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【情報室】クレーム・トラブル対応 一覧
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20242024.09.11- 1日5回口腔ケアをすべきという家族の要求を断ったら
【検討事例】ある特別養護老人ホームに入所した91歳の女性利用者の娘さんが、1日5回口腔ケアをして欲しいと言ってきました。「以前肺炎で入院した時に、口腔ケアを徹底するように医師から言われた」というのです。「1日3回で十分口腔内は清潔にできます」と言うと、娘さんは「施設サービス計画書に書いてあるのだからやるべきだ」と言います。計画書を確認すると「誤えん性肺炎防止のために口腔ケアを徹底する」と書いてあります。相談員は「計画書は援助目標を書いてあるので、口腔ケアの回数を言っているのではありません」と理解を求めましたが、娘さんは納得してくれません。口腔ケアは1日何回やるべきでしょうか?
■施設サービス計画書は契約書である
施設サービス計画書は相談員が言うように、ケアプランのように援助目標を記載するものなのでしょうか?実は施設サービス計画書は、契約書と同等の法的拘束力がありますから、計画書に記載してしまったら、契約条項と同じ意味を持ちます。ですから、施設サービス計画書に記載したことを実行しなければ債務不履行、つまり契約違反となります。
施設と利用者との間で締結される契約内容は、入所契約書のみで決まる訳ではありません。通常入所契約を取り交わす時には、入所契約書と重要事項説明書に印鑑を押しますから、この2つの書類が契約書であると思われていますが、そうではありません。
入所契約書や重要事故説明書には全ての契約者に共通する一般的条項しか記載されていません。施設の個別の利用者にどのようなケアを具体的に提供するのかは、施設サービス計画書に記載されて初めて明らかになるので、計画書も契約書の一つなのです。ですから本事例のように、 「誤えん性肺炎防止のために口腔ケアを徹底する」と記載した場合、他の利用者と同じ回数では徹底したことにならず、少なくとも1日4回以上の口腔ケアを約束したとみなされます。
■「歩行は常時見守り必要」と計画書に記載したが
本事例のように、口腔ケアの回数であれば家族に説明して理解を求めることもできますが、もっと重要な事項を間違って記載して大きな問題になった事例があります。あるデイサービスで、認知症の利用者が椅子から急に立ち上がって、そのまま転倒して骨折してしまいました。デイサービスでは、「急に立ち上がって転倒した場合、職員は対応しきれない」と理解を求めましたが、家族は「通所介護計画書に“歩行は常時見守りが必要”と書いてある。見守ってくれなかったから転倒した」とデイの責任を追及してきました。
通常防ぎきれない事故であれば、過失にはなりませんから賠償責任は発生しません。しかし、通所介護計画書に「常時見守り」と書いてしまったら、見守らずに転倒させれば契約違反になり、債務不履行として賠償責任が発生します。利用者を常時見守ることは不可能ですから、できないことは計画書に書いてはいけません。
■契約書であるという認識で作成を
以上のように、施設サービス計画書などの介護計画書は、個別利用者に具体的にどのようなサービスを提供するのかを記載する重要な契約書なのです。しかし、計画書の内容をチェックしてみると、本事例のように「徹底する」「努力する」などの曖昧な表現が多く、いざという時トラブルになりかねません。施設のケアマネジャーは、介護計画書が契約書であるという認識で、できる限り正確な表現で記載する必要があります。
ある施設のケアマネジャーが、本人が希望しているからと言って「年内に墓参りに連れて行く」と計画書に記載して問題になりました。何の相談も受けていない介護主任は「ほとんど寝たきりで外出には危険が伴うので絶対に無理だ」と主張します。家族が「ご厚意はありがたいのですが、うちのお墓は高い階段の上にあるのでとてもたどり着けませんよ」と言ってくれたので、幸いトラブルにはなりませんでした。
居宅介護支援事業所のケアマネジャーが作成するケアプランであれば、「援助目標」の欄に“墓参り”と書いて、実現に努力する旨を記載しても良いのですが、施設サービス計画書は、提供するサービスを記載する契約書ですから、慎重に作成しなければなりません。
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20242024.09.11- おもしろ半分のイタズラが虐待行為として処罰
【検討事例】
ある特養で職員の不祥事が起きました。20歳の女子職員が夜勤中に認知症の利用者の髪の毛にリボンを8つ結び、これを写メしてブログに画像をアップしたのです。写真には「認知症のおばあちゃんは可愛い」とありました。このブログの写真を発見した息子さんが激怒して、「介護職の行為は個人情報の漏洩だ、訴訟を起こす」と強く抗議してきました。施設長は、「認知症のお母様の髪の毛にイタズラをする行為は虐待行為です」と息子さんに説明し、市役所に虐待事件として通報し、個人情報の漏洩事故としても事故報告をしました。施設では、介護職員Aを懲戒解雇処分とした上で、謝罪し賠償金の支払いを申し出ましたが、息子さんはこれを辞退しました。
■なぜ施設長は虐待行為と判断したのか?
判断能力の無い認知症の利用者の髪に、たくさんのリボンを付けて写真に撮る行為は虐待行為です。施設長が適切な対応を行ったため、息子さんも理解を示して訴訟を思いとどまりました。本人が肉体的・精神的な苦痛を感じなくても、認知症の利用者の人格を貶める行為は虐待行為と認定されます。
12年前、特養で認知症の利用者に性的な暴言を吐き家族に録音されるという前代未聞の事件が起こりましたが、市はこの行為を性的虐待と認定しました。認知症の利用者本人が暴言を理解できなくても、人格を貶める行為は、人の尊厳を損なう人権侵害であり虐待行為なのです。
また、ブログに認知症の利用者の写真を掲載するという行為は、個人情報の漏洩に該当しますが、その被害の大きさは健常者の個人情報の漏洩と比べ重大です。なぜなら、知的なハンディのある人の個人情報は、プライバシー性の高いセンシティブ情報でその漏洩は人権侵害とみなされるからです。
■「そんなつもりはなかった」と言った新人職員
本事件が発覚した時、施設長以下中堅職員は「そんなバカなことをする介護職がいるのか?」と驚きましたが、本人には悪いことをしたという認識はありませんでした。この問題が発覚した時には、「そんなつもりはなかった」と涙ながらに訴えたので周囲は呆れましたが、きっと嘘ではないのでしょう。採用試験の面接でも「認知症のおばあちゃんは可愛いから大好きです」と発言したと言いますから、本当にそう思っていたのでしょう。採用の段階で介護職として重要な倫理観が備わっていないことを見抜いていたら、この不祥事は避けられたかもしれません。
呆れるようなコンプライアンス違反で大問題になった時にも、その行為を行った本人にその重大性の認識が無いことが良くあります。つまり、管理する側は「こんなことは当たり前だろう」と考えていることが、違反する本人たちから見れば当たり前ではないのです。この新人職員のように、重要なことを知らなかったために、過ちを犯して罰を受けるのですから本人も可哀そうなのですが、重要なルールはこれを知らなかったことがルールに違反した時の言い訳にはならないのです。
では、管理者側から当たり前という重要な認識が備わっていない若い職員に対して、どのようにして認識してもらったら良いのでしょうか?倫理観という漠然とした能力が備わっているかどうかを見抜くことは容易ではありませんから、やはり研修によって一つ一つ教育しなければなりません。
■やってはいけないことを教える
法人の理事長からこの不祥事の再発防止策を求められた施設長は、「それは採用時に見抜かなければどうしようもない。職場での教育は無理」と答えました。なぜなら、倫理観はその人間の成長過程において少しずつ身に付くものであって、職場の研修で身に付かないからです。しかし、この不祥事の再発防止のために、何かをしないと施設長も安心できません。そこで、施設長は介護現場で起きている「職員の倫理観の欠落による不祥事の事例」を調べて、これを材料に研修をしようということになりました。
施設長は知り合いの施設長にメールで相談し、いくつかの施設から不祥事の事例を提供してもらいました。予想した通り「その時のノリで軽い気持ちでやっちゃった」というものがいくつもありました。中にはデイの管理者が障害者手帳を利用者から借りて、外出行事の時の博物館の入場料を行事参加者全員無料にして“経費を節約”して問題になったという悪質な確信犯の事例もありました。
■実際に研修をやってみたら
さて、施設長は知り合いの施設長から教えてもらった事例から、12件の介護職のコンプライアンス違反事例を使って研修を行いました。事例をグループで討議して、何が不適切な行為なのか、何がコンプライアンスに違反するのかを職員に考えさせるのです。事例を選んでいる時に、施設長は「さすがにこんな基本的なルールが分からない職員はいないだろう」という事例もありました。しかし、実際に研修をやってみるとビックリ。どのような規則に違反するかと言う問いに答えられない職員がたくさんいましたが、「これってなぜルール違反なんですか?」と疑問を口にする職員がたくさんいたのです。コンプライアンスに対する認識は個人によって大きな違いがありますし、年代によっても大きな差がありますから、「こんなことは当たり前」と考えてはいけないのです。
施設長がコンプライアンス研修に使った「職員の倫理観の欠落による不祥事の事例」の中には、次のような事例もありました。虐待などの職員の不祥事が起きると、「倫理要綱を毎日唱和する」などの形式的な対策を考える管理者がいますが、事例を見ると職員の倫理観を向上させることがいかに難しいか良く分かります。
〇忘年会で盛り上がり利用者にもカツラをかぶってもらった
クリスマスの行事のアトラクションで、職員が禿げ頭のカツラを買ってきてかぶり利用者にウケて盛り上がった。盛り上がったついでに、認知症の男性利用者の頭にカツラをのせたら、利用者にもウケて、職員が自分のポケットからスマホを出して写メしていた。
〇休憩時間中に同僚と認知症の利用者の悪口を言ってみた
認知症フロアに異動になりストレスが溜まっている。ある時、休憩室で仲の良い同期と二人になり、「あのバアチャンは本当に頭に来る」と言ったら、同僚が「違いない、ホントに頭来る」と賛同してくれた。それからしばらく、認知症の利用者の悪口を言い合ったら気分がスッキリした。
〇認知症の利用者が喜ぶので名前で「〇〇ちゃん」と呼んでいる。
認知症の重い利用者がいる。ある時、居室に誰も居なかったので、名字ではなく名前で「〇〇ちゃん」と小声で呼んでみたら、嬉しそうな顔をした。他の職員にも「〇〇ちゃんって呼ぶとスゴイ喜ぶよ」と教えてあげたら、みんながそう呼ぶようになった。
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20242024.09.11- クレーマーとの面談で相手に無断で録音したら「盗聴は犯罪だ」と言われた
【検討事例】
介護付きホームの入居者Hさんの息子さんは、入所時に「母を転ばせないで」と強く要求しました。相談員は「最善を尽くします」と答えましたが、転倒事故が起こると「転ばせないと約束したのになぜ転ばせた」と大きな声を出します。その後も身勝手な要求を繰り返し、こちらが言ってないことを「言った」と威圧的な態度でゴリ押しします。ある時息子さんが「〇〇と言ったはずだ」と言ってきたので、詳細な会話の記録を見せると、記録など当てにならないと言います。相談員は「録音して記録したのだから間違いない」と言ってしまいました。息子さんは「勝手に会話を録音するのは違法だ」と言います。交渉相手との会話を録音したら違法なのでしょうか?
■無断録音は盗聴ではない
Hさんの息子さんのように、こちらが言っていないことを「言った」と強引に主張して、暴力的・威圧的な態度で理不尽な要求をしてくる相手に対しては、防衛手段として会話を録音する必要があります。相手の同意を得て録音すれば何の問題もありませんが、Hさんの息子さんが会話の録音に同意するとは思えません。では、相手の同意なしに会話を録音したら違法なのでしょうか?
私たちは、無断で会話を録音する行為は、後ろめたく違法性があるように感じます。隠しマイクで人の会話を録音することを「盗聴」と言いますから、盗撮のように犯罪と思えるのです。他人の容姿を無断で撮影すればプライバシーの侵害ですから、無断録音も同様に権利の侵害とも受け取れます。
しかし、相手の同意なく会話を録音することは、違法ではありませんし犯罪でもありませんから、正確な記録のために録音することは構いません。他人同士の会話を隠れて録音する行為、すなわち「盗聴」はそれだけでは犯罪にはなりません。盗聴器を仕掛けるために住居に不法に侵入したり、電話回線に盗聴器を仕掛けて会話を受信するような行為が犯罪になるのです。
また、他人同士の会話を無断で録音すればプライバシーの侵害になりますが、相対して話をしている相手と自分の会話を無断で録音する行為(無断録音)は、権利侵害の程度が低く問題にならないと考えられます。
■威圧的な相手との会話は録音すべき
Hさんの息子さんは威圧的な態度で無理な要求をしてくる人です。その上、こちらの言っていないことを「〇〇と言った」と、自分の都合の良い主張に変える人です。このような相手と交渉する場合には、後日のトラブルに備えて準備が必要です。
まず、相手のとの交渉には必ず2名で臨み、1名が相手との交渉を担当し、もう1名が記録を取ります。単独で交渉に臨むと、後日「言った言わない」という争いになった時、こちらの主張の正当性が弱くなってしまうからです。そしてこちらの主張を裏付ける記録を正確に取るために、相手の同意が無くても会話を録音します。交渉の場で相手がこちらを脅かすような暴言を吐けば、脅迫罪になるかもしれませんから、後日この録音を証拠に相手を刑事告訴できるかもしれません。また、暴力的で威圧的な相手に対しては、録音を条件に交渉に臨むと相手に伝えることで、暴力的な行為をけん制することもできます。
このように、会話の録音自体は違法ではありませんし犯罪でもありませんが、録音したことが相手に分かれば相手との信頼関係を損ねます。また、こちらが相手に敵対意識を持っていると受け取られますから、信頼関係を重視している相手に対しては録音したことが分からないようにしなければなりません。
■録音データの取扱いには注意が必要
さて、無断録音は違法性がありませんから会話の録音は構いませんが、録音したデータの取扱いには注意が必要です。録音されたプライバシー性の高い内容が職員から口外されれば、プライバシーの侵害で賠償請求される可能性もありますから、厳重に管理して他の職員がアクセスできないようにしなくてはなりません。
消費者保護の観点での配慮も必要です。2人の職員が1人の相手と交渉し無断で録音までしているのですから、消費者保護の観点から好ましい光景とは思えません。相手が威圧的でやむを得ない場合のみ録音するとした方が無難でしょう。介護福祉事業は公共性が高く利用者保護への配慮が必要とされていますから。
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20242024.09.11- 「医療体制万全」という住宅型有料老人ホーム
【検討事例】
パーキンソン病のMさんは、居宅で転倒して骨折し入院しましたが、入院中に認知症を発症し、息子さんは在宅介護が困難と考え入所先を病院に相談しました。すると、病院では開設したばかりの医療ケア重視の住宅型有料老人ホーム勧めてきました。施設を見学し「看護師24時間常駐で医療体制万全、認知症でも安心」と説明され、安心した息子さんは入所を決めました。ところが、Mさんは「部屋の隅に人が居る」と怯えて自室に戻らず、他の居室を徘徊して迷惑だとリスペリドンを処方されました。息子さんが会いに行くと、Mさんは歩行ができなくなっており、息子さんは「施設に騙された」と苦情申立をしました。
■Mさんはパーキンソン病か?
本事例のMさんを巡るトラブルの原因は大きく2つに分けることができます。1つはMさんが住宅型有料老人ホームで認知症が悪化したこと、2つ目は「医療体制万全」というアピールを息子さんが過大評価したことです。まず、Mさんの認知症の症状の悪化の原因から分析してみましょう。
Mさんはパーキンソン病と診断されており、病院で認知症を発症したとあります。骨折などで入院した高齢者が、生活環境の変化から病院で認知症を発症することは少なくありません。しかし、パーキンソン病の患者が認知症を発症した場合、レビー小体型認知症の可能性を調べるのは今や認知症患者への対応では常識です。
レビー小体型認知症は、その初期症状がパーキンソン病の身体機能障害に酷似しているため、パーキンソン病と診断されていることが多いからです。事実その後Mさんに現れた認知症の症状は、「部屋の隅に人が居る」という訴えであり、レビー小体型認知症特有の典型的な「幻視症状」と考えられます。
ところが、「医療体制万全」が謳い文句であったはずの、医療ケア重視の住宅型有料老人ホーム(診療所や訪問看護を併設し24時間体制で医療ケアを提供)でありながら、Mさんのレビー小体型認知症の可能性に気付きませんでした。また、レビー小体型認知症の患者は薬剤感受性が強く、リスペリドンは錐体外路症状による運動機能低下を招くなど、副作用の発現率が高いとされています。ですから、Mさんの歩行機能が低下したのは、レビー小体型認知症の患者に対する間違った薬物療法の弊害とみられます。Mさんは、病院で認知症を発症した時点で、レビー小体型認知症の可能性を調べ、再診断を行い適切な薬を処方をすべきだったのです。
■「医療体制万全」というアピールは適切か?
次に、息子さんが病院の勧めでMさんを入所させた、医療ケア重視の有料老人ホームの問題点を検証してみましょう。かつて、有料老人ホームのサービス・料金や居住権の広告表示を巡って入居者とのトラブルが多発し、平成11年の公正取引委員会による警告と実名公表という事態となりました。これを受けて、平成16年には「有料老人ホームの不当な表示(公正取引委員会告示)」より不当表示の基準が示され、有料老人ホーム協会によるガイドラインが作成されその遵守が求められました。
最近では介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など高齢者住宅が多様化し、再び競争の時代を迎えており、顧客誘引のための誇大表示によるトラブルも懸念されています。パンフレットや説明書に虚偽の記載をする施設は少ないと思われますが、注意を要するのはホームページのサービス内容の誇張表現です。「24時間365日サービス員常駐で安心安全な施設」「看護師常駐で万全の医療体制」等はいずれも不当表示に該当するおそれがあります。
Mさんの息子さんが病院から勧められた、有料老人ホームも「医療体制万全」というのは誇張であり、「看護体制が充実」くらいが適切な広告表現と言えるでしょう。ところが、息子さんはこの有料老人ホームの「医療体制万全」というアピールを鵜呑みにしてしまい、結果的にMさんのレビー小体型認知症を悪化させてしまいました。
■レビー小体型認知症の診断基準
レビー小体型認知症は1976年に日本人医師によって発見された認知症で、今や認知症全体の20%を占めています。その診断基準における中核的特徴では次の3つの症状が挙げられています。
① 注意や覚醒レベルの顕著な変動を伴う動揺性の認知機能
② 典型的には具体的で詳細な内容の,繰り返し出現する幻視
③ 自然発生の(誘因のない)パーキンソニズム
ですから、「子供が2人部屋の隅に居る」などの具体的な幻視と、パーキンソン症状が現れればレビー小体型認知症を疑い、再検査を受けなくてはなりません。なぜなら、レビー小体型認知症はその薬剤感受性が強いことも大きな特徴であり、薬物療法を間違えると症状を悪化させることでも有名な病気だからです。
一般的に、リスペリドン・オランザピンなどの抗精神病薬は運動機能を悪化させるため、レビー小体型認知症の患者には慎重投与とされています。また、レビー小体型認知症の処方薬として承認されているドネペジル塩酸塩も、個人差が大きく劇的に改善する患者と悪化する患者に分かれるようです。このようにレビー小体型認知症は薬剤感受性が故に、劇的に改善することもあればその逆もあり薬物療法が難しいことも広く知られているのですから、早期の診断による適切な薬物療法が大切と言われているのです。
■目に余るホームページの誇大広告
さて、2つの目の問題点である有料老人ホームの誇大広告について検証しておきましょう。前述のように、有料老人ホームの業界では過去に公正取引委員会の警告という不名誉な事態があり、業界全体に適正化が図られました。しかし、最近の高齢者住宅の競争激化の中で、またしても同じような誇大広告による、消費者トラブルが増加しています。
また、この現象は有料老人ホームだけでなく、特別養護老人ホームや老人保健施設にまで波及していることも大きな問題です。特別養護老人ホームや老人保健施設は、その運営基準や社会福祉事業法などで厳しい規制を受けているからです。
ちなみに、平成16年に公表された、「有料老人ホームの広告等に関する表示ガイドライン」によれば、消費者に誤解を与える不適当な表現を次のように例示しています。
「最高」「最高級」「極」「一級」「日本一」「日本初」「業界一」「超」「当社だけ」「他に類を見ない」「完全」「完璧」「絶対」「万全」「多数の」「多くの」「十分な」「特選」「厳選」「格安」「破格」「最優先」「優先的に」等
このような表現は特別養護老人ホームや老人保健施設などのホームページにも多用されており、指導監査などでも問題視されています。あなたの施設は問題ありませんか
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20242024.09.11- 鼻をつまんで無理に食べさせ誤えん
【検討事例】虐待とも考えられるような介助方法で誤えん事故が起きました。ある介護職員Aが食事介時に、認知症の利用者がなかなか口を開かないため、鼻をつまんで口を開かせ食べ物を口に入れたのです。気管に食べ物が侵入し誤えん事故となりましたが、幸い命は取り留めました。もちろん、食事介助の方法として、無理矢理口を開かせて食べさせて良い訳がありませんし、これは明らかに虐待行為です。しかし、この事故を起こしたAは「危険な介助方法だとは思わなかった」「主任が“鼻をつまめば口を開くよ”言ったから」と申し開きをしました。話を分かり易くするために“もしこの事故が死亡時になったらどうなるのか”という仮定で、問題点を考えてみましょう。
■故意と過失では罰則が異なる
この誤えん事故で利用者が死亡すると、刑法の犯罪として刑事告訴される可能性があります。通常ルール違反や危険が明白であるような行為を行って事故を起こし、相手が死傷するような重大事故につながると業務上過失致死(傷)罪に問われることがあります。ただし、この介助行為がルール違反もしくは非常に危険だということを認識していたかどうかで事情は変わってきます。つまり、ルール違反であることや非常に危険であるということの認識がありながら、故意にその行為を行うと更に罪は重くなり、重過失致死(傷)罪になるかもしれません。 さて、介護職員Aは「危険の認識は無かった」と主張しています。しかも、上司の指示に従ったのだから、自分は利用者を危険に晒すつもりは無かったのだと言っているのです。この主張は認められるでしょうか?この場合介護職員Aのこの行為が、誰の目にも明らかに危険であると考えられれば、彼の主張は認められません。 鼻を塞がれた状態で口に食べ物を入れるとどうなるでしょう?鼻で呼吸ができず口で呼吸をしますから、口に入った食べ物が気管に侵入する危険は極めて高く、誤えん事故に至る必然性があります。ですから、介護職員としてはこの危険を認識して当然であり、「認識していなかった」という抗弁は通用しないかもしれません。もちろん、Aの食事介助の行為が介護マニュアルで「危険なのだからやってはいけない」と具体的に明記されていればルールですから、Aの主張は議論の余地はありません。
■「上司の指示に従った」という抗弁
次に、「上司が“鼻を摘まめば口を開くよ”言った」と主張はどうでしょうか?彼の罪を軽くする抗弁になるのでしょうか?この主張は認められるかもしれません。もちろん、介護職員Aがベテランであれば、自分で危険を判断して行動しなければなりませんが、経験の浅い介護職員であれば上司の指示に従ってしまうかもしれません。 もし、Aの介護職員としても経験が浅く、上司の発言によってこの行為を行っても危険は無いと判断したのであれば、Aの罪は軽くなる可能性があります。しかし、同時に上司である介護主任が同じ業務上過失致死(傷)罪に問われるかもしれません。業務上の事故では介護事故の起こした職員本人の刑事責任と同時に、管理監督責任がある上司や管理者が同様に罪に問われることは珍しくないのです。
■管理者が罪に問われる可能性も
以上のように、利用者にとって危険が明白な介助方法によって事故が発生して重大事故になれば、本人の認識如何を問わず刑事事件につながる可能性が高くなります。Aの食事介助の行為は、介護に従事する職員から見れば「誰から見ても危険」という行為で議論の余地はないでしょう。しかし、介護職場では安全な介助のルールが文書になっている訳ではなく、その判断は現場に任されているのが現状です。 誰から見ても危険という介助方法が職場で常態化しているにもかかわらず、管理者がこれを是正する措置をとらずに今回のような事故が起きれば、管理者が刑事責任を問われ可能性があります。管理者は職場の安全管理に対して、包括的な重い義務を負っているからです。管理者が「危険な介助方法の実態」を全て把握できる訳ではありませんから、施設内で職場リーダーを中心に「不安全行動(※)」を点検してみてはどうでしょうか? ※不安全行動:労災事故では事故につながる危険のある従業員の行動をこう呼んでいる
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20242024.05.27- 居室にカメラを設置したいという家族の要求を拒否したら
【検討事例】母が心配なので居室カメラを付けたい
ある介護付き有料老人ホームに入所した利用者の息子さんが「母が心配なので居室にスマホ連動の見守りカメラを設置したい」と言ってきました。施設長が「居室に監視カメラを付けるなんてとんでもない」と検討もせずにすぐに拒否したため、トラブルになりました。高齢者施設の職員による虐待事件が大きく報道されるたびに、利用者を心配する家族から居室へのカメラ設置要求が増えて対応に困ります。自宅にカメラを置いてペットの様子をスマホで見て楽しむのは問題ありませんが、カメラで監視されて質の高い介護はできません。では、この息子さんの要求は拒否できるのでしょうか?
■カメラの設置は法的に可能か?
入所時からいきなり「職員は信用できないから見守りカメラで監視する」と不信感を露わにされては施設長もカチンとくるでしょう。施設長の気持ちも分からないではありませんが、何の検討も無しに拒否すればトラブルになります。まず、入居契約上カメラの設置が可能なのか、法的な可否を検証しなければなりません。
結論から言うと、本事例の息子さんの要求は拒否できないと考えられます。その根拠は次の通り。介護付き有料老人ホームはその多くが利用権方式であり、利用者は居室に対して一定の権利を持っています。そして、一般的な入居契約書であれば、入居者は事業者の許可なく「目的施設の増築・改築・移転・改造・模様替え、居室の造作の改造、敷地内に工作物を設置する」行為はできないとされています(モデル契約書20条の2)。
居室の壁にカメラを据え付ければ工作物として施設の許可が必要ですが、置くだけであれば工作物ではありませんから許可は必要ないのです。同様にサ高住の場合は賃貸住宅ですから、カメラを居室に置いても問題ありません。また、老人ホームには契約書の他に管理規程がありますが、管理規程の「居室等の使用細則」にも、カメラを置くことを制限するような条項は見当たりませんので、問題にはならないでしょう。
■カメラ設置のリスクを説明する
以上のように入居契約上見守りカメラの設置は拒否できませんが、カメラを居室に設置することは設置する家族にも様々なリスクが発生します。これらのリスクを家族に説明して思いとどまってもらわなくてはなりません。家族に次のように説明してはどうでしょうか?
まず、見守りカメラを設置すれば利用者以外の介護職員や面会者の姿も映ってしまいます。本人の了解なく他人の容姿を撮影することは、プライバシー(肖像権)の侵害で不法行為とみなされますから、撮影者は賠償請求されるかもしれません。施設が職員に容姿撮影の了解を求めることはできませんから、息子さんから各職員に了解を取ってもらわなくてはなりません。容姿が映る可能性のある他の利用者に対しても同様に了解を求めなくてはなりません。
また、スマホ連動カメラで撮影された動画の画像はデータ容量が大きく、スマホの記憶装置には保存できませんから、通信事業者のサーバーなどに保管されることになります。ストレージサーバーからのデータ流出がたびたび問題になっていますから、撮影された職員の容姿の動画データが流出すれば、個人情報の漏洩でこれも賠償問題になるかもしれません。このように、居室の利用者だけ撮影することはできませんから、居室の撮影には様々なリスクが伴うことを息子さんに説明しなければなりません。
■入居契約書や管理規程の見直しも必要
こうしてカメラ設置に伴う様々なリスクを説明することで、息子さんの要求を思いとどまらせることができるかもしれません。しかし、今後は従来考えられなかったような家族の要求が出てきますから、入居契約書や管理規程で明文化して調整することが必要になると考えられます。現実に施設側の不正や虐待の可能性はあるのですから、一方的に禁止するのではなく、家族の心配も取り除けるようなルールが必要なのです。
ところで、居室に監視カメラが付いたら、職員は利用者に親しく声をかけられなくなりますし、冗談を言って笑わせることもできないでしょう。居室から足も遠退きます。そんな味気ない生活を利用者は本当に望むのでしょうか?
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20242024.05.27- 「デイの利用者から多額のサプリメントを買わされた」というクレーム
【検討事例】ある日、デイサービスの女性利用者Kさん(軽度認知症あり)の娘さんから次のようなクレームの電話が入りました。「母がデイサービスで仲良くなったMさんから、30万円分のサプリメントを買わされた。“デイの職員にも勧められた”と言っている。デイサービスで責任を取れ」というのです。デイサービスでは、職員がサプリメントの購入を勧めている事実はないし、Kさんは認知症が無いのだからご自分の判断で購入されたのでデイで責任は負えない」と答えました。すると、娘さんは「高齢者の詐欺被害が社会問題になっているのに、デイの配慮が足りない」として主張して市に苦情申立をしました。
■デイサービスに法的責任が無いことは明白だが・・・
デイサービスで知り合った利用者が、デイの外でもお友達付き合いをするようになりトラブルが発生しても、デイサービスには法的な責任もありませんし、トラブルを解決する義務もありません。その点で、本事例の所長が言っていることは、理屈では正しいことになります。しかし、本事例では良く話を聞いて相談に乗ったり、アドバイスをするなどして協力するくらいはできたはずです。そうすれば、少なくとも市への苦情申立は回避できたでしょう。
クレームの申立に対して「対応できない」と即答することは絶対に避けなければなりません。クレーム対応の手順では、「申し立ては一旦お預かりして対応方法を検討する」というのが基本中の基本なのです。申立内容をしっかり聞いて検討すれば、100%満足する対応ができなくても、お客様は対応の姿勢を評価してくれます。救いを求めて来ているお客様に目の前に門を閉ざすことは、強烈な悪感情につながるので要注意です。
■50万円分のサプリメントを売ることは特定商取引に該当する
さて、次に「他の利用者からサプリメントを大量に買わされた」というトラブルには、どのように対処したら良いのでしょうか?前述のようにデイサービス内で売買された訳ではありませんから、売った側のMさんに対して「デイの利用者には売ってはいけない」と禁止する訳にも行きません。
しかし、軽度の認知症の利用者が50万円もの大量のサプリメントを買わされたことは、販売行為として問題があります。この販売行為は特定商取引と言われ、「特定商取引法」という法律で厳しく規制されています。特定商取引とはいわゆる訪問販売のことですが、居宅に訪問して販売行為をする者の他、展示会やイベントに参加させたりして販売行為をする者も該当します。
特定商取引法は、販売者に対して勧誘を受ける意思の確認などを義務付けるほか、契約を締結しても8日以内であれば契約解除ができる(クーリングオフ)、通常の消費量を著しく超える購入契約(過量販売契約)は1年以内に契約を解除できるとして、取引の公正性と消費者被害の防止を図る法律なのです。
ですから、Kさんがサプリメントを購入して8日以内であれば、クーリングオフができるかもしれませんし、“通常消費する量を著しく超える量(加量販売契約)”とみなされれば、契約の解除ができるかもしれません。Mさんの販売行為を禁止することはできなくても、Kさんの娘さんに対して買ってしまったサプリメントの代金を取り戻す方法をアドバイスすることはできたはずなのです。
■特殊詐欺や悪徳商法から高齢者を守ることもデイの社会的責任
本事例のデイサービスの所長は、施設内の管理については意識が高いかもしれませんが、企業活動の社会的責任については認識が低いようです。近頃では、企業活動の社会的責任として、社会貢献活動が強く求められており、一般企業であっても地域の高齢者の安全に配慮する活動を行っています。特殊詐欺(オレオレ詐欺など)による高齢者の被害が社会問題になっていますから、銀行はATMに行員を配置して特殊詐欺の被害者を発見する取組を行っています。
デイサービスは、高齢者の生活を支えるという事業を営む介護事業者なのですから、特殊詐欺や特定商取引の被害から利用者を守る取組をもっと行うべきなのです。「施設内の事故やトラブルさえ防止すれば良い」と考えているのであれば、介護事業者としての社会的責任を放棄していることになります。
消費者庁が作成した「高齢者の消費者トラブル見守りガイドブック」では、「民生委員、ヘルパー、ケアマネジャーの方々は高齢者にとって心強い味方です」と言っています。在宅介護事業者はお年寄りの生活に密接に関わっているので、地域住民よりもお年寄りを守る責任は重いと言っているのです。施設内の管理だけにとらわれず、利用者の生活全般の安全に対しても配慮をすべきではないでしょうか?地域にしっかり根差した取組を勧めているデイサービスでは、職員が進んで特殊詐欺や特定商取引(法)を勉強して、独居の利用者などに絶えず注意を促しています。
■高齢者の詐欺被害防止にも取り組もう
では、デイサービスとして利用者の特殊詐欺や特定商取引の被害防止に対して、どのように取り組んだら良いのでしょうか?まず、職員が特殊詐欺や特定商取引について知識を持たなければなりません。職員を集めて相談員が勉強会を開くのもの良いですし、警察の生活安全課に防犯協会がありますから、ここにお願いすると講師に来てくれます。特殊詐欺はオレオレ詐欺や還付金詐欺などを、ニュースで報道していますから私たちも良く知っていますが、特定商取引についてはあまり知識が無いのでしょうか?高齢者に関わる代表的なものをご紹介しますので、ぜひ勉強して利用者に絶えず注意を促してください。
《特殊詐欺》
① オレオレ詐欺:電話で親族や会社の上司の名を語り、トラブルや交通事故の示談金名目で、現金を預金口座等に振り込ませるなどして騙し取る詐欺。
② 還付金詐欺:税務署や市役所などかたり、税金や保険料、医療費の還付等に必要な手続きを装って、現金を預金口座等に振り込ませるなどして騙し取る詐欺。
③ 金融商品等取引名目の詐欺:実際には価値がない有価証券や架空の外国通貨などをあっせんし、現金を振り込ませてだまし取る詐欺。
《特定商取引※》
① 訪問販売:自宅を訪問するなど、舗以外の場所で商品やサービスを不当な価格で売る取引。狭い店舗に人を集め巧みな話術で価値の低い商品を高額で売りつける(SF商法という)を含む。
② 訪問購入:自宅を訪問するなどして「不要な貴金属を譲ってほしい」と持ち掛け、不当に安い値段で買い取る取引
③ 電話勧誘販売:電話で勧誘して不当に高額な物を大量に売りつける取引。
※特定取引は法律によって、クーリングオフや過量販売契約の解除権などが認められています。
- 05/27
20242024.05.27- 「職員による虐待」という匿名の告発クレーム
【検討事例】ある日ホームページの問い合わせメールで
ある日、ある介護付き有料老人ホーム運営事業者のホームページの「お問い合わせメール」を通じて、匿名のクレームが送られてきました。ある職員を名指しで、利用者に対する5件の暴言が直接話法でリアルにしかもかなりの長文で記述されており、この職員による虐待を改善せよとありました。メールの終わりには「証拠があるので公表する用意がある」と記されていました。発信者は山田花子とありますが、家族に該当者はないので明らかに偽名です。 本社のスタッフはすぐに担当役員に報告し、対応策を検討することになりました。担当役員は、告発者が誰か調査し名指しされた職員にも事情聴取するよう指示しました。告発者はメールアドレスからは分からず、施設長も心当たりはありませんでした。また、名指しされた職員への聞き取り調査も行われましたが、本人は頑強に否定しました。半月ほど調査しましたが、虐待の事実も特定できないため、「匿名の告発では対応のしようがない」として、そのままになりました。その後市役所に同内容の匿名の虐待通報があり録音データも添付されていました。また、有料老人ホームの紹介サイトにも書き込まれ、会社は致命的な痛手を受けました。
■告発内容の信憑性を判断する
管理者は経営者にこの告発メールを迅速に報告します。報告を受けた経営者は、この告発内容の信憑性を慎重に判断します。カッコ書きの5件の暴言が、事実である可能性が高いと判断すれば、何らかの対応をしますが、事実ではないと判断すれば無視してしまうことも選択肢の一つです。
しかし、どちらの対応にも問題が生じます。もし、この告発メールを事実であると判断した場合でも、このメールを証拠として該当職員を懲戒処分にする訳にはいきませんから、対応の方法が問題となります。逆に事実でないと判断してメールを無視した場合、発信者が押さえている“証拠”(おそらく録音音声)をマスコミなどに公表されたら、経営には大きな痛手となります。家族の名を語った職員の内部告発かもしれません。発信者が匿名故にその対応が難しいのです。
経営者の意識が高ければ、メールに書かれた職員の暴言の真偽を慎重に判断して、よほど信憑性に欠けない限り事実である可能性が高いと判断するでしょう。では、事実である可能性が高いと判断した場合は、経営者はどのように対応したら良いでしょうか?
■発信者に改善の対応を伝える
告発メールが事実であると判断した場合、調査を行いその結果をもって迅速に改善の対応を行い、これを発信者に伝えます。なぜなら、発信者に施設の改善の対応が伝わらなければ、“証拠”を公表されるかもしれないからです。対応の手順は次の通りです。まず、当該職員に告発メールの事実を伝え、暴言とされる発言の真偽を問います。本人が事実ではないと回答した場合でも、日常の業務態度や管理者の指導状況から職員の回答の信憑性を判断します。本人が否定しても、様々な状況から事実であると判断すれば、改善の対応を行わなければなりません。
重要なことは、虐待の嫌疑など職員の不正を疑うクレームがあった時、職員への事実確認はそれほど意味を持たないということです。刑事処分の可能性がある不正に対して、事実を述べる職員は少ないからです。大切なのは「その職員が不正を行った可能性が高いか?」を、経営者が公正に判断することです。「本人が否定しているから不正は無いと判断しました」という対応では、クレームの申立者は納得しません。
■どのように改善の対応を行うのか?
本人が否定したにもかかわらず、虐待の可能性が高いと経営者が判断した場合、どのような対応をすれば良いでしょうか?証拠がなければ本人を懲戒処分にすることはできませんから、「業務の都合による配置転換(人事異動)」という対応が良いでしょう。ただし、配置転換の権限は使用者にありますが、合理性を欠く場合は権利の濫用とみなされることがあります。ですから、クレーム内容と職員への調査から、クレームが事実である可能性が高いと役員会で公正に決定します。役員会で公正な意思決定をしても、本人から異議を唱えられたら少し弱いとは思いますが、リスク回避のためには経営判断もリスクを伴うのです。最後に施設の掲示板に、「職員の不適切な発言についてご家族よりクレームがあり、改善の対応を行った」と告知分を貼り出します。もちろん、職員名は伏せておきます。
このように、匿名のクレームや内部通報は扱いが難しいのですが、経営者は危機に遭遇した時最悪のケースを想定した対応をしなければなりません。老人ホーム紹介業のサイトの口コミなどに、書き込まれて炎上したら会社の存亡にかかわります。