ」とDさんに手を差し伸べたため、介助員は「ではお願いします」と言って手を離しました。その直後にDさんがふらつき奥様が支えようとしましたが転倒、大腿骨を骨折してしまいました。デイサービスは「奥様にお引渡しした後なのでデイの責任はない」と主張しています。《事例検討解説》
■「ここでいい」と言われたら家族に任せて良いか?
原因分析に入る前に「奥様にお引渡しをしたのでデイの責任はない」という主張の是非について検討してみましょう。まず、デイサービスの送迎業務はどこで終了するのでしょうか?どこまでお送りすれば良いのでしょうか?「居宅の玄関まで送れば良い」と場所で理解している人も多いのですが、そうではありません。デイサービスの送迎業務の範囲は「居宅の玄関まで」などの場所ではなく、「居宅に帰着し安全な状態と認められるまで」です。なぜなら、送迎業務は単に利用者を輸送する業務ではなく、車両乗降や屋外歩行を介助して移動させるという施設の介護業務の一環とみなされるからです。
このような前提で考えると、介助員が奥様に利用者の歩行の介助を任せた時点では、送迎業務は終了していないことになります。そうすると、介助員が送迎業務中に家族から「こちらで介助しますのでいいですよ」と、介助を辞退されたことになります。では次の問題として、介助業務中に「家族自身で介助する」と介助を辞退されたら、家族に利用者の介助を任せても良いのでしょうか?答えはNoです。
■家族に任せる時は安全であることが条件
もちろん、たとえデイサービスや施設の業務であっても、家族がこれを代わりに介助することは、悪いことではありませんから、全てがいけないという訳ではありません。特別養護老人ホームなどでも、面会に来た家族が食事の介助をしています。しかし、本来施設職員が行うべき介助業務を家族に任せるのであれば、「家族で安全に介助できる場合」という条件が付くのです。
このように考えると、デイサービスの送迎の介助員は、本来車椅子介助の利用者を立位で手引き歩行している訳ですから、たとえ奥様が介助を申し出ても「ここでは危険ですからおうちの中で交替して下さい」と申し出を断って介助を続けなければならなかったのです。
■家族に介助を任せる時の注意事項を徹底する
本事例のように、家族が介助を申し出てこれをお願いする場面は送迎時だけではありません。デイサービスでも家族が来所されて、介助の手伝いをすることはありますし、入所施設の面会時にも同様の場面が考えられます。ですから、色々な場面における「家族に介護業務をお手伝いいただく要件」をある程度決めておいた方が良いと思われます。
デイサービスでは、家族が毎日居宅で利用者を介助していますから、家族が介助を申し出た場合、居宅での介助方法について家族と擦り合わせをする良い機会です。「デイサービスではこのように介助をしていますが、ご自宅で奥様はどのように介助をしていますか?」とお聞きして、介助方法についてプロとしてアドバイスができれば素晴らしいと思います。一方で、入所施設などでは、「家族が入所後の身体機能低下を理解していないため、昔の介助方法でやろうとしたらできなかった」というケースもありますから注意を要します。以上のように、本来施設がすべき介助を家族が申し出た場合については、介助をお願いする時の注意事項をまとめておいた方が良いでしょう。では、本人自身が介助を辞退して、「自分でやるから介助は必要ない」と申し出た場合はどうしたら良いでしょう?
■本人が介助を辞退したら自立動作に任せて良いか?
この場合も、家族が介助を申し出た時と考え方は同じです。つまり、本人自身が独りで安全にできると判断できる場合には、利用者の自身の自立した動作に任せて良い事になります。介護保険制度や福祉サービスの理念の大きな柱に「自立支援」という考え方があります。「本人自身でできることは本人にやっていただく」ということは介護職員の常識です。何でも気を回して本人ができることを介護職が手伝えば、過介護になって本人の自立を妨げますし、「人の手を借りずに自身でやりたい」という自尊心も奪ってしまうことになるからです。
ところが、このような介護の常識が裁判所には理解してもらえないらしく、介護職にとっては厳しい裁判の判決が出ていますので知っておいて下さい。次のような内容です。
デイサービスの利用者(要介護度2で杖歩行)が、デイサービス終了時にトイレに行きました。この時職員は介助を申し出ましたが、本人が「一人で大丈夫だから」と言って、トイレのドアを閉めてしまったので、トイレ内までは付き添いませんでした。ところが、被害者はトイレ内で転倒し大腿骨を骨折してしまったのです。被害者の家族は、たとえ本人が「一人で大丈夫だから」と言っても、歩行が不安定で転倒の可能性が高く介助すべきであり、デイサービスに過失があると訴訟を提起。裁判所は原告の訴えを認め賠償金の支払いを命じました。 (H17年3月20日横浜地裁判例)
事故の賠償訴訟の裁判では「危険があれば事故を回避する措置を講ずる義務がある」という考え方のみで過失を判断します。その考え方には、自立支援という介護業界では当たり前の観念が全く存在しません。「多少でも危険があると判断したら危険を回避するために介助しなさい」と決めつけるのです。自立支援も本人の自尊心への配慮も関係ないのです。
立場が違うと考え方も異なるので仕方ないのですが、裁判官にも少しは介護される人の気持ちも理解してもらいたいと思います。「危ないから」と言って自立した動作をさせてもらえず、全て制限されたり介助されたら、人は身体的機能が低下するだけでなく、生活意欲や精神の自立も失ってしまいます。前述の裁判官は将来自分が要介護になった時、「自分でできることは自分でやるから余計なことはす
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20252025.02.22- 1年前にヒヤリハットが起きた保育園の裏口付近で今度は人身事故発生
《検討事例》
ある日の夕方、利用者送迎中のデイサービスの送迎車が、保育園の裏口の付近を通過しようとしました。保育園の裏口には、園児を迎えに来た母親が道路の脇で何人も立ち話をしていたので、運転手はこれを避けて通過しようとしました。その時、立ち話をしている母親の間から園児が飛び出してきて、徐行している送迎車の左前に衝突しました。すぐに119番通報し警察を呼びましたが、幸い軽症で済みました。翌朝のミーティングで、所長が他のドライバーに前日の事故について説明し注意を促すと、ドライバーの一人が「1年前に同じ場所で同じヒヤリハットがありました。今でもヒヤリハット報告書を持っています」と言いました。《事例検討解説》
■事故防止に活かさせないヒヤリハット
このデイサービスの所長は、日頃から事故防止活動に熱心に取り組み、「ヒヤリハットシートをもっとたくさん出すように」と職員を厳しく指導している人でした。その事故防止活動の管理者が、提出されたヒヤリハットシートの情報を読みもせずにバインダーに眠らせていたのですから、所長は立場がありませんでした。
“ヒヤリとした”“ハッとした”とう事故寸前の体験を記録し、この情報を職員が共有して事故防止に活かすことが、ヒヤリハット活動の目的です。ところが、このデイサービスではヒヤリハットシートを書いて提出することが活動の目的になっていて、ヒヤリハットシートが事故防止活動に全く活かされていませんでした。ヒヤリハット活動の本来の目的が忘れられていて形骸化しているのです。
特養などの施設でも同じことが言えます。特定の利用者などの転倒のヒヤリハット情報なども、シートに書いて提出するだけで、他の職員との情報共有さえできていないのです。せめて「ヒヤリハット情報は毎朝ミーティングで報告する」というルールにして、1年前のヒヤリハット情報を共有していたら、本事例の事故は防げたかもしれません。
■交通事故のヒヤリハット情報はどのように共有すべきか?
さて、送迎中の自動車事故のヒヤリハットはミーティングで報告するだけで、正確な情報が共有できるのでしょうか?転倒のヒヤリハットであれば「〇〇さんの歩行の介助中に膝折れして転倒しそうになった」という情報を職員が共有できれば、他の職員もその利用者の歩行介助時に膝折れによる転倒に備えることができます。
しかし、送迎中の自動車事故のヒヤリハットの場合、ヒヤリハット発生地点を正確に把握して、危険に対処する運転をしなければなりません。ヒヤリハット発生地点は、ヒヤリハットシートの文書を読んでも、また住所で示されても正確に把握することはできませんし、具体的なリスクの発生状況も文字では把握しきれません。では、ヒヤリハット地点と具体的なリスク発生状況を、どのような方法で共有したら、自動車事故防止に活かせるのでしょうか?
■ヒヤリハット発生地点は危険箇所マップで共有する
東京都のある社会福祉法人では、全てのデイサービスでヒヤリハットをビジュアル化する取組をしています。具体的には、危険箇所マップを作成してヒヤリハット発生地点を地図上で把握し、ドライブレコーダーの画像でリスクの発生状態をビジュアルに把握する活動をしているのです。
初めに危険箇所マップによる、危険箇所の把握と共有方法をご紹介します。送迎エリアを1枚の大きな地図にしてデイルームの隅に貼り出します。送迎中にヒヤリハットが発生すると、ドライバーはヒヤリハットシートを記入し提出した後に、マップ上のヒヤリハット発生地点に付箋を貼ってどのようなリスクが発生したのかを書き込みます。図のように、保育園のお迎えのママさんの影から園児が飛び出して来たら、「保育園送迎飛び出し注意」と記入します。もちろん、翌朝の朝礼でヒヤリハットを報告しますから、他のドライバーは発生地点を地図ですぐに確認できます。
デイサービスを訪れた利用者の娘さんがこのマップを見て、「私も注意しなくちゃ」と言って、スマホで写メして帰ったそうですから、家族にも事故防止の姿勢が伝わって評判は上々だそうです。
■ドライブレコーダーの画像を閲覧
次の事故発生状況の把握と共有方法です。ドライバーからヒヤリハットシートが提出されたら、所長はドライブレコーダーの画像をWEBで入手します。パソコンにヒヤリハット情報の画像をダウンロードしたら、始業点検前にドライバーを全員呼んでヒヤリハットの画像を見ながら注意を促します。ドライバーは臨場感溢れる画像で、自らがヒヤリハットを体験したと同じように感じるため細部にわたる安全配慮運転ができるようになります。図のような自転車の飛び出しの場面を見ていると、反射的にブレーキを踏もうとして思わず足が突っ張ってしまいます。
このようにして、ヒヤリハット発生地点と発生状況をビジュアルに把握することによって、その危険箇所地点に差し掛かった時に、自然に徐行運転ができるようになります。この社会福祉法人では定期的に全てのデイサービスの送迎車ドライバーを一堂に集めて、ヒヤリハット事例についてグループで討議する検討会も行っています。
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20252025.02.22- 「他の利用者から30万円もサプリメントを買わされた」というデイのクレーム
《検討事例》
ある日、デイサービスの女性利用者Kさん(軽度認知症あり)の娘さんから次のようなクレームの電話が入りました。「母がデイサービスで仲良くなったMさんから、30万円分のサプリメントを買わされた。“デイの職員にも勧められた”と言っている。デイサービスで責任を取れ」というのです。デイサービスでは、職員がサプリメントの購入を勧めている事実はないし、Kさんは認知症が無いのだからご自分の判断で購入されたのでデイで責任は負えない」と答えました。すると、娘さんは「高齢者の詐欺被害が社会問題になっているのに、デイの配慮が足りない」として主張して市に苦情申立をしました。《事例検討解説》
■デイサービスに法的責任が無いことは明白だが・・・
デイサービスで知り合った利用者が、デイの外でもお友達付き合いをするようになりトラブルが発生しても、デイサービスには法的な責任もありませんし、トラブルを解決する義務もありません。その点で、本事例の所長が言っていることは、理屈では正しいことになります。しかし、本事例では良く話を聞いて相談に乗ったり、アドバイスをするなどして協力するくらいはできたはずです。そうすれば、少なくとも市への苦情申立は回避できたでしょう。
クレームの申立に対して「対応できない」と即答することは絶対に避けなければなりません。クレーム対応の手順では、「申し立ては一旦お預かりして対応方法を検討する」というのが基本中の基本なのです。申立内容をしっかり聞いて検討すれば、100%満足する対応ができなくても、お客様は対応の姿勢を評価してくれます。救いを求めて来ているお客様に目の前に門を閉ざすことは、強烈な悪感情につながるので要注意です。
■50万円分のサプリメントを売ることは特定商取引に該当する
さて、次に「他の利用者からサプリメントを大量に買わされた」というトラブルには、どのように対処したら良いのでしょうか?前述のようにデイサービス内で売買された訳ではありませんから、売った側のMさんに対して「デイの利用者には売ってはいけない」と禁止する訳にも行きません。
しかし、軽度の認知症の利用者が50万円もの大量のサプリメントを買わされたことは、販売行為として問題があります。この販売行為は特定商取引と言われ、「特定商取引法」という法律で厳しく規制されています。特定商取引とはいわゆる訪問販売のことですが、居宅に訪問して販売行為をする者の他、展示会やイベントに参加させたりして販売行為をする者も該当します。
特定商取引法は、販売者に対して勧誘を受ける意思の確認などを義務付けるほか、契約を締結しても8日以内であれば契約解除ができる(クーリングオフ)、通常の消費量を著しく超える購入契約(過量販売契約)は1年以内に契約を解除できるとして、取引の公正性と消費者被害の防止を図る法律なのです。
ですから、Kさんがサプリメントを購入して8日以内であれば、クーリングオフができるかもしれませんし、“通常消費する量を著しく超える量(加量販売契約)”とみなされれば、契約の解除ができるかもしれません。Mさんの販売行為を禁止することはできなくても、Kさんの娘さんに対して買ってしまったサプリメントの代金を取り戻す方法をアドバイスすることはできたはずなのです。
■特殊詐欺や悪徳商法から高齢者を守ることもデイの社会的責任
本事例のデイサービスの所長は、施設内の管理については意識が高いかもしれませんが、企業活動の社会的責任については認識が低いようです。近頃では、企業活動の社会的責任として、社会貢献活動が強く求められており、一般企業であっても地域の高齢者の安全に配慮する活動を行っています。特殊詐欺(オレオレ詐欺など)による高齢者の被害が社会問題になっていますから、銀行はATMに行員を配置して特殊詐欺の被害者を発見する取組を行っています。
デイサービスは、高齢者の生活を支えるという事業を営む介護事業者なのですから、特殊詐欺や特定商取引の被害から利用者を守る取組をもっと行うべきなのです。「施設内の事故やトラブルさえ防止すれば良い」と考えているのであれば、介護事業者としての社会的責任を放棄していることになります。
消費者庁が作成した「高齢者の消費者トラブル見守りガイドブック」では、「民生委員、ヘルパー、ケアマネジャーの方々は高齢者にとって心強い味方です」と言っています。在宅介護事業者はお年寄りの生活に密接に関わっているので、地域住民よりもお年寄りを守る責任は重いと言っているのです。施設内の管理だけにとらわれず、利用者の生活全般の安全に対しても配慮をすべきではないでしょうか?地域にしっかり根差した取組を勧めているデイサービスでは、職員が進んで特殊詐欺や特定商取引(法)を勉強して、独居の利用者などに絶えず注意を促しています。
■高齢者の詐欺被害防止にも取り組もう
では、デイサービスとして利用者の特殊詐欺や特定商取引の被害防止に対して、どのように取り組んだら良いのでしょうか?まず、職員が特殊詐欺や特定商取引について知識を持たなければなりません。職員を集めて相談員が勉強会を開くのもの良いですし、警察の生活安全課に防犯協会がありますから、ここにお願いすると講師に来てくれます。特殊詐欺はオレオレ詐欺や還付金詐欺などを、ニュースで報道していますから私たちも良く知っていますが、特定商取引についてはあまり知識が無いのでしょうか?高齢者に関わる代表的なものをご紹介しますので、ぜひ勉強して利用者に絶えず注意を促してください。
《特殊詐欺》
①オレオレ詐欺:電話で親族や会社の上司の名を語り、トラブルや交通事故の示談金名目で、現金を預金口座等に振り込ませるなどして騙し取る詐欺。
②還付金詐欺:税務署や市役所などかたり、税金や保険料、医療費の還付等に必要な手続きを装って、現金を預金口座等に振り込ませるなどして騙し取る詐欺。
③金融商品等取引名目の詐欺:実際には価値がない有価証券や架空の外国通貨などをあっせんし、現金を振り込ませてだまし取る詐欺。
《特定商取引※》
①訪問販売:自宅を訪問するなど、舗以外の場所で商品やサービスを不当な価格で売る取引。狭い店舗に人を集め巧みな話術で価値の低い商品を高額で売りつける(SF商法という)を含む。
②訪問購入:自宅を訪問するなどして「不要な貴金属を譲ってほしい」と持ち掛け、不当に安い値段で買い取る取引
③電話勧誘販売:電話で勧誘して不当に高額な物を大量に売りつける取引。
※特定取引は法律によって、クーリングオフや過量販売契約の解除権などが認められています。
- 02/22
20252025.02.22- 排泄の介助でトイレの外で待機中に便座から転落して重症、オムツでも仕方ないか?
《検討事例》
特養の職員Hさんは、左片麻痺で車椅子全介助の利用者をトイレに連れて行き、便座に移乗させました。利用者は、座位は安定しており本人の強い希望もあって、トイレ誘導で介助をしています。「終わったら呼んで下さい」と言ってドアを閉めて外で少しの間待ちました。1分もしないうちに、ゴンという鈍い音がしたのでドアを開けてみると、利用者が麻痺側の左前方に転落していました。利用者は床に頭部を強打して、意識不明となり救急搬送されました。Hさんは「座位が安定しない利用者はオムツでも仕方がない」と事故報告書に書きました。《事例検討解説》
■トイレ内に入れないので見守りでは転落が防げない
Hさんは転倒事故も転落事故も、職員の見守りによって防がなくてはいけないという考え方ですから、見守りができないトイレ内で便座から転落する危険があれば、「トイレでの排便は無理」という結論になってしまいます。Hさんは「座位が安定しない利用者はオムツでも仕方がない」と決めつけていますが、大切なことを忘れています。それは「便座から転落しないような対策」と「転落してもケガをさせない対策」を何もしてないで、自力での排泄は無理としていることです。まず、便座から転落する原因と、大きな事故につながる原因を考えてみましょう。
■便座から転落する原因
①便座がその人にとって高すぎる
多くの高齢者は体格が小柄で便座に座った時、両足の踵がしっかり床についていないため、座位が安定しません。80代の女性の下腿長(膝下の長さ)の平均は36センチで、普通の便座は床から42センチの高さですから、6センチも足りないことになります。
②移乗した時座位の安定を確認していない
便座への移乗を介助した時、介護職は座位の位置を確認しているでしょうか?便座は微妙なカーブを描いていて、正確に中心に座らないと座位が安定しません。移乗しただけで中心に座っているとは限りませんから、位置の確認が必要なのです。
③便座が大き過ぎる
体重が30キロ前半のような体格が小柄な女性では、お尻が小さすぎて便座の穴にすっぽりハマってしまう人もいて、便座の穴が大き過ぎてバランスを崩す人もいます。
④座位上の安定を支えるものがない
便座上で座位の安定を支えるものとして、壁の横手すりにつかまったり、可動式の手すりに捉まることが考えられます。しかし、手すりに捉まって座位を保持するには握力が必要ですので、握力の弱い人はかなり難しくなります。
■大きな事故につながる原因
①座位から直接頭部を床にぶつける
施設のトイレは健側にL字手すりがついていて、麻痺側がかなり広いスペースになっています。施設は車椅子が入るスペースがあるので麻痺側のスペースが広くなっていますから、この方向に転落すると頭部を直接床にぶつけて生命にかかわる大事故につながります。
②床が固すぎる
最近の入所施設ではトイレ内にもクッション性のある床材が使われおり、頭部を打った時の衝撃が吸収されるようになっています。しかし、多くの施設では床がタイルやクッション性がない硬い床材ですから、頭部を直接強打すれば生命にかかわる事故につながります。
■座位を安定させて転落を防ぐ対策
前述の便座から転落する原因と、大きな事故につながる原因を踏まえて対策を講じるとどうなるでしょうか?
①踏ん張れるように足台を作る
下腿長が便座に対して6センチも足りないのでは、両足の踵がしっかり床につきませんから、ほとんどの利用者に足台が必要になります。足を広げた状態でないと踏ん張れませんから、広めの足台を作ります。少し高めの足台を作り、少し膝が浮くくらいの物を作るのが良いでしょう。膝が少し浮く程度の方が臀部が少し沈んで、座位が安定するからです。
②移乗した時座位の安定を確認する
便座に移乗させてすぐにドアを閉めてしまう介護職がいますが、これでは安定した座位になっている確率は低いでしょう。まず、左右のズレがないか正面から確かめて、体幹が便座の中心に来ているかを確認して下さい。できれば、少し腰を浮かして「座りなおしてあげる」ほうが良いでしょう。本人に「座りやすいですか?」と確認することも忘れないで下さい。L字手すりの横手すりに手を置いてあげればより安定します。
③補助便座を使う
体重が29キロという特別小柄な女性利用者は、お尻も小さく臀部も痩せていたため、お尻がスッポリ便座の穴にハマってしまいました。ハマらないまでもこの状況に近い人は、座位が安定しません。幼児用に売っている補助便座を取り付けてあげれば、座位は確実に安定します。入所施設でこの補助便座を使っている施設はあまり見たことがありませんが。
④座位の安定を支える道具
最近では、L字手すりや可動式の手すりの他に、両側に稼働式の肘掛(肘置き)がついているものが多くなりました。握力のない利用者でも腕を両側に載せることができますから、座位が安定すると同時に、左右にバランスを崩しても便座からの転落も防いでくれます。
また、数年前に座位の安定を支える画期的な道具として登場したのが、「前手すり」です。便座に移乗した後、壁から利用者の前に降りて来て、両腕を載せることができます。この「前手すり」は最近の入所施設では、「標準装備」と思えるくらいたくさん付いていて大変安心です。両側の肘置きと前手すりに囲まれていると、バランスを崩して転落しそうになっても、まず落ちることはあり得ませんから転落防止の切り札と言えます。
■転落しても大ケガをさせない対策
さて、最後に便座から転落しても大ケガをさせない対策を考えます。本事例のように、左片麻痺の利用者が麻痺側前方に転落すると、床に頭を直接打ち付けるために生命にかかわる事故となります。もちろん、床材をクッション性の高いものに替えたり、前手すりなどを設置できればこのような事故が起こることはありません。しかし、かなりの費用がかかりますから、気軽に設置すると言う訳には行きません。
本事例の施設では、フロアごとに2つだけトイレを改修して肘置きと前手すりを付けました。便座からの転落の危険のある人だけ、このトイレを使うことに決めたのです。また、ある施設ではL字手すりを使えない重度に利用者に対しては、逆向きのトイレの使い方に変えました。つまり、左麻痺の利用者は左側にL字手すりがあるトイレを使うのです。こうすれば、麻痺側に転落した時、壁に寄りかかるので床に頭を直撃しないで済みます。自力で手すりにつかまれない利用者であれば、手すりの位置はどちらでも同じですか
- 02/22
20252025.02.22- 「1日5回口腔ケアをすべき」という家族の要求を断ったらトラブルに
《検討事例》
ある特別養護老人ホームに入所した91歳の女性利用者の娘さんが、1日5回口腔ケアをして欲しいと言ってきました。「以前肺炎で入院した時に、口腔ケアを徹底するように医師から言われた」というのです。「1日3回で十分口腔内は清潔にできます」と言うと、娘さんは「施設サービス計画書に書いてあるのだからやるべきだ」と言います。計画書を確認すると「誤えん性肺炎防止のために口腔ケアを徹底する」と書いてあります。相談員は「計画書は援助目標を書いてあるので、口腔ケアの回数を言っているのではありません」と理解を求めましたが、娘さんは納得してくれません。口腔ケアは1日何回やるべきでしょうか?《事例検討解説》
■施設サービス計画書は契約書である
施設サービス計画書は相談員が言うように、ケアプランのように援助目標を記載するものなのでしょうか?実は施設サービス計画書は、契約書と同等の法的拘束力がありますから、計画書に記載してしまったら、契約条項と同じ意味を持ちます。ですから、施設サービス計画書に記載したことを実行しなければ債務不履行、つまり契約違反となります。
施設と利用者との間で締結される契約内容は、入所契約書のみで決まる訳ではありません。通常入所契約を取り交わす時には、入所契約書と重要事項説明書に印鑑を押しますから、この2つの書類が契約書であると思われていますが、そうではありません。
入所契約書や重要事故説明書には全ての契約者に共通する一般的条項しか記載されていません。施設の個別の利用者にどのようなケアを具体的に提供するのかは、施設サービス計画書に記載されて初めて明らかになるので、計画書も契約書の一つなのです。ですから本事例のように、 「誤えん性肺炎防止のために口腔ケアを徹底する」と記載した場合、他の利用者と同じ回数では徹底したことにならず、少なくとも1日4回以上の口腔ケアを約束したとみなされます。
■「歩行は常時見守り必要」と計画書に記載したが
本事例のように、口腔ケアの回数であれば家族に説明して理解を求めることもできますが、もっと重要な事項を間違って記載して大きな問題になった事例があります。あるデイサービスで、認知症の利用者が椅子から急に立ち上がって、そのまま転倒して骨折してしまいました。デイサービスでは、「急に立ち上がって転倒した場合、職員は対応しきれない」と理解を求めましたが、家族は「通所介護計画書に“歩行は常時見守りが必要”と書いてある。見守ってくれなかったから転倒した」とデイの責任を追及してきました。
通常防ぎきれない事故であれば、過失にはなりませんから賠償責任は発生しません。しかし、通所介護計画書に「常時見守り」と書いてしまったら、見守らずに転倒させれば契約違反になり、債務不履行として賠償責任が発生します。利用者を常時見守ることは不可能ですから、できないことは計画書に書いてはいけません。
■契約書であるという認識で作成を
以上のように、施設サービス計画書などの介護計画書は、個別利用者に具体的にどのようなサービスを提供するのかを記載する重要な契約書なのです。しかし、計画書の内容をチェックしてみると、本事例のように「徹底する」「努力する」などの曖昧な表現が多く、いざという時トラブルになりかねません。施設のケアマネジャーは、介護計画書が契約書であるという認識で、できる限り正確な表現で記載する必要があります。
ある施設のケアマネジャーが、本人が希望しているからと言って「年内に墓参りに連れて行く」と計画書に記載して問題になりました。何の相談も受けていない介護主任は「ほとんど寝たきりで外出には危険が伴うので絶対に無理だ」と主張します。家族が「ご厚意はありがたいのですが、うちのお墓は高い階段の上にあるのでとてもたどり着けませんよ」と言ってくれたので、幸いトラブルにはなりませんでした。
居宅介護支援事業所のケアマネジャーが作成するケアプランであれば、「援助目標」の欄に“墓参り”と書いて、実現に努力する旨を記載しても良いのですが、施設サービス計画書は、提供するサービスを記載する契約書ですから、慎重に作成しなければなりません。
- 02/22
20252025.02.22- 前夜転倒し経過観察中に利用者を何も知らないPTがリハビリを施行
《検討事例》
認知症があり自力で歩行できる老健の利用者Kさんが、夜間居室で転倒しました。手当てをした看護師は骨折の可能性があるが、痛みがひどくないので翌朝の受診としました。ところが、翌朝受診同行のために家族が来所し、居室に行ってみるとKさんが居ません。居室担当の介護職員に尋ねると、「PTが来てリハに連れて行った」と言われ、「転倒した母にリハビリをするとはどういうことだ?」と家族が激怒しました。受診するとKさんは大腿骨を骨折しており、老健では「介護職員が申し送りを聞き逃したことが原因」と謝罪しました。《事例検討解説》
■申し送りを聞き逃した職員のミスだろうか?
老健側はKさんの転倒事故の報告を聞き逃した居室担当の介護職員のミスとして謝罪しましたが、PTも少し注意が足りませんでした。PTは機能訓練を行う前に、利用者の心身の状況を正確に把握し、機能訓練に適した状態であるかを的確に判断しなければなりません。体調がすぐれない、関節などの痛みがある、認知症の利用者で精神状態が安定していないなど、リハビリ(機能訓練)に支障があるような状態であれば、施行を中止しなければならないからです。
しかし、認知症の利用者本人から生活状態や前日の出来事を詳細に聞き出すことは難しく、毎回機能訓練のたびにチェックを徹底することは困難です。ですから、Mさんを機能訓練に連れ出す前に、Mさんの心身の状況などについて情報が確認できるような仕組みを作っておかなければならないのです。居室担当やPTのミスとして問題を片づけてはいけません。
前日の晩に転倒して応急処置をして経過観察中というのは、「ひょっとしたら骨折しているかもしれないし、頭部を打撲しているかもしれない」という、容態が不明確で不安な状況にありますから、Mさんに関わる全ての職員が転倒事故の情報を共有して絶えず気に掛けるべきなのです。介護職員でも転倒の情報を知らなければ、いつもと同じ方法で排泄の介助をしてしまうかもしれません。
Kさんのベッドの床頭台の近くの壁に「○月○日夜転倒あり、経過観察中です」と転倒の情報を貼っておくだけでも、PTはKさんを機能訓練に連れ出すことは避けられたはずですし、他の職員が関わる時にもその安全に配慮ができます。
■事故直後に全職員が情報を共有する仕組がない
前述のように、「転倒したが経過観察中」という状態は、正確な容態は不明で受診方針も未決定な宙ぶらりんの状態で、対応が難しい状況にありますから、骨折などの最悪のケースを想定して、職員は慎重に対応しなければなりません。
そのためには、本事例のように口頭での報告・連絡を徹底して、全ての職員が情報共有を図ることも大切ですが、以前と異なり職員の勤務シフトが複雑になり、職員が集合して申し送りということが難しくなってきました。日勤、夜勤の他に早出・遅出など出勤時間が異なる職員が増えているのです。すると、口頭では徹底することが難しくなりますから、事故報告書やヒヤリハットシートなどの帳票を使って全ての職員に知らせる必要が出てきます。
しかし、事故報告書もヒヤリハット報告書も事故直後に起票される訳ではありませんから、翌朝経過観察中の時点では提出されていない施設がほとんどでしょう。ですから、Kさんが前夜転倒して経過観察中という情報を全ての職員が共有するということは、どの施設でも難しくなっているのです。では、事故直後に全ての職員がKさんの前夜の転倒の事実と経過観察中であるという状況を、情報共有するためにはどのような仕組を作ったら良いのでしょうか?
■経過観察中の利用者の情報共有の方法は?
本事例の施設では、Kさんの家族からのクレームを重く見て、経過観察中であっても転倒などの事故の事実を職員全員が情報共有する仕組を作ることになりました。まず、転倒などの事故が発生して経過観察する場合には、経過観察と判断した直後に「事故速報」という簡単な帳票を作って、ナースステーションの掲示板と、居室の壁に貼り出すことにしました。
この「事故速報」を初めは手書きで書いてコピーし貼り出していましたが、後日事故報告を定型フォーマットに入力することになり、パソコンで入力して速報用の出力用紙を打ち出すようになりました。同じ入力フォームから「事故速報」「市報告用」「法人報告用」「再発防止策記入用」など、様々な出力フォームを作って同じことを何度も書かなくて済むようにしたのです。
このように考えると、従来からの事故報告書は事故が発生すると翌日くらいには起票し、同時に事故原因や再発防止策が記入するのが習慣になっていました。しかし、迅速に事故事実を共有するための速報は発生直後に必要になる一方で、原因分析や再発防止策を記入する用紙は、現場でカンファレンスを行いじっくり時間をかけて検討しなくはなりません。つまり、事故報告書は速報機能や、現場でカンファレンスをして報告する機能など、多様な機能が必要なことになります。1枚の用紙で「事故が起きたらすぐに出しなさい!」では、原因分析も再発防止策も十分に検討できないのです。
■ショートの事故がデイに伝わっていない
本事例の施設では、事故速報を出すようになってからは、現場の職員が事故情報を迅速に共有できるようになりました。ところが、次のようなトラブルが起きて再び見直しの必要に迫られました。
Mさんは施設のショートステイを利用中に転倒して、手首をねん挫してしまいました。そして、以前から利用していた同じ施設の併設デイサービスを、ショート退所後に再び利用しました。ところが、デイの職員が「Mさんがレクリエーションに参加してくれないと盛り上がらないから」と執拗に誘って、レクリエーションに参加させてしまったのです。家族は「転倒してケガをしているのに、デイでレクリエーションをさせるとはどういうことか?」とクレームになりました。
ショートステイと併設のデイサービスを利用している利用者から見れば、「同じ施設なのだから転倒したことはデイにも連絡されているはず」と考えるのです。ところが、ショートで起こった事故などの情報は、併設デイサービスには伝わっていませんから「同じ施設なのに配慮が足りない」というクレームになるのです。今度は併設の施設との事故情報の共有の方法を考えなければなりません。