【情報室】介護事故トラブル対策 一覧

  • 05/27
    2024
    2024.05.27
    面会の家族が食事介助中に誤えんで死亡

    【検討事例】長男の妻が食事介助をしていたら急変して亡くなってしまった
    頻繁に特養の入所者に面会に来る長男の妻が、いつものように食事介助を申し出たためお願いしました。ところが、介助中に利用者の顔が急にガクッと下を向いて動かなくなり、気付いた看護師が誤えんと判断し吸引を施行して救急搬送しましたが、病院で亡くなりました。病院に駆けつけて来た長男は、取り乱して泣いている妻を見て「入所者の介護は職員がやるべきではないのか?」と、施設の責任を追及します。施設長は、「介護したいとおっしゃればご家族の責任でお願いしています」と答えましたが、息子さんは納得していないようでした。施設長は相談員に「家族が介助中に起こした事故の責任は家族が負う」と一筆いれてもらおう」と言いました。
    ■家族の介助による事故で施設の責任が発生するか?
    面会の家族が利用者を介助して事故が起きても、基本的には施設の責任は問われないでしょう。面会時に家族が利用者の介助を申し出ることは珍しくなく、施設は家族に介助上の注意を伝えてお願いしています。いくら「本来施設の職員がやるべき業務である」であっても、家族の介助の申し出をむげに断れませんから、施設は事故の責任を問われては困ります。
    では、施設内の家族介助による事故で施設は責任を絶対に問われないか?というと、必ずしもそうではありません。介助業務を素人である家族に任せることに顕著な危険がある場合などは、事故が起こった時賠償責任が追及されトラブルになるかもしれません。本事例では次のような場合です。
    1.入居者に摂食えん下障害があり家族にその認識が無い場合 
    入所前は摂食嚥下障害が無くその後機能障害や機能低下が生じていて、家族がこれを知らない場合には、きちんと誤えんのリスクを説明しておく必要があります。
    2.介護職員でも食事介助が難しく、家族に任せることで明らかな危険が生ずる場合
    匙への盛り方や口への運び方や姿勢など、介助方法が難しくこれを怠ると誤えんの危険があるような場合は、家族に任せると危険です。
    3.誤えんのリスクが高く、しかも家族には誤えん発生時の適切な対処が期待できない場合
    家族は介護のプロではありませんから、誤えん発生時の救命処置が正しくできるはずがありません。
    また、取り乱す妻を気遣う息子さんの施設を咎めるような発言に対し、施設長が過敏に反応して責任回避の言葉を口にしてしまいましたが、事故直後の発言として適切ではありません。危うくトラブルになることころでした。利用者に事故が起こると、家族がその責任を追及してもいないのに過敏に反応して、すぐに施設側の責任回避ばかり主張する管理者がいます。事故発生直後のこのような管理者の責任回避の発言は、家族に対して「責任感が無い」「誠意が無い」という強烈な悪印象を与え、事故後の家族トラブルに発展するので注意しなければなりません。
    ■家族の介助に危険がある場合の対応
    さて、このような面会の家族による利用者の介助に危険がある場合、どのように対応したら良いのでしょうか?利用者の家族が配偶者であれば、介助を任せると不安があるような、少しおぼつかないお年寄りもいますが、むげに断る訳にも行きません。
    例えば「少し認知症がある夫が頻繁に訪ねて来て妻を歩かせる」「食べ物を持って来て居室で一緒に食べてしまう」などの場合、頭ごなしに「禁止」というのでは家族の気持ちに対する配慮に欠けます。完全看護の病院ではありませんから、介護職員も「余計なことをしないで下さい」とむげに断ることもできず困ってしまいます。
    では、施設長が言うように、「家族が介助して事故が起きた時には“介助中の事故は家族が責任を持ちます”と一筆入れてもらう、という対応はどうでしょうか?これも適切ではありません。ご存知のように、“事故が起きても事業者の責任を追及しません”と一筆入れてもらっても法的な効力がありませんし、このような約定をさせることは消費者軽視になりますから控えなければなりません(※)。
    少し考え方を変えてみたらどうでしょうか?施設サービスは利用者の生活を支えることですが、面会の家族も実は利用者の生活を支えています。面会の家族が利用者に寄り添って歩くことも、一緒に美味しいものを食べることも、単調な施設の入所生活の中では生活の彩であり、生活することの張りでもあり、利用者はみな元気になります。「家族と協力して利用者の生活を支える」という考え方をすれば、家族に適切な注意喚起を行った上で、安全に歩いてもらい、安全に美味しいものを食べてもらえば良いのです。
    ※消費者契約法によれば、「事業者を消費者との契約において、事業者の消費者に対する損害賠償責任の全部または一部を免除するような条項は無効とする(同法第8条)」とされています。
    ■高齢の家族への注意喚起の方法とは
     事故防止の手法として、「利用者や家族の注意を喚起する」「注意を促す」という方法があります。利用者の自発行為で起こるような事故でも、施設職員は介護のプロですから、プロの立場からリスクを予測して本人や家族に必要な注意喚起をしておかなければなりません。
    では、どのような方法で注意を喚起すれば、施設職員は介護のプロとしてやるべき安全配慮をしたことになるのでしょうか?面会の家族が配偶者のようなお年寄りであるケースも踏まえると、次のような注意喚起の方法が必要です。
    ① リスクを具体的に伝えて事故の重大性を認識させる
    お年寄りはリスクに対する想像力や感受性が衰えてきますので、事故の結果どのような重大な事態になるのかを具体的に伝えなければなりません。「転倒すると危ないですから」ではなく、「転倒して入院すれば肺炎を起こして亡くなる人もいるのですから」と説明すれば良いでしょう。
    ② 相手の理解力に即した平易な言葉で説明する
     お年寄りは語彙が豊富ではありませんし、新しい言葉や難しい言葉は分からない人が多いですから、平易な言葉で分かり易く伝えなければなりません。介護の専門用語を使ってはいけません。「誤えんしたら大変ですよ」などの専門用語はできる限り避けて、「食べ物が喉に詰まったら窒息して死んでしまいますよ」と伝えれば良いでしょう。
    ③ リスク回避の方法も具体的にアドバイスする
     リスクを正しく認識できても、これを回避する方法が分からなければ、事故は防げません。ですから、分かり易くお年寄りにもできる事故の防止方法を伝えなければなりません。「注意して食べさせてください」ではなく、具体的にどのようにすれば良いかを伝えなければなりません。「4つくらいに切り分けてお茶と一緒に召し上がって下さい」と伝えれば良いでしょう。

  • 05/27
    2024
    2024.05.27
    家族の要求する介助方法で死亡事故、施設の責任は?

    【検討事例】たとえ家族の要望でも施設は責任を問われる
    「口から食べて死んでも本望ですから」と無理な経口摂取を要求してくる家族が時々います。では、家族の要求する介助方法で介助して事故が起きたら、施設は責任を問われるのでしょうか?「家族の無理な介助方法の要求を受け入れたのだから、施設の責任はない」と主張できるのでしょうか?前述の事故は施設の過失となり賠償責任は発生すると考えられます。たとえ家族の要求する介助方法が不適切であると施設が家族に指摘していたとしても、その介助方法を受け入れて実行してしまえば、安全配慮義務違反として過失責任を問われるでしょう。
    なぜなら、家族は介護については素人であり適切な介助方法についての知識はありませんが、施設は介護のプロです。ですから、家族が適切でない介助方法を要求してきた場合は、介助方法が不適切である理由をしっかり説明し、介護方法の変更を家族に納得させた上で、適切なサービスを提供しなくてはなりません。
    法的にも、介護保険法八十七条(特養の場合)に「要介護者の心身の状況等に応じて適切な指定介護福祉施設サービスを提供する」とありますから、不適切な方法と分かっている介護サービスを提供すると、介護保険法に違反していることになってしまいます。家族を説得して介助方法を変更して、適切な介護サービスを提供する法的な義務が施設にはあるのです。
    ■どのような要求は応えられないのか決まっていない
     問題は、全ての家族の要望に応えられないにもかかわらず、「どこまで受け入れるのか、どの介助方法は断らなくてはいけないのか」その基準が明確になっていないことです。また、家族の要求する介助方法を断るのであれば、その根拠もきちんと説明できなくてはなりません。個別ケアが大切だというのですから、理由なく家族の要望する介助方法全てを断わって施設のやり方を押し通す訳には行かないのです。しかし、一方で本事例のように極めて危険と分かっている介助方法を安易に受け入れてしまえば、事故が起きた時トラブルになり責任を問われてしまいます。ですから、施設では入所時または、初回の介護計画書作成時に、正確な利用者の身体機能のアセスメントに基づき、「たとえご家族のご要望であっても、危険な介助方法の要望には応えられない」と、ハッキリ家族に説明する必要があります。
     無理な介助方法の要求は、経口摂取の要求だけではありません。「父を常時見守って転倒させないで欲しい」と要求する家族や、我流の介助方法で利用者にとって不適切な方法の要求もあります。ですから、あらかじめこれらの要望には応えられないことを説明する書面を用意しておけば、家族に対しても説明がしやすくなります。では、どのような介助方法の要望に対して、どのような理由で断れば良いのでしょうか?
    ■どのような要求は拒否するべきか?
    私たちもこれらの家族向けの説明文書を作ろうとしましたが、なかなか良い説明方法が見つかりません。そんな折、ある特養で入所時に介助方法の受け入れについて、書面で説明していると聞き見せてもらいました。入所時に次のような書面を使って家族に説明しているのです。
    《家族の要望する介助方法にお応えできない場合》
    当施設では、入所者様の介助方法についてご家族のご要望にできるだけお応えしたいと考えていますが、次のような介助方法については受け入れられませんのでご了承ください。
    ① 入所者ご本人にとって不適切と考えられる介助方法(例えば本人に苦痛が生じるようなケース)
    ② 施設業務の運営上対応が不可能な介助方法(「24時間常時見守りをして欲しい」など人員配置上不可能なケース)
    ③ ご本人の生命の危険につながるような介助方法(「口から食べて死んでも本望だ」など家族がリスクを容認している場合でも同様です)
     この介助方法の要望に対する説明は、極めて明快でご家族にとっても理解しやすいので、私たちもこの書面を使わせていただきました。この特養も以前に「口から食べて死んでも本望なので」という家族の要求を受け入れて誤えん事故で亡くなり、大きなトラブルになったことがあるそうです。
    ■家族が納得しない場合の対応
    前出の説明方法で家族が納得してくれれば問題ありませんが、中には自分の主張する介助方法に固執して施設の説明を聞き入れない家族もいます。このような場合には、「より高度な知識を持った専門家に意見を聞きましょう」と第三者の専門家の意見を聞くようにします。例えば、本事例のようにえん下機能に合った食事形態でない食事の方法を主張された場合は、「口腔外科の医師や口腔リハビリの専門家にも意見を聞いてみましょう」と、専門家の第三者に判断を委ねれば良いのです。頑なに固執するような家族で合っても、お医者様の意見は結構受け入れてくれるケースは多いのです。最近では水のみテストが改訂され少ない水の量で、えん下機能のテストができるようになりました。STによる水のみテストによって、納得してくれた家族もいます。
    しかし、最近ではご家族の中には専門的な知識を持っていて、「このメーカーのソフト食であれば、無理なく経口摂取ができる」と個別の対応に執着してくる家族もいるそうです。これらの説得が難しい家族に対してある施設長は「ちょっと乱暴な説明だけれど、私は次のように話します」と教えてくれました。「私どもの施設は介護保険という公的な制度で運営されている事業なので、利用者の生命の危険につながるような介助方法は法令で禁止されていてできないのです」と。
    また、施設長は更にこう付け加えました。「食事介助中に利用者が苦しみ出して誤えんで亡くなったら、介護職は精神的に強いショックを受けて介護職を続けられなくなる人もいます。利用者の安全も大切ですが、私たちは職員も守らなくてはいけませんから」と。

  • 03/28
    2024
    2024.03.28
    転倒骨折、入院先で死亡。キーパーソンは納得、次男が訴訟提起

    【検討事例】利用者が亡くなると兄弟が黙っていない
    特養に入所していたKさんは、ある日職員のミスで転倒し骨折してしまいました。キーパーソンの長男は「施設にお世話になっている」と、何も要求しませんでした。ところが、1週間後に入院先の病院でKさんが亡くなると、様相が一変しました。葬儀のため帰省した東京在住の次男が「施設の過失による事故で死亡した」と主張して、施設に賠償を求めて来たのです。「施設には大変お世話になったのだから」と長男が諌めても、納得しない次男は長男に相談なく賠償訴訟を起こしました。今回は、事故発生時のキーパーソン対応について考えます。

    ■キーパーソンへの依存は禁物
    この事故で施設側は、キーパーソンの長男が次男を説得してくれるだろうと安心していました。ところが、利用者が事故をきっかけに亡くなると、葬儀に集まった子から異論が出ました。次男は長男に「お兄さんは施設に世話になっているという負い目があるから」と、施設に対する弱腰な姿勢を責めます。他の子も次男と同じ意見です。次男は「私がお兄さんの代わりに施設と交渉する」と言って、施設に乗り込みます。
    ここでも、長男は「施設には大変お世話になっているから」と次男を諌めようとしました。「長男に任せておいても、施設に賠償請求はできない」と考えた次男は、東京に戻ってから弁護士を雇い訴訟を起こしたのです。相続権がある子であれば誰でも損害賠償訴訟を起こせますから、「長男が施設の味方をしてくれていたのに」と悔やんでも後の祭りです。
    この事件のように、利用者の存命中は利用者に関する全ての決定権がキーパーソンの長男に一任されていて、他の子は異議を唱えません。しかし、いざ利用者が亡くなると相続財産も絡んで様々な諍いが起こり、施設での事故にまで責任追及が及びます。キーパーソンという家族は利用者の在宅介護を経験している家族が多く、比較的施設運営に関して理解があり、施設ともコンセンサスの取りやすい存在です。しかし、他の子の中では「権利の主張もできないお人好し」という評価になってしまうのです。

    ■配偶者のキーパーソンは子に弱い
    次は、配偶者がキーパーソンという事例を挙げましょう。重い認知症の妻を献身的に介護してきた、キーパーソンの夫の事例の事例です。利用者がトイレ介助中に暴れて転倒し骨折してしまいましたが、日頃から手のかかる妻の介護に恐縮している夫は治療費の請求をしませんでした。ところが、事故の知らせを聞いて実家に帰って来た次女が、父の態度に異議を唱えたのです。「施設の過失で転倒骨折したのだから、施設が治療費を支払うのは当たり前」と、父に代わって施設に賠償請求をしてきたのです。
    利用者の妻は83歳でキーパーソンの夫は81歳です。これくらいの高齢になると家族の中の主導権は子が握っていて、父と言えどもいざと言う時には子の意見には従わざるを得ません。次女は執拗に慰謝料の金額にこだわり、二言目には「訴訟」を口にする権利主張の強い人でしたから、解決までには施設も大変苦労しました。この施設ではこのトラブル以降、利用者のキーパーソンが配偶者の場合は、必ずセカンドキーパーソンとして、子を指定してもらい人間関係を作るよう努めています。「お父様がご病気などの時に、施設から必要なご連絡をさせていただくお父様の代わりのご家族を決めて下さい」とお願いしているのです。キーパーソンが利用者の配偶者では、ご高齢ですから何があっても不思議ではありません。

    ■キーパーソンの代替わり
    18年前に特養に入所された利用者Hさん(女性)は当時78歳でキーパーソンの息子さんは56歳でした。18年経った今、ご本人は96歳でキーパーソンの息子さんも74歳になってしまいました。息子さんは会社を退職して毎日のように施設にやってきますから、施設としては息子さんと信頼関係も十分にできていて、大きな問題は起こりませんでした。
    ところが、ある時Hさんが居室で転倒して大たい骨を骨折してしまいました。相談員は、息子さんに対して「夜中にベッドから降りようとして転倒したので、防ぎようがなかった」と不可抗力であることを説明しました。しかし、突然お孫さんが来所され「介護記録と事故報告書を見せて欲しい」と言って来ました。相談員が驚いてキーパーソンの息子さんに電話をすると「今回の事故の件は息子(孫)が対応する」と言われてしまいました。
    お孫さんは53歳と働き盛りで世帯の生計維持者ですから、施設入所の祖母が入院すれば費用を負担しなければなりません。施設が気付かない間に世代交代が起こり、利用者の息子さんは既に家族の中心的存在ではなかったのです。利用者が高齢化しキーパーソンの家族も同様に高齢化してきていますから、事故が起きた時はキーパーソンだけでなく家族の決定権者が誰かを見極めて対応しなければなりません。

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