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20252025.07.09- デイの送迎車が追突され利用者が脳梗塞、なぜデイの責任が問われるのか?
《検討事例》
Hさん、(68歳男性)は、軽度の左半身麻痺で杖歩行の比較的元気なデイサービスの利用者です。ある8月の暑い朝、Hさんを居宅前で乗せて送迎車が発進しようとすると、“コツン”と小さな音がして軽く車に追突されてしまいました。追突した車両の運転手は謝罪し、送迎車に乗っていたHさんと運転手に「救急車を呼びましょうか?」と言いましたが、Hさんは「大丈夫だからいい」と断りました。送迎車のドライバーは、デイサービスに連絡を入れ「大したことはないので、現場検証が終わり次第Hさんをお連れする」と伝えました。Hさんは警察の現場検証が終わるまで30分以上送迎車内に留まり、珍しそうに車を出入りしては検証の様子を見て、その後も興奮してデイに着くまで話し続けていました。
ところが、Hさんはデイサービス到着直後に悪心とめまいを訴え、血圧を測ると200-120(mmHg)と異常値です。続いて意識混濁が現れたため、看護師が病院に救急搬送しました。Hさんは高血圧の発作から脳梗塞を起こしており、2週間後に退院しその後もリハビリを続けましたが、歩行困難で車椅子全介助となってしまいました。その後Hさんの息子さんから連絡があり「加害者の保険会社から“追突事故と脳梗塞に因果関係はない。その後のデイの対応が問題なのではないか?”と言われた」と言うのです。デイサービスでは「追突事故の被害の責任がデイサービスにある訳がない」と責任を否定すると、息子さんが訴訟を起こしました。《解説》
■デイサービスの事故に対する責任を検証してみたら
Hさんの脳梗塞による身体の障害に対する責任は誰にあるのでしょうか?追突した加害者は被害車両に乗っていた人の、事故後に起きた脳梗塞の責任まで負うべきなのか検証してみましょう。まず、Hさんは身体に何のショックも受けていませんから、衝突の力によってHさんの身体には何の作用も無かったことになります。つまり、この追突事故とHさんの脳梗塞には、「直接的な因果関係が無い」ことになります。直接の因果関係が無い損害でも、「追突にビックリして転倒した場合」など、因果関係が認められることもありますが例外的でしょう。事故で骨折し入院し肺炎で亡くなっても、死亡は事故の直接の損害とは通常認められないのです。
また、加害者は被害者に対して救急車の要請を申し出ており、警察の届け出も行っていますから、事故発生時に被害者に対して行うべき道路交通法上の義務(事故発生時の救護措置)を全て果たしています。すると、加害者(実際には保険会社)の“事故と脳梗塞には因果関係が無い”という主張は正しいことになり、Hさんの脳梗塞の責任を追突事故の加害者(保険会社)に負わせることは、どうやら難しそうです。
では、息子さんが言うように、Hさんの脳梗塞による損害に対してデイサービスの責任はあるのでしょうか?デイサービスの送迎業務中に起きた事故で利用者に損害が発生し、デイサービス側に過失があれば、デイサービスは債務不履行として安全配慮義務違反の責任を問われます。もし、追突事故が発生した時の送迎車の運転手のHさんへの対応で、安全配慮義務違反があればデイサービスの過失として、賠償責任が問われるのです。
次のポイントで送迎車の運転手の対応の安全配慮義務についてチェックをしてみますが、デイサービスの管理者は「デイの責任もあるのでは?」と主張された時、専門家に相談するなどきちんと事故の責任を検証しなければなりません。契約に付随する安全配慮義務は広範で、しかも多くの疾患を持っているデイの利用者に対しては、健康管理上の配慮も重いのですから。■Hさんの健康管理上に対するデイの安全配慮義務は重い
次に事故発生時のHさんに対する送迎車運転手のデイサービスの安全配慮義務について、細かく検証してみましょう。デイサービスでは入所施設ほど厳密ではありませんが、ある程度の既往症や疾患などの健康状態の情報を把握し、レクリエーションや入浴など身体への負担がある場面では、基本的な健康チェックを行っています。
このように、デイサービスでは入施設と異なり高度な医療的安全配慮は求められませんが、介護のプロとしての基本的な安全配慮が必要となります。ですから、老人会や趣味のサークルの管理者と同じレベルの安全配慮では困るのです。
ではHさんの場合、デイサービスに求められる健康上の安全配慮義務はどのようなものでしょう?まず、Hさんは脳梗塞の既往症があり血栓予防薬を飲んでいますから、脱水や低カルシウム血症などには注意しなければなりませんし、打撲などの内出血でも注意が必要です。また、高血圧症もありますから、血圧上昇につながる激しい運動や高温の環境には注意が必要です。血圧降下剤として利尿剤も飲んでいることから、脱水には特に注意が必要でしょう。
ところが、事故発生時には現場検証などが必要になり、Hさんも送迎車内で30分間待たされてしまいました。Hさんは高血圧症で多発性脳梗塞の既往症がありますから、事故現場の車内に30分以上も留め置かれて、車内から出たり入ったりすれば血圧上昇と脱水が起こるかもしれません。珍しい体験に興奮すれば血圧上昇に輪をかけます。
このようなHさんの健康状態に配慮すれば、Hさんを目の前の居宅にいったん戻して涼しい場所で落ち着いてもらうこともできたはずですし、デイのスタッフを呼んでHさんだけ先にデイにお送りすることもできたはずです。もし、事故の現場検証で暑い現場に長時間留め置かれたことがHさんの脳梗塞発症の原因だとすれば、事故現場における運転手の判断は安全配慮義務を怠っていたとみなされても仕方ありません。
■どのようなアクシデントにどう対応するのか、具体的なルールが必要
さて、本事例の場合運転手の事故現場でのHさんに対する配慮を欠いていることも問題ですが、そもそもこのような状況で運転手に全ての判断を委ねて良いのでしょうか?送迎車の運行中には様々なアクシデントが予期されます。運行中に利用者が体調急変を起こすかもしれませんし、軽い事故でも動転して持病の心臓病が悪化するかもしれません。もちろん対応する運転手の能力にもよりますが、最近では外注や嘱託の運転手など介護の知識の乏しい運転手が多く、正職員が運転しているケースは少ないのが実情です。
このような介護の知識や利用者の疾患の情報を知らない運転手に対して、送迎業務中にアクシデントが発生した時、自らの判断で適切な対処を期待することに無理があるのです。多くのデイサービスでは、送迎中の予期せぬアクシデントが発生した時は、「デイに連絡を入れスタッフの指示に従う」と徹底しているから大丈夫、と言うかもしれません。
しかし、運行中に最後列のシートの利用者の姿が見えなくなり、施設に到着した時はシートに横たわっていた、という事例もあります。施設に連絡すべきアクシデントが明確になっていませんから、運転手はアクシデントの発生に気付かないのです。これではデイに連絡を入れられません。また、運転手からアクシデント発生の連絡が入っても、対応したデイのスタッフが自らの判断で適切な対応ができる保証がありません。このように、「送迎時のアクシデントへ対応方法」が場当たり的で、基本的なルールが無いことが、本事例のようなトラブルの大きな原因となっているのです。
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20252025.07.09- ヘルパーが洗濯機に給水中ホースが外れ漏水事故が発生し階下に大被害
《検討事例》
Tさんは(80歳女性)は築40年の市営住宅に独居している要介護1の利用者です。5年前に夫が亡くなり、認知症も無く生活はほぼ自立していますが、膝関節に持病があり訪問介護(生活援助)を利用しています。近所に住む一人娘が居ますが、あまり訪ねて来ないため家電製品のトラブルなどで時々困っています。
ある時ヘルパーがTさんの生活援助中に、漏水事故を起こし階下の居室に大きな損害を与えてしまいました。ヘルパーが居間で掃除機をかけている時、脱衣所に置いていた洗濯機に差し込んであった給水のホースが外れて床に落ち、流れ出た水が階下のMさん宅まで漏水したのです。Mさん(一人暮らしの女性)が怒鳴り込んできて初めて漏水に気付きましたが、階下の部屋は全室に天井から汚水が降り注いでいました。
ヘルパーはすぐ事務所に連絡し、所長とサービス提供責任者が謝罪に伺いました。階下のMさんの話によれば、3年前に別のヘルパーが同様の小さな漏水事故を起こした時、責任者が来て謝罪し「今後はずっとヘルパーが洗濯機についている」という約束で穏便に済ませ、補償を求めなかったそうです。
所長はすぐに保険会社に事故の連絡を入れ、翌々日には調査人が被害を調査すると言ってきたので、その旨をMさんの娘さんに伝えました。所長が職員やヘルパーにお願いして、水濡れした衣服や布団をクリーニング店に運ぶなど、後始末の手伝いを職員総出で行いました。
ところが、翌々日になってMさんが事業所にやって来て「保険の調査人という人が来て写真を撮って、被害のあった物品を書き出すリストを置いて行った。対応が悪すぎる。どうやってこんな汚い部屋で暮らせばいいの。あなたの会社と保険会社を訴えてやる」とすごい剣幕でまくしたてました。《解説》
■認知症がなければ居宅の設備の不備による事故は利用者の責任になる
訪問介護の訪問先が集合住宅の場合、時々本事例のような漏水事故が起きます。本事例のトラブルの原因を検証する前に、確認しておくべきことがあります。この漏水事故の賠償責任は本来誰が負うべきものなのでしょうか?この漏水事故は一見ヘルパーの過失によって起きた事故のように思われますが、洗濯機が水漏れを起こさないように適切に管理する責任は、洗濯機の所有者である利用者にあります(認知症がありませんから)。ですから、ヘルパーが洗濯中の水漏れ事故であっても、ヘルパーの使用方法に落ち度がなければ本来この事故の責任は利用者が負担すべきなのです。
ところが、話をややこしくしてしまったのは、前管理者の対応です。3年前の小さな漏水事故で「洗濯中は常時ヘルパーが洗濯機についている」などというその場逃れの対応をしてしまいました。ヘルパーが生活援助時に洗濯機の脇で見張っていたのでは仕事になりませんから、実際にはこの約束は履行不可能です。しかし、この約束は事業所と被害者が交わした示談条件とみなされますから、これを履行しなければ債務不履行となってしまいます。本事例ではヘルパーが洗濯機についていなかったのですから、債務不履行として賠償責任が発生してしまうのです。訪問介護の事故の多くが、利用者宅の設備や建物の瑕疵が原因で起こります(古い建物が多い)。たとえ小さな事故でも本来誰の管理責任なのかということをハッキリさせておかなければいけません。■被害者の健康被害の防止の対応が最優先であった
私たちが自動車事故を起こすと、被害者の示談を全て保険会社が代行してくれます。しかし、訪問介護事業者が加入している、業務中の事故の賠償責任保険は示談代行付ではありません。ですから、事故が起これば事業者は自力で示談交渉を行って解決し、支払った損害賠償金を損害保険会社が補てんすることになります。介護施設や事業者はこの保険の仕組をしっかり理解しておかなければなりません。
この事故を大きなトラブルに発展させたのは、所長が「保険会社に報告すれば適切に対応してくれるだろう」と誤解をしたことです。前述のように保険会社は被害者への示談交渉の援助はしてくれませんから、事業所が自身で判断して最も適切な被害者対応を行わなければならなかったのです。この事故の場合、大量の漏水によって天井裏から汚水が降り、部屋全体が水浸しになるような状況だったのですから、衛生的に大きな問題があり住人の健康被害の防止に対してまず対応しなくてはなりません。
具体的に言えば、ルームクリーニングを手配して衛生上の問題がなくなるまで、被害者家族はホテルなどで暮らしてもらうようにしなければなりません。また、保険会社の判断にもよりますが、家財道具が全て汚損したのであれば家財が全損扱いになる可能性があります。この点も調査人ではなく保険会社に直接確認しなければなりません。たとえ物損事故であっても、被害者への対応は事業所が適切に行わなければなりません。
■居宅の環境リスクを改善するのはケアマネジャーと家族である
さて、このような居宅サービスでの事故のトラブルを防止するために必要なもう一つの視点は、ケアマネジャーとの連携です。この利用者は近所に娘が住んでいる独居の利用者ですから、事業者がどんなに奮闘しても、利用者の生活上のリスクへは十分な対応はできません。必ず家族の援助が必要となりますし、家族と事業者の協力関係をコーディネートして、利用者の生活を支えるのもケアマネジャーの大きな役割です。
ケアマネジャーは、居宅サービスの事業者がサービス提供を開始する時に、安全なサービス提供ができる環境かどうか居宅内をチェックし、もし危険な環境があれば家族に改善を依頼したり、ケアマネジャー自身で住宅改修の手配を行わなければなりません。どのケアマネジャーも居宅の環境リスクに無関心であり、居宅サービス事業者も現状の環境のままサービス提供に入ってしまいます。そして事故が起きればヘルパーの不注意などとして、事業者の過失となってしまうのです。
居宅のサービス提供環境を改善できるのは、ケアマネジャーと家族だけで事業者はできません。ケアマネジャーにもっと居宅の環境リスクへの対応姿勢を持ってもらいたいと思います。
- 07/09
20252025.07.09- 兄の許可で施設の広報誌に利用者の写真を掲載し弟とトラブルに
《検討事例》
特別養護老人ホームS苑では、「S苑便り」という施設の広報誌を月1回発行しています。できるだけ利用者の生活の様子が伝わるように、写真なども掲載し生き生きと生活する利用者の情報が伝わるように努めています。また、「地域に開かれた施設を目指す」という施設の方針から、自治会や町会、在宅支援センター、地域包括支援センター、在宅ケアマネ、福祉センターなどにも送付しています。もちろん、利用者の写真や氏名の掲載については、本人と家族の了解を得ることも忘れないようにしています。
ある月の「S苑便り」で、利用者の「お気に入り」を紹介することを企画し、Uさんが大切にしている赤ちゃんの人形を取り上げ、人形を抱いて微笑んでいるUさんの写真を掲載することになりました。もちろん、相談員がUさんのキーパーソンである長男に電話で企画の内容を話し、Uさんの写真の掲載許可を得ることも忘れませんでした。
ところが、翌月S苑便りが発行されると、Uさんの次男から次のようなクレームがありました。「近くの福祉センターに用事があって言ったら、パンフレット立てにS苑便りが置いてあって、母の写真が大写しで載っていた。しかも、赤ちゃんの人形を抱いて薄笑いを浮かべていて、あれでは認知症だと分かってしまう。一体誰の許可を得て、掲載しているのか?」と。施設長は、「掲載の許可はキーパーソンのご長男にいただいているので問題ない」と、説明しました。
ところが、その後キーパーソンの長男から次のような強いクレームがありました。「弟から母の写真について文句を言われた。『母の写真を掲載するから了解して欲しい』と言われたが、赤ちゃんの人形を抱いている大写りの写真だとは思わなかった。配慮が足りない。それにS苑便りが福祉センターのパンフレット立てに入っているとは思っていなかった。そんな誰の目にも触れるような場所に置くのは、ちょっと常識に欠けるのではないか?」
施設長は、「今後Uさんの写真は掲載しない、福祉センターにはパンフレット立てに置かないように注意する」と約束して、長男の納得を得ました。《解説》
■広報誌の配布先も説明しなければ利用者の個人情報は掲載できない
本事例がトラブルとなった原因は、広報誌掲載への家族の了解の取り方にあります。施設長は、「掲載の許可はキーパーソンのご長男にいただいているので問題ない」と主張していますが、相談員が電話で「広報誌に掲載させて欲しい」と話し家族が「いいですよ」と言っただけで、本当に了解を得たことになるのでしょうか?
特養入居者の個人情報は身体機能や知的能力にハンディがあるという人の情報ですから、センシティブ情報と言われる極めてプライバシー性の高い情報です。このような重要な個人情報を紙媒体で多くの人に伝えるのが広報誌ですから、その媒体への掲載には細心の注意を払わなくてはなりません。本事例の場合、少し配慮が欠けていると言わざるを得ないでしょう。
まず、どのような文脈でどのような写真が掲載されるのかを、家族に確認してもらっていません。ですから、「あんな写真が載れば認知症だと分かってしまう」と家族からのクレームにつながってしまったのです。また、この広報誌がどこに配布されるのかを全く説明していませんから、「福祉センターのパンフレット立てに置いてあったことを咎められてしまったのです。広報誌が利用者の家族や職員など限られた人しか配布されないケースと、地域に広く配布されるケースでは、家族の判断は大きく異なるでしょう。
このように広報誌の掲載については、必ず次の2点を確認しなければなりません。
①ゲラの段階で実際の誌面を見せて了解を得る
②広報誌の配布先も説明して了解を得る
施設が利用者の生き生きと生活する様子を広報したい気持ちはわかりますが、「ホームページに写真を載せる」「外出行事の写真を掲示する」「利用者の作品を展示する」など、利用者の写真や氏名を公表する時には、誰に個人情報が伝わるのかをきちんと確認し家族に説明する必要があるのです。■利用者の個人情報の取扱いルールを説明し家族の了解を得る
本事例のような、介護保険利用者の個人情報を巡るトラブルは、近年増加傾向にあります。その理由は、個人情報保護法が施行され利用者の家族が個人情報に対して敏感に反応するようになったことも一因ですが、施設側で利用者の個人情報の取扱いに対するルールが明確になっていないことが、大きな要因になっているのです。
例えば、利用者の描いた絵(作者の氏名が付された)を特養の1階のエントランスに掲示したところ、家族から「こんな人目に触れるところに掲示するな」とお叱りを受けました。この特養は、1階は事務所・厨房・デイがあり、2階から5階が居室のスペースになっているのです。つまり、1階は不特定多数の人が出入りするパブリックスペースであり、2階以上が居室だけのプライバシースペースですから、掲示するのであれば利用者の居室のあるフロアに限るべきなのです。
このような利用者の個人情報を巡るトラブルを避けるためには、家族の心情に配慮した個人情報の取扱いルールを作り、これを家族に説明して同意を得ておかなければならないのです。ただし、全ての家族に個別に同意を求めることは難しいので、通常は「黙示の同意」という方法を使います。施設側でルールを作ってこれを家族に説明して「施設としてはこのルールで取扱いますがご了解いただけない方は申し出ていただければ個別に配慮します」という同意取り付けの方法です。■利用者の個人情報の取扱いルールは様々な場面を想定する
では、どのような個人情報の取扱いに対してどのようなルールを作れば良いのか、トラブル事例を参考に例を挙げて考えてみましょう。
①従来通り受付の1冊の面会簿に面会者の氏名を記入してもらっていたら「これでは、どの利用者に誰が面会に来たのか一目で分かってしまう」とクレームになった。
・面会簿は単票形式(面会者一人が1枚記入)か、利用者別のファイル方式に変える。
②『昔の知り合い』と名乗る人からの電話の問い合わせに、利用者の様子を詳しく伝えたら家族からのクレームになった。
・電話では相手の確認が取れないので、原則利用者についての情報を伝えず、電話があったことを家族に知らせる。ただし、キーパーソンや近親者からの緊急の用件にはお答えする。
③複合施設の廊下にデイサービスが花見の写真を掲示したら、家族からクレームがあった
・複合施設の廊下は各施設の共有のパブリックスペースですから、デイサービスの利用者の個人情報を掲示してはいけません。デイサービス内部の掲示板に掲示すべきです。
④知的障害の施設のホームページに利用者の写真をアップして家族のクレームとなった
・インターネットにアップされた情報は、全世界のどこからでもアクセスできます。つまり、個人情報の配信先は紙媒体などとは比較になりませんから、原則アップしないというルールが適切でしょう。
このような個人情報の取扱いルールを作る時に留意したいのは、知的なハンディを持つ利用者の個人情報の取扱いです。知的障がい者や認知症の利用者の個人情報は、公開もしくは流出すれば即人権侵害につながる超センシティブ情報ですから、公開不可というルールにした方が安心です。
また最近、施設の新入職員が利用者の顔写真を「写メして」SNSの写真投稿サイトに投稿して、訴訟寸前のトラブルに発展した事例もありますので、個人情報の取扱いについて職員研修の徹底を図ることをお勧めします。
- 07/09
20252025.07.09- インフルエンザに感染し肺炎で死亡したのは施設の責任だと主張する家族
《検討事例》
Bさん(95歳女性)は要介護5で自発動作の少ない重度の利用者で、胃ろうを造設している特養に入所しています。施設では11月から各居室に多くの家庭用の加湿器を設置し加湿することで、インフルエンザの感染防止に努めています。また、家族にも感染症防止のため極力面会を控えるよう通知しています。ところが、1月5日に3人のインフルエンザ感染者が発生し、居室配膳などの感染拡大防止策を図りましたが、完全に居室内に隔離することができませんでした。それ以降施設内では、感染者が10人に増え、Bさんも38度の熱を出しました。インフルエンザを疑いましたが、その後熱も上がらず他の症状も見られないことから風邪と判断しました。1月15日に娘さんが「新しい下着を買ってきた」と久しぶりに面会に来ましたが、インフルエンザの感染者が発生していることを理由に、面会を断り下着を預かりました。Bさんの容態については、風邪で38度の熱があるが心配ないと説明しました。
ところが、その3日後の朝9時に施設から娘さんに突然電話が入り、「お母様の容態が悪いので病院に来て欲しい」と言います。娘さんが病院に駆けつけると、医師は「肺炎で今夜が峠です。どうしてこんなになるまで放っておいたのか…」と告げました。Bさんは2日後に亡くなり、医師はインフルエンザの感染による肺炎の併発が死因であり、もっと早く受診すべきだったと言いました。
Bさんの娘さんは「私が面会に行った時母のインフルエンザ感染を隠すために面会を拒否した。受診が遅れて死亡したのは明白」と、看護記録の提出と説明を求めました。すると、受診の前夜0時に著明な喀痰と喘鳴がありSPO2が88まで下がっていることが分かりました。娘さんは「肺炎への対処が遅れたことに過失は明白、施設の責任を追及する」と言っています。《解説》
■重度の利用者は感染症を発症しても症状が分かりにくい
「胃ろうで全介助、自発動作も僅か」という利用者は、感染症に感染し発症しても症状が出にくいと言われています。インフルエンザ固有の症状は、突然の「高熱」や、関節痛、筋肉痛、頭痛、全身倦怠感、食欲不振などの「強い全身症状」ですが、これらの健常者ではインフルエンザ感染時に見られる特徴的な症状が、自発動作の少ない重度の高齢者では全く出ないことがあります。感染症で強い症状が出るのは感染症のウイルスに抵抗する体力や免疫力が十分にあるからで、体力・免疫力の低下が顕著な高齢者は感染して発症しても顕著な症状が出ないケースが多いのです。
肺炎の併発でも同じことが言えます。施設では「前夜0時に著明な喀痰と喘鳴、SPO2低下があり、翌朝緊急受診させた」と言っています。しかし、いくら免疫力が低下した利用者でも、発症後9時間でこれほど重篤な状態になるでしょうか?肺炎についても、著明な症状に気付く以前から肺炎に感染し症状が進行していたのに、気付くのが遅れた可能性があります。肺炎の受診遅れとBさんの死亡の因果関係が立証されれば、おそらく施設は過失として賠償責任を問われるでしょう。
ある施設では、胃ろうで寝たきりに近い利用者に対しては、介護職が巡回時に表情や呼吸の状態をていねいに観察し、変化があれば看護師によるバイタルチェックを行うというルールを作りました。また、高齢者ではバイタル値の個人差が大きいため、平常時バイタル一覧表を作りその乖離が大きい場合は受診としています。■面会による感染の防止は家族の自主的な配慮に任せ面会制限はしない
「感染症の防止のため」という理由で、施設は家族の面会を制限することができるでしょうか?もちろん、インフルエンザを発症している人がマスクも付けないで面会に来られては困ります。しかし、高齢者施設より厳重な感染管理が要求される病院でさえも、家族の面会を制限できるのは本人が重篤な状態で医師の指示(面会謝絶)による場合など、ごく限られたケースだけです。精神福祉法においても、保護入院や措置入院の精神疾患の患者に対する通信や面会の制限を規制しているのです(36条・37条)。ですから、高齢者施設では入所者の感染症防止のためであっても、家族の面会まで制限するのは行き過ぎで、面会による感染の防止については家族の自主的な配慮に任せるべきでしょう。
ところが実際には、「高齢者は抵抗力がない」などと一方的な判断根拠で面会を事実上制限している施設があります。本事例のように、面会を制限している期間に本人に重大な変化が起きれば、「施設は知られたくないことがあるので面会させなかった」と必ずトラブルになります。家族にとって“見えないものは分からない、分からないものは不審に感じる”のですから、容態変化の連絡もせずに急変すれば「隠していた」と受け取られます。
最近介護付き有料老人ホームでも、キーパーソンの家族の要望を安易に受けて、施設が特定の家族の面会を拒否したため大きなトラブルになりました。本人が家族に会いたくないと意思表示をしていない限り、施設が家族との面会の制限はできないことを徹底した方が良いでしょう。
■行き過ぎた感染防止対策より低免疫力者への重度化リスク対策を
胃ろうの利用者や寝たきりで重度な利用者は、感染のリスクが高い訳ではありません。免疫力・体力の低下している利用者は、発症リスクと重度化リスクが高いのです。高齢者施設の感染症対策全般に言えることですが、「施設に感染症を入れるな!」と感染防止ばかりに気を取られていますが、発症リスク対策と重度化リスク対策はなおざりなのです。
そもそも感染症対策は、次の3つのリスク区分に分けて効果を検証して実施しなくては、効果的な対策はできません。
①感染リスク対策:感染(体内に病原体が侵入する)防止のための対策で、感染機会の低減と衛生行動が中心となる。
②発症リスク対策:感染症に感染した時発症を抑制する対策で、予防接種や免疫力や体力の維持が中心となる。
③重度化リスク対策:感染症を発症した時重度化を防ぐ対策で、発症の早期発見と受診、慢性病の悪化や肺炎の併発の防止対策が中心となる。
このように3つに区分して対策を検証すれば、本事例の施設は感染リスク対策に偏り行き過ぎた面会制限を実施しているにもかかわらず、発症リスク対策や重度化リスク対策が欠落していることが分かります。肺炎の併発の原因の8割が肺炎球菌への感染ですから、肺炎球菌ワクチンの接種も重度化対策では大変有効です。また、胃ろうやターミナルの利用者など重度化リスクの高い利用者が増えているのですから、高齢者施設でもゾーニング(衛生管理レベルを患者の感染リスクに合わせて区分すること)という考え方が必要になるのではないでしょうか?■高齢者施設の感染症対策は見落としだらけ、見直しが必要
前述のように高齢者施設では、感染防止対策に偏り重度化対策が遅れていることも問題ですが、全体的に対策の効果が検証されておらず、ムダな対策や見落としが多いことが大きな問題です。例えば、家庭用の加湿器を各居室に配備して1日に何度も給水作業に追われている施設を見かけますが、加湿によるインフルエンザの感染防止効果は検証されているでしょうか?インフルエンザウイルスへの対策で加湿効果が有効なことは証明されていますが、相対湿度で40%以上確保できなければインフルエンザの感染防止効果は期待できませんから、30%程度の加湿しかできないほとんどの施設では効果が無いことになります(※)。
また、家族に感染防止のために面会制限を行っておきながら、かかりつけ医への定期受診などの際1時間も狭い診療所の待合室に滞在しています。感染機会が最も高い場所は満員電車よりも診療所の待合室なのです。車の中で待機して順番になったら呼んでもらえば、感染リスクは大幅に改善することができます。同様に「ノロを施設に入れるな」と声高に対策を呼びかけながら、一方で食事介助を行う職員の着衣が、他の介助時と同じものなのです。袖なしのエプロンではなく袖のある上着を着用しないのでしょうか?
このように、高齢者施設の感染症対策は、その効果や見落としなどの検証がされないまま漫然と行われているケースが大半です。対策の見直しにより職員のムダなロードを減らすことも、より良いケアの提供につながるのではないでしょうか?
※「高齢者福祉施設等における感染症予防のための環境衛生管理(多摩府中保健所)」より
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20252025.07.09- 「弟に会わせるな」という身元保証人の要求に従ったら弟が現れトラブルに
《検討事例》
Mさん(83歳男性)は、脳梗塞による左半身麻痺と軽度の認知症がある、介護付き有料老人ホームの入居者です。入所前は長女と二人で暮らしていましが、Mさんに認知症が発現したことから、介護付き有料老人ホームに入居しました。Mさんは資産家で長女も経済的にはかなり恵まれており入所について問題はありませんでしたが、一つだけ長女の要求に施設が難色を示しました。
入所時に緊急連絡先の家族を3名記入していただくようにお願いしましたが、長女は「私一人でいいでしょ。いつでも必ず連絡とれるから」というのです。施設では「他のご兄弟や親しいご親戚はいらっしゃいませんか?万一連絡が取れない時に困りますから」と言うと、「弟がいるけれど絶対に連絡はしないで」と、他の兄弟の連絡先を頑として書きません。
仕方なく緊急時の連絡先はキーパーソンの長女一人ということになり、無事に入所しました。ところが、入所から半年くらい経過した頃、Mさんの息子という人から電話があり、「父がそちらに入居していると聞いている。会わせてもらいたい」と言ってきました。施設ではすぐに長女に電話で問い合わせましたが、長女は「弟が来ても絶対に父に会わせないで」と強く要求します。
ところが、長女への電話の直後に弟が施設に来てしまい、仕方なく相談員が相談室でお会いしました。すると、弟は「姉は父の財産を自分の自由にしている。近く法的手段に出るつもりだ。施設も姉に加担しているのであれば同じように法的な手段を取る。そもそも息子を親に会わせないとか、危篤になっても連絡もしない、というのは許されることではない」と主張します。
仕方なく相談員の判断で職員立ち合いのもとに、Mさんと弟を面談させました。すると3日後に、「弟から”父に会った“と連絡が来た。なぜ会わせたのか?約束が違う。今後訪ねて来ても二度と絶対会わせないで」と強く申し入れてきました。しかし、弟は帰る時に「また会いに来る」と言い残していました。《解説》
■身元保証人の要求でも施設は入所者の面会制限はできない
施設では、入所時に身元保証人(キーパーソン)の家族から、特定の兄弟などに「会わせないで欲しい」と要望されることがあります。入居者に認知症があって意思表示ができなければ、キーパーソンの家族の要望は、通常施設にとっては本人の希望とみなされ施設はこれを受けてしまうことがあります。
しかし、本事例のように「会わせないで」と要望された面会制限の対象者が、施設に乗り込んできた場合トラブルになるのは必至です。施設に乗り込んできて面会を拒否された家族は、当然「施設が家族の面会を制限するのは不当である」と訴えます。いくらキーパーソンの要望でも、特定の家族の面会を制限することができるのでしょうか?
私たちは基本的人権の下で人と面会する自由を保障されていますので、感染症法や精神福祉法などの例外措置を除きこの権利を制限されることがありません。ですから、たとえ身元引受人の家族であっても、正当な理由なく利用者の面会を制限することはできませんから、たとえ家族の依頼であっても施設はこれを引き受けてはいけません。人の面会の自由を制限できる主なケースは次の表の通りで、高齢者施設の管理者の権限で入所者の面会を制限できるのは、高齢者虐待防止法13条における虐待を行った養護者に対する面会制限だけです。
【参考】人が他人と面会することを制限できるケース(主なもの)
①医師の判断で療養上・診療上必要と判断された場合(面会謝絶など)
②感染症法に定められた感染症の罹患による場合(ただし、診断が確定してない時点で隔離はできない)
③高齢者虐待防止法やDV防止法で、面会制限の措置や家裁の接近禁止命令を受けている者
④精神福祉法における精神患者への医療・保護の限度において、医師の判断で面会を制限される場合(ただし、信書の発受と人権擁護行政機関の職員との電話と面会はいかなる場合でも制限できない)
⑤拘留中または拘置中の被疑者などが外部の人や弁護士と面会する場合■兄弟の意見が異なる場合施設はその是非を判断できない
施設は管理者に面会制限の権限が無いことを知らずに、キーパーソンの姉の依頼を請け負ってしまいましたが、もともと面会制限を請け負うことに無理があります。実際に本人が目の前に現れて、「息子なのだから父に会わせろ」と要求されたら、これを力づくで阻止できるはずがありません。おまけに施設管理者はMさんの息子に対する面会制限をする権限を持っていませんから、乗り込まれて面会の正当性を主張されると太刀打ちできません。
姉との約束を破って一度面会させてしまえば、その後も弟は面会に来るようになるでしょうから、キーパーソンの姉から「二度と会わせないで」と言われてもできる訳がありません。面会制限を安請け合いしたことから、施設は家族同士の争いに巻き込まれて、板挟みになり身動きが取れなくなってしまいました。では、施設はこの姉弟にどう対応すれば良かったのでしょう。
まず、キーパーソンの姉から面会制限の依頼を受けた時に、施設は原則入所者の面会を制限できないことを、きちんと説明しなければなりません。具体的には、面会制限は市町村の措置や家裁の命令などがある場合に限られることを説明し、面会制限したい事情を聴いて、本当に面会制限が必要であれば、市町村の措置や家裁命令についても相談に乗らなければなりません。面会したい弟と面会させたくない姉の間に入って、どちらの言い分が正しいかを決めることは施設の仕事ではありませんから、家族同士で解決してもらわなければなりません。■介護サービスなど施設業務以外の問題は家族の合意が必要
面会制限の要望だけに限らず、入所者の家族同士の意見が異なるために、施設は利用者に対する対応で悩まされることがあります。しかし、施設がどちらの意見が正当かを判断することはできませんし、キーパーソンの家族だけの意見に従うと他の家族の意見が正当であった時困ります。では、家族同士の意見が異なる時には、施設はどのように対応したら良いのでしょうか?
介護付き有料老人ホームでは、身元保証人の権利と義務が契約書や管理規程で一定明確にされていますから、居室に関する問題などでは身元保証人の意思が優先されます。また、介護サービスについても介護計画書に基づいて実施されることから、やはり介護計画書を承認し印鑑を押す身元保証人(主たる介護者の家族)に一定の決定権があります。
しかし、施設業務の本来業務ではない入所者の生活上の問題などについては、家族同士の意見が異なると施設はどちらにも加担することはできませんから、家族同士が合意した上で決定してもらうよう説明しておく必要があります。最近では家族同士の争いや意見の相違が頻繁に起こりますから、家族の合意が施設の対応の前提になることを明確にしておきましょう。
■身元保証人でも入所者の財産を奪う行為は高齢者虐待である
さて、最後に弟が来所した時「姉は父の財産を自分の自由にしている」と発言していることに、少し注意しておかなければなりません。兄弟間の争いの中には、介護を全面的に引き受けている長女などが親の資産などに対して権利を主張することがありますが、中には親の資産を自分のために使ってしまう子供もいます。親の資産を子供が不当に処分する行為は、高齢者虐待防止法第2条4項のニの経済的虐待(※)に該当します。
もし、弟さんのいう通りMさんの長女がMさんの資産を不当に処分するような行為をしているのであれば、たとえ疑いだけであっても施設は通報義務を負っていますから、これを聞き流してはいけません。施設は、入所者のプライバシーに関与せざるを得ないと同時に、家族同士のプライバシーにも否が応でも関わってしまいます。いたずらに親族間の争いに関わると大きなトラブルに巻き込まれますが、入居者本人の権利が不当に侵害されているような場合これを見過ごしてはいけません。
※養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
- 07/09
20252025.07.09- デイの送迎車が飛び出してきた子供をひき逃げして逮捕、なぜ?
《検討事例》
Rさんは、一部上場の有名企業を62歳まで勤め上げ定年で円満退職しました。ヘルパー2級の資格を取り、あるデイサービスに送迎車の運転業務の嘱託社員として採用されました。就職して1ヶ月後のある日、Rさんは利用者を送迎した後施設に戻る途中で、一時停止を無視して飛び出してきた小学生と危うく衝突しそうになりました。Rさんは興奮して大声で「一時停止しなきゃダメじゃないか!」と強く叱り、転倒した小学生は「ごめんなさい」と謝ったので、Rさんはそのままデイサービスに戻り業務を終了しました。Rさんはデイサービスに戻ってから、「子供が飛び出してきて衝突しそうになった」と運転日誌に書きました。
ところが、転倒した小学生は自宅に戻り母親に「車にぶつかって自転車が壊れた」と訴えました。その上、足には擦り傷ですがケガをしています。母親は車の素性を問いただしましたが、子供は「“デイサービス”という字は読めたが、あとは分からない」と言います。母親はすぐに警察に電話して、被害届を出しました。警察ではひき逃げ事件として扱い、5人の警官が一晩中周辺のデイサービスを捜索しました。明け方、車両に傷のあるひき逃げ犯のものと見られる、デイサービスの車両が発見され、Rさんはひき逃げの疑いで逮捕されてしまいました。
警察から事情聴取を受けたデイサービスの所長は「長年有名企業を勤め上げ、真面目で協調性があり、ゴールド免許だったので採用した。まさか、ひき逃げをするとは思わなかった」と言いました。しかし、その後Rさんは前職で、経理や財務を専門に担当していたため、社用車の運転経験がほとんどないことが判明しました。《解説》
■交通事故発生時の運転者の救護義務は重い
本事例のトラブルの直接的な原因は、運転手が交通事故発生時の対処を誤ったことです。一時停止無視とは言え、送迎車にぶつかりそうになり転倒した小学生を放置したまま運転手がその場を立ち去ったことは、重い道路交通法違反行為です。たとえ衝突していなくても、自転車の小学生が転倒してケガをしていれば、救急車を呼び警察に届け出なければならないことは、自動車運転手の常識です。
道路交通法では、交通事故を「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」と定義しており、同法72条2項では交通事故発生時の自動車運転者の義務を「負傷者の救護義務」「警察への報告義務」と定めています。ですから、本事例ではたとえ送迎車両が自転車と接触していなかったとしても、交通事故に該当しますから、負傷者の救護義務と警察への報告義務が発生するのです。特に救護義務違反はいわゆる「轢き逃げ」に該当する罪の重い行為ですから、逮捕されても仕方ありません。
ちなみに、交通事故発生時の運転者の義務違反には行政処分だけでなく刑事罰があり、負傷者の救護義務違反に対しては、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金、警察への報告義務違反でも3月以下の懲役又は5万円以下の罰金という刑罰が科されます。この運転手も免許の点数や行政処分だけでは済まされないでしょう。【参考】道路交通法72条1項
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
■シルバー人材の安全運転適性は職歴における運転経験である
では、なぜ60歳を過ぎた自動車運転経験の長い真面目な人が、免許取りたてのドライバーのような初歩的なミスを犯したのでしょうか?後日判明したことですが、この運転手は前職の会社で経理・財務畑一筋であり、会社の業務用車の運転経験がほとんどありません。仕事で社用車を運転する必要が無い人は、休日にマイカーしか運転しませんから、俗に言うサンデードライバーです。運転経験が少なく、自動車事故を起こした経験もないので、常識的な判断もできなかったのでしょう。
ですから本事例のトラブルの本当の原因は、運転手の非常識ではなく、前職の運転経験を確認せず安全運転適性のない人材を施設が採用してしまったことなのです。事故発生時の対応などを含む広い意味での安全運転能力は、自動車の運転経験に比例します。仕事で毎日車を運転する人は、事故に遭遇することもあるでしょうから、対処の方法を経験から学びます。介護の資格を持ち協調性があっても、肝心要の安全運転能力が一般のドライバーよりひどく劣る人材を運転手として採用してはいけません。車椅子を3台も載せるような大きな送迎車は、車体が大きく内輪差もあり、乗用車の運転に慣れている人でさえ危険が伴うのですから。
定年退職者の安全運転能力は、前職での社用車の運転経験に左右されますから、これらの人材を運転手として採用するには、前職での社用車の運転歴や事故の経験なども、厳しくチェックする必要があります。■送迎エリアの危険個所を発表する勉強会が効果的
では、前職での運転経験が豊富な定年退職者を採用すれば、どんな場面でも安全運転ができるでしょうか?デイサービスの送迎車に必要な安全運転能力は多岐にわたり、その難しさはタクシーや路線バスなどの職業運転手に近いかもしれません。
なぜなら、時間の制約の中で幅の狭い生活用道路を運転し、同時に障害のある車内の利用者の安全にも配慮しなければならないからです。道幅の狭い生活用道路で子供が飛び出せば急ブレーキを掛けて、車内の利用者がケガをするかもしれません。
では、運転手として採用した人材に対して、どのような安全運転教育を行えば良いのでしょうか?大変ユニークな取組をしている事業者がありますのでご紹介します。この法人では10か所あるデイサービスの運転手を3ヶ月に一度一か所に集めて、安全運転勉強会をやっています。毎回当番になった運転手が自分の送迎経路の地図を用意して、「どの場所にどのような危険がありどのような安全運転を行っているか」を発表するのです。
ある時の勉強会で、ベテランの運転手が次のように発表しました。「この保育園の裏口付近はお迎えのママさんの陰から園児が飛び出してくるので最徐行です」と。すると他の運転手が「私の経路にも同じような場所がありますが、他の道を通りそこを通らないようにしています」と意見を言い、しばらくの間議論が盛り上がりました。この勉強会によって、デイサービスの送迎車に必要な安全運転ノウハウが共有できるようになったのです。
■送迎車運転手の業務の誤りをチェックしフォローする体制を!
最後にデイサービスの業務手順に触れたいと思います。たとえ送迎車の運転手が「小学生が一時停止無視し自分で勝手に転んだのでこちらに非は無い」と誤解しても、この誤りを報告させチェックする仕組みはなかったのでしょうか?運送業やタクシー会社に限らず、業務用車を多く使用する会社では、ドライバーが運転業務終了時に「運転日報記入」と「業務終了時報告」を行うのが決まりになっています。運転日報を記入して上司に提出し、口頭でその日の運行業務について報告するのです。
本事例の運転手が交通事故の対応誤りに気付かなくても、業務終了時に報告していれば、すぐに上司が気づいて警察に出頭し逮捕と言う事態にはならなかったはずです。シルバー人材の方はみな違う業種から転職してきた方で、送迎車両の運転経験がある人は皆無でしょう。重要な誤りに気付かないことがあれば、施設でフォローしてあげなければなりません。
- 07/09
20252025.07.09- 脳梗塞発作の顕著な症状に気付かず救急車要請が遅れたサ高住の相談員
《検討事例》
Sさん(男性・81歳)は東京都のサービス付き高齢者向け住宅に居住し、訪問介護サービスを受けています。5年前に脳梗塞を患い軽い半身麻痺があるものの、比較的自立度が高くお元気な入居者です。ある日の朝、生活相談員が食堂に来るとSさんがソファに座ってテレビを見ています。生活相談員は、朝食が用意できたので相談員がSさんに声をかけましたが返事がありません。相談員が様子を見に行くと、何か言おうとしていますが言葉が聞き取れません。相談員は寝ぼけていると思い、他の入居者の朝食の対応をしました。他の入居者が朝食を終えようとしても、まだSさんはソファに座ってテレビを見ています。相談員が再びSさんを見に行くと今度はおかしな表情をして何か訴えているようですが、相談員は居室に戻る利用者への対応に追われ、Sさんに対応しませんでした。
しばらくして訪問介護のヘルパーが施設に訪問介護サービスに来て、Sさんを見て「なんだか様子がおかしいよ、かかりつけ医に連絡したら」と言いました。相談員が医師に電話を入れると、医師から「すぐに救急車を呼んで下さい」と指示され、Sさんは救急搬送されました。救急搬送先の病院でSさんは脳梗塞の発作と診断され入院しましたが、半月後に亡くなりました。息子さんは、「ヘルパーでさえ様子が変だと気付いたのに、相談員が気づかずに対応が遅れた。契約書には緊急時対応サービスと書いてあるのに対応しなかった」として、サ高住事業者の損害賠償責任を主張し裁判に訴えると言っています。《解説》
■高齢者の発音や表情に異変があれば脳血管障害を疑うべき
本事例のトラブルの原因は、Sさんが脳梗塞の発作を起こした時に、相談員が適切な対応をしなかったことです。脳梗塞などの脳血管障害の発作への対応では、迅速な医療機関への搬送が重要ですから、Sさんが脳梗塞で亡くなったのは相談員が迅速な救急搬送を怠ったためと言われても仕方ありません。
具体的には次の対応が不適切とみなされるでしょう。
①「声をかけても返事をしない」「何か言おうとしているが聞き取れない」というSさんに対して寝ぼけていると思い他の入居者の朝食の対応をした。
②他の入居者の食事が終わっても席に付かないSさんを見に行くと今度はおかしな表情をして何か訴えているようですが、相談員は忙しく対応しませんでした。
高齢者であれば脳血管障害の発作を起こしやすくなりますし、Sさんは5年前に脳梗塞を患っていますから、「言葉がうまく話せない」「表情がおかしい」などの状況は脳血管障害の発作を疑うべきでしょう。これらの状況はまさに緊急時対応の場面ですから、家族が「契約書には緊急時対応サービスと書いてあるのに対応してくれなかった」ので事業者に賠償責任があると主張するのは当然です。しかし、訴訟を起こして事業者の賠償責任を主張するためには、生活相談員の対応が契約内容に反しているか、法律に違反していると立証しなければなりません。生活相談員の対応は契約違反による債務不履行や法令違反に当たるのでしょうか?■生活相談員の対応は過失として賠償責任を問われる可能性がある
ご存知のように、サービス付き高齢者向け住宅で提供される生活支援サービス(介護保険外サービス)は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」に基づく都道府県の「高齢者居住安定確保計画」で定めるとされています。そしてサービス内容は、基本サービス(必須サービス)と希望に応じて提供される選択サービスに分かれます。高齢者住まい法では、基本サービスを生活相談と状況把握(安否確認)と定めていますが、東京都の高齢者の居住安定確保プラン(高齢者居住安定確保計画)では、緊急時対応サービスを基本サービスに含めています。
ですから、本事例のSさんの脳梗塞の発生に対する生活相談員の対応は、東京都が定める緊急時対応サービスの内容を満たさなければなりません。東京都の緊急時対応サービスの内容は「高齢者向け住宅における生活支援サービス提供のあり方指針」によって、次のように定められています。
ア事故、急病、負傷等入居者の緊急事態に迅速かつ適切に対応できる体制を整備すること。
イあらかじめ入居者、入居者の家族、成年後見人等、かかりつけ医等と対応方針を定め、緊急事態が発生した場合は速やかに適切な措置を講じるよう努めること。
ウ(省略)
では、入居者に緊急事態が起きた時、「迅速かつ適切に対応できる体制の整備」「緊急事態が発生した場合は速やかに適切な措置を講じる」とは具体的にはどうすべきなのでしょうか?次の2点が必要と考えられます。
①入居者に緊急事態が起きた時、入居者の状況を的確に判断し適切な対応をすること
②緊急事態発生時の対応方法を決め、全ての職員が適切に対応できるようにしておくこと
本事例では、相談員の目の前で入居者に緊急事態が発生していますから、居室で発生した場合と異なり、緊急事態に気付くことが可能な状態にあった訳です。では、この状況を見て相談員は目の前の利用者が緊急事態に陥っていることに気付かなければならないのでしょうか?
脳梗塞の既往症のある高齢者と同居している家族であれば、脳梗塞の発作が起きた時の症状を知っているのが普通です。ちなみに脳梗塞の発作が起きた時の特徴的な症状は「ろれつが回らない」「唇や顔の片側が動かなくなる」「片方の手や足が上がらない」などです。サ高住の相談員は高齢者介護に関わるプロですから、入居者の家族の知識より劣るようでは困ります。では、生活相談員はどのような能力が必要とされるのでしょうか?
生活相談員に必要とされる資格は「社会福祉士・精神保健福祉士・社会福祉主事任用資格もしくは介護支援専門員・介護福祉士の資格または介護施設での介護の実務経験が1年以上(東京都)」とされています。上記の「資格者」であれば、脳梗塞発作の発生に気付くことが可能だと考えられますが、介護施設での介護実務経験が1年以上だけでは緊急時に適切に対応ができる保証はありません。当然、事業者は緊急時対応をマニュアル化し、教育訓練を実施し相談員が緊急時に「迅速かつ適切に対応できる体制の整備」をしなければなりません。本事例が訴訟になれば、相談員がSさんの脳梗塞の発作に気付かなかったことが過失とされるかもしれません。■安否確認サービスでも緊急対応の必要な場面がある
さて、緊急時対応サービスの具体的な内容を事業者も管理者も把握しておらず、マニュアル化もされていなければ、相談員個人の能力に頼らざると得ません。当然、教育や訓練を受けていない相談員は、緊急時に適切な対応ができるはずがありません。
しかし、緊急時の対応が適切にでない事業者はこの事業者だけなのでしょうか?他の事業者は緊急時対応をマニュアル化したり教育訓練を実施するなど「迅速かつ適切に対応できる体制の整備」をしているのでしょうか?実はサ高住におけるサービス提供でトラブルが絶えないのは、制度が要求するサービス内容に対して、実際の事業者の体制が追い付いていないことにあります。当然制度が要求するサービス内容は、家族が要求する最低限のサービスレベルでもありますから、事業者のサービス提供体制・能力が低ければトラブルが起こるのです。
そもそも、制度が求めるサービス内容と制度が規定する要因体制(要員や職員の資格要件)が、全くかけ離れているのですから、要員体制を満たしてもサービスレベルは確保されないのです。例えば、生活相談員は日中に常勤1名確保すれば良いですし、前述の通り相談員は介護施設での介護経験1年以上でも可能です。
安否確認サービスは決められた業務を行えばできますし、相談サービスも入居者の求めに応じるだけですから難しくありません。しかし、入居者の動作や言葉から体調を判断して対応する緊急対応サービスは、対応する職員の能力の個人差が大きく現れますから、これらを全ての人材に教育することもかなり難しいのではないでしょうか?
ところで、どの自治体でも安否確認は基本サービスに含まれています。安否の確認だけは巡回するだけでもできますが、安否確認巡回時に体調の異変が起こっている入居者がいれば、緊急対応サービスと同じことを求められます。まさか、安否を確認さえすれば緊急事態に陥っている入居者に対応しなくても良いという訳ではないでしょうから、これも制度の要求と実際の要因体制は一致していません。
- 07/09
20252025.07.09- 認知症の利用者が肉団子を喉に詰めて窒息、嚥下機能に障害は無いから過失ではない?
《検討事例》
Kさん(91歳男性)は認知症が重い要介護4の特別養護老人ホームの入所者です。食欲は旺盛で自力で摂取できるものの、時々手づかみで大量に食べ物を口に入れたり、口に食べ物を入れたまま早口で勢い良くしゃべるので、日頃から職員が注意して気付けば声をかけています。
ある日、Kさんが夕食に出された肉団子をそのまま口に入れて噛まずに飲み込んだため、喉に詰まり苦しみ始めました。近くで他の利用者の食事介助をしていた介護職がすぐに気付き、背中を叩きながら看護師を呼びました。看護師はすぐに吸引をしましたが、喉の奥に見えている肉団子の塊はビクとも動きません。看護師はすぐに救急車の要請を指示し、駆けつけた救急隊の救命士は喉の奥に見えている鉗子で肉団子を壊し掻き出しましたが、心肺停止となり病院に搬送しましたが病院で亡くなりました。
連絡を受けて病院に駆けつけて来た娘さんに対して、看護師が次のように説明しました。「Kさんは、認知症があったので食べ方は少し問題がありましたが、大変良くお食べになられていました。飲み込みも良く誤えん事故の危険は全く考えられませんでしたから、職員も気づいて手を尽くしたのですがどうしようもありませんでした」と。娘さんは「ではこれは事故ではないとおっしゃるのですか?」と反論しました。看護師は「もちろん事故ですが不可抗力による事故で、介護計画書でも普通食で自力摂取と書いてあります。お嬢様もこちらに印鑑を押されています」と説明しましたが、娘さんは黙ったままでした。翌週、Kさんの娘さんから電話があり「知り合いの弁護士に相談したいので、父の事故について調査報告書が欲しい」と言ってきました。施設では「えん下機能に障害が無く普通食と介護計画書に記載されている」と無過失を主張したため、後日訴訟が提起されました。《解説》
■事故直後の家族の心情を害する対応は大きなトラブルに発展しやすい
施設利用者が事故で救急搬送され亡くなってしまった時、施設の過失が明らかであれば管理者が病院に急行して家族にきちんと謝罪することで事故後のトラブルがある程度避けられます。では、施設の過失が無い場合や不明な場合はどうしたら良いでしょう?「たとえ死亡事故であっても過失が無ければ無いと主張すべきだ」という意見もあるかもしれません。しかし、誤えんによる死亡事故でしかも事故直後のタイミングでは、絶対に施設の無過失を主張してはいけません。
理由は2つあります。一つ目の理由は誤えん事故の過失の有無は判断が極めて難しいので、後に「実は過失が判明した」という時に大きなトラブルに発展する可能性があるからです。2つ目の理由は、事故で利用者が亡くなって数時間も経たないうちに「施設に過失は無い」と断言すれば、「施設に過失は無いと頭から決めてかかっている」と家族に受け取られるからです。満足な調査もしないで施設の責任を回避することしか考えていない、などの強烈な悪感情を引き起こします。
では、本事例のこの場面ではどのように家族に対応したら良いでしょうか?まずお悔やみの言葉を申し上げ、本人への哀悼の意を表することが社会常識に叶っているでしょう。そして、「事故の詳細についてはきちんと調査した上で後日お伝えする」と説明すれば良いのです。しかし、施設にとっては悩ましい問題があります。救急搬送された時点で重大事故になるのか予測することはできませんから、重大事故になってしまった時救急搬送に同乗した施設職員がこのような場面で適切な家族対応ができる保証がありません。ですから、「利用者が救急搬送された時は、オンコール当番の相談員が病院へ急行する」などの対応の備えをすると良いでしょう。■介護計画書は為すべき安全配慮義務を約束したものではない
次は施設が「介護計画書には普通食とあり家族も印鑑を押している(了解している)ので、施設には過失がない」と主張していることが問題です。介護計画書の内容通りに介護サービスを提供すれば、施設は契約上の債務を履行したことになるのでしょうか?介護計画書は本人や家族の要望を聞いて、中長期の生活目標を決めてこれに必要なサービス提供を計画するものですが、家族が要望しなければ計画しなくて良い訳ではありません。施設は介護の専門家としての高度な知識や技術を駆使して、本人と生活のために必要な介護サービスを積極的に提供しなくてはなりません。ですから、介護計画書に家族が印鑑を押したからと言って、「ここに書いてあるサービスだけ提供して下さい」と意思表示したことにはなりません。
では、介護計画書と安全配慮義務とはどのような関係になるのでしょうか?介護計画書に事故の防止に関して記載することは悪いことではありません。介護計画書には事故防止のためにすべき安全配慮の内容が網羅されている訳ではありませんし、家族の押した印鑑は「計画書通りに介護してくれれば他の安全配慮はしなくて良い」と言う意味ではありません。
最近では、「家族にも事故の危険について理解してもらう」という意図で、リスク説明書などを作成して家族に捺印させている施設がありますが、この印鑑を押すことに何の法的意味があるのでしょうか?もし、事故が起きた時「ご家族もこのような危険についてはご理解いただきましたよね、印鑑も押していますし」と言って、過失が無いことを主張したらどうでしょう?おそらく消費者契約法に抵触し、印鑑には法的効果は無いとされるでしょう。軽々に印鑑を押させて利用者の権利を制限することは許されません。■丸呑みして窒息の危険のある食べ物は必ず切り分けて提供する
施設の看護師は「えん下機能に障害は無く普通食なのだから誤えんの危険はなかった、事故は不可抗力だ」と説明していますが、この説明は間違っています。認知症の利用者は摂食機能に障害が無くても「安全な食べ方ができない」というリスクがありますから、これらの対策を怠れば事故が起きた時過失と判断されます。
具体的には、「詰め込み」「早食い」「丸呑み」などの、窒息につながるような食べ方をすることです。口いっぱいに食べ物詰め込んで、喉に詰めて窒息するというような事故がどの施設でも起きます。私たち健常者はその知的能力によって、無意識のうちに安全な食べ方をしていますが、認知症の利用者は知的能力の低下によって危険な食べ方をしてしまうのです。ですから、認知症の利用者が多い施設では、「お匙を小さくする」「器を小さくして小盛にする」「ゆっくり食べるよう促す」など様々な配慮をしています。
では、「時々手づかみで大量に食べ物を口に入れる」という行為がある認知症の利用者に対して、肉団子を切り分けずにそのまま盛り付けることは安全配慮を欠いていないでしょうか?高齢者に関わる管理栄養士であれば、「直径3㎝くらいの丸い食べ物は丸呑みをした時、咽頭口部に引っかかって窒息する危険があるので切り分けるべき」と指摘します。するとこの施設では他の施設では一般的にやっている防止対策を講じていなかったことになりますから、Kさんの誤えん事故は「あらかじめ肉団子を切り分けて提供すべきところこれを怠った」とみなされ過失と判断されてしまいます。ある管理栄養士は、「認知症の利用者が丸呑みしやすい食材は貼り出して、全て切り分けて盛り付けるようにしています」と話してくれました。■死亡事故では調査報告書を求められることもあるので準備が必要
本事例では、事故の調査報告書を要求されましたが対応せず、無過失であるという主張を繰り返したため訴訟を提起されてしまいました。施設では事故の調査報告書を作成したことがありませんから、何を調査して何を報告して良いか全く分からなかったのです。では、事故の後にこのような要求をされたらどのように対応すれば良いのでしょうか?
この事故調査報告書は弁護士に見せて過失の有無を判断してもらうための資料だと言っているのですから、誤えん防止のためにすべき安全配慮の具体策(誤えん防止策)を挙げ、これらの実施状況を記録と共に説明すれば良いのです。誤えん事故防止のための安全配慮の具体策は「誤えん事故を未然に防ぐための対策」と「誤えん発生時の適切な対処」の2つに分かれます。具体的には次のように多くの項目を調査しなければなりません。
①事故を未然に防ぐ対策
・摂食えん下機能を正しく評価していたか?
・服薬によるえん下機能の影響をチェックしていたか?
・摂食えん下機能に合った食材を選択していたか?
・摂食えん下機能に対応する食事形態を選択していたか?
・認知症固有の誤えんの危険に対して配慮をしていたか?
・誤えんを防ぐ正しい食事姿勢への配慮をしていたか?
・食前に口腔機能を円滑にするための配慮をしていたか?
・食事を急がせないよう時間的余裕の配慮をしていたか?
・嘔吐物を誤えんしないよう体調不良に配慮していたか?
②事故発生時の対処
・長時間見守りが途絶えるようなことはなかったか?
・食事中に挙動の異常や変化を見逃さなかったか?
・誤えんを発見した時介護職は迅速に看護職に伝えたか?
・重篤な状況の場合心肺蘇生などの対処を行ったか?
・看護師は気道確保のため迅速に対応を行ったか?
・救急車の要請を迅速(7分以内)に行ったか?
・タッピングや吸引などが適切に施行できるよう訓練を行っていたか?
今後は重大事故が発生すれば、このように調査報告書を求められることも考えられますので、書式などを決めておくと対応しやすいのではないでしょうか?
- 07/09
20252025.07.09- 誤薬発生後に看護師が経過観察、利用者は急変して死亡し刑事告訴
《検討事例》
ある特養のショートステイの服薬時に、利用者の取り違えによる誤薬事故が発生しました。利用者T・Sさん(女性92歳、体重32kg)は自らの薬を服薬した上に、同じ姓の利用者T・Yさん(女性66歳、体重55kg)の薬を誤って飲まされたのです。服薬介助前の利用者の確認のルールは、「介護職員が利用者の氏名をフルネームで声に出して読み上げ、職員2名でチェックする」というルールで、職員はルール通りにチェックを行いましたが利用者を取り違えました。
誤薬した看護師は家族連絡をすることもなく、T・Sさんの身体に重大な影響はないものと判断し、受診せず経過観察としました。しかし、経過観察中にT・Sさんは意識不明となり、病院に救急搬送されましたが、2日後に病院で亡くなりました。T・Sさんが誤薬した薬と自分自身の薬は次の通りでした。
●T・Sさんが間違って飲んだ薬:血圧降下剤(フロセミド錠)40mg、血糖降下剤(ピオグリタゾン塩酸塩錠)30mg
●T・Sさん自身の服薬:血栓塞栓症予防薬(ワルファリンカリウム錠)5mg、認知症症状進行抑制剤(ドネペジル塩酸塩錠)20mg
T・Sさんを治療した医師によると、「ピオグリタゾン塩酸塩錠の医薬品添付文書情報では、ワルファリンカリウム錠は併用注意とされており、ワルファリンカリウム錠がピオグリタゾン塩酸塩錠の血糖降下作用を増強して低血糖症を招いた可能性がある」と説明しました。遺族は看護師を業務上過失致死で警察に刑事告訴しました。《解説》
■最悪のケースを想定して事故対応マニュアルを見直すべき
高齢者施設の事故発生時対応マニュアルをチェックしてみると、多くの施設で誤薬事故の対応ルールが甘過ぎることが分かります。具体的には「家族連絡のルールが徹底していないこと」と「受診判断を看護師に任せていること」です。その結果誤薬事故が発生しても、ほとんどのケースで、利用者を受診させずに看護師が経過観察しているのが実態ですし、経過観察記録さえ残っていません。
間違って他人の薬を飲まされるという重大な事故が発生しているのに、なぜ多くの施設が家族連絡もせず経過観察をしているのでしょうか?考えられる理由は一つです。「誤薬しても利用者の身体に重大な影響は起こらないと考えている」からです。何らの損害も発生しなければ家族に黙っていても分かりませんから、誤薬事故の家族連絡すらしないという施設も多いのです。しかし、間違って飲ませた薬が利用者の身体に重大な悪影響を与える危険はゼロではありませんから、事例のように最悪のケースでは誤薬事故が死亡につながることがあります。
誤薬事故が利用者の死亡という重大な結果につながる可能性があり、最悪の場合どのような厳しい罰則が適用されるのかということを再認識して、事故対応マニュアルを見直し対応ルールを変えなければなりません。その根拠を細かくご説明します。■間違って服用した薬の影響は医師でなければ判断できない
誤薬事故も様々なケースがありますので、それぞれ対応について明確にする必要があります。誤薬事故とは次のようなケースを言います。
①薬の取り違えや人の取り違えによって、他人の薬を誤って服薬させた場合
②服薬すべき薬の服薬させなかった場合
③服薬時間・服薬量を誤って服薬させた場合
④処方と異なる薬の形状で服用させた場合(故意に錠剤を砕いて飲ませるなど)
このように、誤薬事故の形態も様々ですが、特に重大な結果を招くのは①の「他人の薬を誤って服用させた場合」です。このケースの誤薬事故だけは、例外なく即時受診というルールを守らなければなりません。では、間違って他人の薬を飲んだ場合に考えられる身体への重大な悪影響を、本事例のケースに当てはめて考えてみましょう。
①血糖降下剤は低血圧傾向の人が服用すると、低血糖症を発症して生命にかかわる危険がある
②間違って飲まされた薬と自分の服薬との相互作用によって、薬効が増強される場合がある
③少量から開始し副作用に留意し暫時増量すべき薬を、いきなり規定量を服用して副作用が出る
④年齢差と体格差によって上記作用がさらに増強される恐れがある
本事例でも医師が指摘したように、T・S自身の血栓塞栓症予防薬と血糖降下剤は併用すると、血糖降下作用が増強されることがあり、血糖値が正常な利用者でも低血糖症に陥る危険性が高かったのです。また、年齢差と体格差からも悪影響が強くなった可能性もあります。
■経過観察という判断は看護師には許されていない
次に誤薬させた結果死亡という最悪のケースとなった本事例では、経過観察と判断した看護師が遺族から警察に業務上過失致死で刑事告発されてしまいました。遺族の刑事告発が受理され検察が起訴するかどうかは不明ですが、検察に起訴されて刑事告訴される可能性が高いと考えられます。では、なぜ誤薬させた介護職員ではなく、経過観察と判断をした看護師が刑事告発されてしまったのでしょうか?
誤薬させた薬がその利用者の身体にどのような影響を与えるかの判断は、医学上“診断”に該当するので医師免許を持っている人にしか許されません。つまり看護師が「身体には重大な影響はないものと判断し経過観察とした」と言う行為は、医師法違反になるのです。極めて高い注意義務を要求される看護師という国家資格者が、医師法に法律に違反して他人を死に至らしめたのですから刑事告発されるのは当然でしょう。
施設によっては、「誤薬させた時にかかりつけ医に連絡をして指示を仰ぐ」というルールにしている場合もありますが、厳格な医師は「本人を診察していないので電話では申し上げられません」と断られてしまいます。また、感冒薬や胃腸薬など生命にかかわる危険が少ない薬の場合、「かかりつけ医に連絡しさらに家族連絡の上了解を取る」というルールの施設もありましたが、医学の知識のない家族の了解が後のトラブルで役立つとは思えません。■誤薬事故を減らすことは難しくない
誤薬事故発生時の対処が甘くなる原因の一つとして、誤薬事故が多すぎることが挙げられます。誤薬発生時の対応を厳格にするためには、誤薬事故を減らすための防止対策の工夫が必要になるのです。利用者の氏名を読み上げるというチェック方法は、本人確認の方法として効果的と言えるでしょうか?ある施設では、利用者の顔写真を食札に貼り付けて本人確認をしています。ショートステイとデイサービスは利用者の取り違えによる誤薬が多いので、この顔写真作戦はかなり効果があります。
私たちでも社会生活上本人確認を求められることがありますが、必ず「免許証を見せて下さい」と言われます。顔写真で本人確認を行うことが最も簡便な方法で効果的だから、社会生活でも行われているのです。手間ばかりかかって効果の低いチェック方法は、マンネリ化し職員の意識も低くさらに効果が低くなりますから見直さなければなりません。人の目は異常を感知する自然の力があると言われ、目に映るようにすることでチェックの効果が飛躍的に向上するそうです。
顔写真によるチェックを導入して効果があったこの施設では、食札にデジカメで写した薬の画像も貼りつけました。先日、服薬させようとしたら手に取った薬が写真と違っていたので原因を確認すると、一包化をした調剤薬局のミスと分かりました。一包化された調剤薬局のセットを間違いないと信じて薬の確認をしていない施設がたくさんありますが、ミスはどこでも発生するのです。
- 07/09
20252025.07.09- ショート初回利用で認知症利用者が異食、家族から異食癖の情報が無かった
《検討事例》
Xさん(女性78歳)は、身体には障害はありませんが、認知症が重い利用者です。居宅では息子さん夫婦と同居しており、ケアマネジャーの勧めで初めて老健のショートステイを利用することになりました。入所予定日の2日前に相談員が居宅へやってきて、Xさんの心身の状態や介助方法などについて確認をしました。この時、面談した相談員は「お母様は認知症があってこちらの言うことは理解できませんね」とだけ質問し、息子さんも「はいそうです」と答えました。
ところが、入所の初日にXさんは脱衣室のキャビネットを開き、カビ取り洗剤の詰め替え用のボトルを開け、中身を飲んでしまいました。口腔内に刺激があったためか、すぐにボトルを放して大きな声を出したため、介護職員が看護師を呼びました。看護師はすぐに病院への救急搬送を指示、搬送先の病院では口腔内・咽喉頭・食道・胃を内視鏡で検査し、喉頭蓋の組織壊死から窒息の危険があると判断し気管挿管を行いました。口腔から胃壁まで消化器官壁の損傷が激しく長期の入院となりました。
病院に駆けつけて来た息子さんに対して、老健の事務長が事故についての説明をした際「お母様に異食癖があるとはお聞きしていなかったので、注意していませんでした。事前にお聞きしていれば防げたのに残念です」と言いました。すると息子さんは「認知症で言葉が理解できないか?と聞かれたから、そうだ、と答えたが、他には何も聞かれなかったじゃないか。」と言いました。その後も老健では、過失はないものと判断し補償などの積極的な対応は一切しなかったため、息子さんは市に苦情申立を行いました。《解説》
■過失の判断が難しいケースは事故直後の説明を避ける
この事故が大きなトラブルになった原因は、事故直後の事務長の軽率な発言です。「異食癖があることを家族から聞いていなかったから事故が防げなかった」と、事故の責任は異食癖を施設に申告しなかった家族にあると言わんばかりです。事故直後に家族が病院に駆けつけて来たような場面では、家族は大変ナーバスな状態です。利用者は重篤な容態なのですから、事故の責任を回避するような発言は差し控えなくてはなりません。実際に事故直後の家族対応場面での発言が原因でトラブルにつながっている例は大変多いのです。
また、単純な介助ミスによる事故と異なり、異食事故は過失の判断が大変難しい事故です。自力歩行中の転倒などと同様に過失の判断が難しい事故では、事故直後は避けて後日改めて説明させていたほうが良いのです。「現時点では事故直後ですので、正確な事故状況や事故原因などが判明していません。至急必要な調査をした上で私どもの法的な責任についても後日正式に説明させていただきます」と説明すれば、家族のも施設が責任を持って対応してくれると安心してくれます。事故直後に過失の説明を避けた方が良いケースは次の3つです。
① 自力歩行中の転倒など自発動作による事故で過失判断が難しいケース
② 施設の過失がないことを説明するようなケース
③ 死亡事故など利用者側の被害が重大なケース
事務長という職責が家族説明に対して不適格と言う訳ではありませんが、重篤な状態で救急搬送されたような場面には、管理者や相談員、ナースなどこのような場面の対応に慣れている方が対応する方が良いかもしれません。■認知症利用者のリスク情報の把握は施設の義務である
次の問題は、施設側は「家族が異食癖について申告しなかったので事故が防げなかった」と主張していますが、息子さんは「聞かれなかったから答えなかっただけだ」と反論していることです。もしこの事故が訴訟になったら、施設は家族から異食癖について聞いていなかったことを理由に過失を否定できるのでしょうか?家族は認知症利用者のBPSDの状態を聞かれなくても自主的に申告する義務があるのでしょうか?
答えはNOです。家族は異食癖について施設に申告する義務はありません。認知症がある利用者であれば、BPSDなど認知症利用者固有のリスクについて、施設が家族から情報収集しなければならないのです。運営基準8条3項には「介護老人保健施設は、入所申込者の入所に際しては、その者に係る居宅介護支援事業者に対する照会等により、その者の心身の状況、生活歴、病歴、指定居宅サービス等の利用状況等の把握に努めなければならない」とありますから、利用者のリスク把握は施設の義務と言うことになります。
実際、家族面談に行っても利用者のBPSDについて積極的に話してくれる家族はほとんどいません。「BPSDが重いと利用を断られるかもしれない」と心配するので積極的に話してくれませんから、相談員はBPSDなどリスク情報の聞き取りにも工夫をしなくはなりません。もともと聞き出しにくい情報ですから、「失礼なことをお聞きして申し訳ありませんが、お母様は食べられない物を口にしてしまうということはありませんか?気付かない間に家から居なくなって行方不明になったということはありませんか?」というように聞き取り話法をマニュアル化しておくと良いでしょう。「お母様は認知症があるのですね」とだけ聞いて帰ってくるようでは、相談員は失格ではないでしょうか?■異食事故の過失は異食癖の把握と危険物の管理体制で判断される
さて、前述の通りXさんに異食癖があることを把握していなかったのは施設側の大きな落ち度ですから、事故の過失判断においてもこのアセスメント不足は施設の過失を肯定する要因になるかもしれません。介護事故における施設側の過失の判断では、利用者の障害から発生するリスクを的確に把握していたかが重要なポイントになりますから。
また、この事故において明らかな過失と考えられるのは、利用者の手の届くところに異食した時に生命にかかわる危険物を収納していたことです。Xさんの他にも認知症の利用者は入所しているはずですから、異食したら即生命に危険が及ぶような危険物は施錠できるキャビネットに収納し厳重に管理しなければなりません。もっともこの施設ではカビ取り洗剤が危険物であるという認識は無かったのかもしれません。
カビ取り洗剤は浴槽洗剤や食器洗剤などの中性洗剤と異なり、異食(誤飲)すると唇・口腔・咽頭・食道・胃などに大きな損傷を与える洗剤ですから、利用者の手の届かない施錠ができる場所に収納しなければなりません。異食事故の過失判断では、異食癖の把握と共に危険物の管理体制が問われますから、事務長は過失を認めて謝罪すべきだったのです。
■異食事故の対策は3つのリスクに分けて優先順位を付ける
前述のように、Xさんだけでなくこの老健には認知症の利用者が少なからず入所しているはずですから、標準的な異食事故の防止対策を講じていなければなりません。異食事故の防止対策というと、「異食癖のある利用者から身の回りの物と遠ざける」という施設がありますが、これは間違いです。身の回り品を遠ざけると色々な場所を物色して異食しようとするため、ナースステーションなどに入り込めばかえって逆効果になります。
異食事故のリスクは大きく分けて次の3種類に分類されますから、その優先度に従って対策を徹底すれば良いのです。
■異食事故のリスク
①窒息のリスク(最も危険度が高い)
布や綿などボソボソした物を異食して喉に詰まり窒息する
②消化器損傷のリスク(強アルカリや塩素系の洗剤は危険度が高い)
鋭利な物、ボタン電池や腐食性物質(※)などを異食して消化器官に損傷を与える
③中毒のリスク(危険度が低い)
毒性の高い液体などを異食して中毒症状を起こす
※腐食性物質:ph3以下の強酸またはph11以上の強アルカリを言う。強アルカリは組織壊死の損傷が深くなる。
上記の3種類の中で最もリスクが高いのは窒息です。布団の綿やオムツのポリマーを異食する利用者に対しては職員が絶えず注意して見守り、口を動かしていたらすぐに口の中を調べないと窒息してしまいます。2番目にリスクが高いのは消化器損傷ですが、ハイターのような塩素系洗剤や強アルカリ洗剤は消化器に重篤な損傷を与えるので厳重な管理が必要です。3番目の中毒のリスクについては、あまり過敏になる必要はありません。農薬や殺鼠剤など異食したら中毒死する危険の物質は私たちの身の回りには存在しません。家庭では石油(ベンジン)、マニキュアの除光液などが中毒症状につながります。もし、利用者が異食をした時中毒が心配であれば、中毒100番(TEL 072-727-2499:365日24時間対応)に問い合わせると、異食した物品の危険度や応急処置の方法などをアドバイスしてもらえます。