【情報室】クレーム・トラブル対応 一覧

  • 05/27
    2024
    2024.05.27
    居室にカメラを設置したいという家族の要求を拒否したら

    【検討事例】母が心配なので居室カメラを付けたい
    ある介護付き有料老人ホームに入所した利用者の息子さんが「母が心配なので居室にスマホ連動の見守りカメラを設置したい」と言ってきました。施設長が「居室に監視カメラを付けるなんてとんでもない」と検討もせずにすぐに拒否したため、トラブルになりました。高齢者施設の職員による虐待事件が大きく報道されるたびに、利用者を心配する家族から居室へのカメラ設置要求が増えて対応に困ります。自宅にカメラを置いてペットの様子をスマホで見て楽しむのは問題ありませんが、カメラで監視されて質の高い介護はできません。では、この息子さんの要求は拒否できるのでしょうか?
    ■カメラの設置は法的に可能か?
     入所時からいきなり「職員は信用できないから見守りカメラで監視する」と不信感を露わにされては施設長もカチンとくるでしょう。施設長の気持ちも分からないではありませんが、何の検討も無しに拒否すればトラブルになります。まず、入居契約上カメラの設置が可能なのか、法的な可否を検証しなければなりません。
     結論から言うと、本事例の息子さんの要求は拒否できないと考えられます。その根拠は次の通り。介護付き有料老人ホームはその多くが利用権方式であり、利用者は居室に対して一定の権利を持っています。そして、一般的な入居契約書であれば、入居者は事業者の許可なく「目的施設の増築・改築・移転・改造・模様替え、居室の造作の改造、敷地内に工作物を設置する」行為はできないとされています(モデル契約書20条の2)。
     居室の壁にカメラを据え付ければ工作物として施設の許可が必要ですが、置くだけであれば工作物ではありませんから許可は必要ないのです。同様にサ高住の場合は賃貸住宅ですから、カメラを居室に置いても問題ありません。また、老人ホームには契約書の他に管理規程がありますが、管理規程の「居室等の使用細則」にも、カメラを置くことを制限するような条項は見当たりませんので、問題にはならないでしょう。
    ■カメラ設置のリスクを説明する
     以上のように入居契約上見守りカメラの設置は拒否できませんが、カメラを居室に設置することは設置する家族にも様々なリスクが発生します。これらのリスクを家族に説明して思いとどまってもらわなくてはなりません。家族に次のように説明してはどうでしょうか?
     まず、見守りカメラを設置すれば利用者以外の介護職員や面会者の姿も映ってしまいます。本人の了解なく他人の容姿を撮影することは、プライバシー(肖像権)の侵害で不法行為とみなされますから、撮影者は賠償請求されるかもしれません。施設が職員に容姿撮影の了解を求めることはできませんから、息子さんから各職員に了解を取ってもらわなくてはなりません。容姿が映る可能性のある他の利用者に対しても同様に了解を求めなくてはなりません。
     また、スマホ連動カメラで撮影された動画の画像はデータ容量が大きく、スマホの記憶装置には保存できませんから、通信事業者のサーバーなどに保管されることになります。ストレージサーバーからのデータ流出がたびたび問題になっていますから、撮影された職員の容姿の動画データが流出すれば、個人情報の漏洩でこれも賠償問題になるかもしれません。このように、居室の利用者だけ撮影することはできませんから、居室の撮影には様々なリスクが伴うことを息子さんに説明しなければなりません。
    ■入居契約書や管理規程の見直しも必要
     こうしてカメラ設置に伴う様々なリスクを説明することで、息子さんの要求を思いとどまらせることができるかもしれません。しかし、今後は従来考えられなかったような家族の要求が出てきますから、入居契約書や管理規程で明文化して調整することが必要になると考えられます。現実に施設側の不正や虐待の可能性はあるのですから、一方的に禁止するのではなく、家族の心配も取り除けるようなルールが必要なのです。
    ところで、居室に監視カメラが付いたら、職員は利用者に親しく声をかけられなくなりますし、冗談を言って笑わせることもできないでしょう。居室から足も遠退きます。そんな味気ない生活を利用者は本当に望むのでしょうか?

  • 05/27
    2024
    2024.05.27
    「デイの利用者から多額のサプリメントを買わされた」というクレーム

    【検討事例】ある日、デイサービスの女性利用者Kさん(軽度認知症あり)の娘さんから次のようなクレームの電話が入りました。「母がデイサービスで仲良くなったMさんから、30万円分のサプリメントを買わされた。“デイの職員にも勧められた”と言っている。デイサービスで責任を取れ」というのです。デイサービスでは、職員がサプリメントの購入を勧めている事実はないし、Kさんは認知症が無いのだからご自分の判断で購入されたのでデイで責任は負えない」と答えました。すると、娘さんは「高齢者の詐欺被害が社会問題になっているのに、デイの配慮が足りない」として主張して市に苦情申立をしました。
    ■デイサービスに法的責任が無いことは明白だが・・・
    デイサービスで知り合った利用者が、デイの外でもお友達付き合いをするようになりトラブルが発生しても、デイサービスには法的な責任もありませんし、トラブルを解決する義務もありません。その点で、本事例の所長が言っていることは、理屈では正しいことになります。しかし、本事例では良く話を聞いて相談に乗ったり、アドバイスをするなどして協力するくらいはできたはずです。そうすれば、少なくとも市への苦情申立は回避できたでしょう。
    クレームの申立に対して「対応できない」と即答することは絶対に避けなければなりません。クレーム対応の手順では、「申し立ては一旦お預かりして対応方法を検討する」というのが基本中の基本なのです。申立内容をしっかり聞いて検討すれば、100%満足する対応ができなくても、お客様は対応の姿勢を評価してくれます。救いを求めて来ているお客様に目の前に門を閉ざすことは、強烈な悪感情につながるので要注意です。
    ■50万円分のサプリメントを売ることは特定商取引に該当する
    さて、次に「他の利用者からサプリメントを大量に買わされた」というトラブルには、どのように対処したら良いのでしょうか?前述のようにデイサービス内で売買された訳ではありませんから、売った側のMさんに対して「デイの利用者には売ってはいけない」と禁止する訳にも行きません。
    しかし、軽度の認知症の利用者が50万円もの大量のサプリメントを買わされたことは、販売行為として問題があります。この販売行為は特定商取引と言われ、「特定商取引法」という法律で厳しく規制されています。特定商取引とはいわゆる訪問販売のことですが、居宅に訪問して販売行為をする者の他、展示会やイベントに参加させたりして販売行為をする者も該当します。
    特定商取引法は、販売者に対して勧誘を受ける意思の確認などを義務付けるほか、契約を締結しても8日以内であれば契約解除ができる(クーリングオフ)、通常の消費量を著しく超える購入契約(過量販売契約)は1年以内に契約を解除できるとして、取引の公正性と消費者被害の防止を図る法律なのです。
    ですから、Kさんがサプリメントを購入して8日以内であれば、クーリングオフができるかもしれませんし、“通常消費する量を著しく超える量(加量販売契約)”とみなされれば、契約の解除ができるかもしれません。Mさんの販売行為を禁止することはできなくても、Kさんの娘さんに対して買ってしまったサプリメントの代金を取り戻す方法をアドバイスすることはできたはずなのです。
    ■特殊詐欺や悪徳商法から高齢者を守ることもデイの社会的責任
    本事例のデイサービスの所長は、施設内の管理については意識が高いかもしれませんが、企業活動の社会的責任については認識が低いようです。近頃では、企業活動の社会的責任として、社会貢献活動が強く求められており、一般企業であっても地域の高齢者の安全に配慮する活動を行っています。特殊詐欺(オレオレ詐欺など)による高齢者の被害が社会問題になっていますから、銀行はATMに行員を配置して特殊詐欺の被害者を発見する取組を行っています。
    デイサービスは、高齢者の生活を支えるという事業を営む介護事業者なのですから、特殊詐欺や特定商取引の被害から利用者を守る取組をもっと行うべきなのです。「施設内の事故やトラブルさえ防止すれば良い」と考えているのであれば、介護事業者としての社会的責任を放棄していることになります。
    消費者庁が作成した「高齢者の消費者トラブル見守りガイドブック」では、「民生委員、ヘルパー、ケアマネジャーの方々は高齢者にとって心強い味方です」と言っています。在宅介護事業者はお年寄りの生活に密接に関わっているので、地域住民よりもお年寄りを守る責任は重いと言っているのです。施設内の管理だけにとらわれず、利用者の生活全般の安全に対しても配慮をすべきではないでしょうか?地域にしっかり根差した取組を勧めているデイサービスでは、職員が進んで特殊詐欺や特定商取引(法)を勉強して、独居の利用者などに絶えず注意を促しています。
    ■高齢者の詐欺被害防止にも取り組もう
    では、デイサービスとして利用者の特殊詐欺や特定商取引の被害防止に対して、どのように取り組んだら良いのでしょうか?まず、職員が特殊詐欺や特定商取引について知識を持たなければなりません。職員を集めて相談員が勉強会を開くのもの良いですし、警察の生活安全課に防犯協会がありますから、ここにお願いすると講師に来てくれます。特殊詐欺はオレオレ詐欺や還付金詐欺などを、ニュースで報道していますから私たちも良く知っていますが、特定商取引についてはあまり知識が無いのでしょうか?高齢者に関わる代表的なものをご紹介しますので、ぜひ勉強して利用者に絶えず注意を促してください。
    《特殊詐欺》
    ① オレオレ詐欺:電話で親族や会社の上司の名を語り、トラブルや交通事故の示談金名目で、現金を預金口座等に振り込ませるなどして騙し取る詐欺。
    ② 還付金詐欺:税務署や市役所などかたり、税金や保険料、医療費の還付等に必要な手続きを装って、現金を預金口座等に振り込ませるなどして騙し取る詐欺。
    ③ 金融商品等取引名目の詐欺:実際には価値がない有価証券や架空の外国通貨などをあっせんし、現金を振り込ませてだまし取る詐欺。
    《特定商取引※》
    ① 訪問販売:自宅を訪問するなど、舗以外の場所で商品やサービスを不当な価格で売る取引。狭い店舗に人を集め巧みな話術で価値の低い商品を高額で売りつける(SF商法という)を含む。
    ② 訪問購入:自宅を訪問するなどして「不要な貴金属を譲ってほしい」と持ち掛け、不当に安い値段で買い取る取引
    ③ 電話勧誘販売:電話で勧誘して不当に高額な物を大量に売りつける取引。
    ※特定取引は法律によって、クーリングオフや過量販売契約の解除権などが認められています。

  • 05/27
    2024
    2024.05.27
    「職員による虐待」という匿名の告発クレーム

    【検討事例】ある日ホームページの問い合わせメールで
    ある日、ある介護付き有料老人ホーム運営事業者のホームページの「お問い合わせメール」を通じて、匿名のクレームが送られてきました。ある職員を名指しで、利用者に対する5件の暴言が直接話法でリアルにしかもかなりの長文で記述されており、この職員による虐待を改善せよとありました。メールの終わりには「証拠があるので公表する用意がある」と記されていました。発信者は山田花子とありますが、家族に該当者はないので明らかに偽名です。  本社のスタッフはすぐに担当役員に報告し、対応策を検討することになりました。担当役員は、告発者が誰か調査し名指しされた職員にも事情聴取するよう指示しました。告発者はメールアドレスからは分からず、施設長も心当たりはありませんでした。また、名指しされた職員への聞き取り調査も行われましたが、本人は頑強に否定しました。半月ほど調査しましたが、虐待の事実も特定できないため、「匿名の告発では対応のしようがない」として、そのままになりました。その後市役所に同内容の匿名の虐待通報があり録音データも添付されていました。また、有料老人ホームの紹介サイトにも書き込まれ、会社は致命的な痛手を受けました。
    ■告発内容の信憑性を判断する
    管理者は経営者にこの告発メールを迅速に報告します。報告を受けた経営者は、この告発内容の信憑性を慎重に判断します。カッコ書きの5件の暴言が、事実である可能性が高いと判断すれば、何らかの対応をしますが、事実ではないと判断すれば無視してしまうことも選択肢の一つです。
    しかし、どちらの対応にも問題が生じます。もし、この告発メールを事実であると判断した場合でも、このメールを証拠として該当職員を懲戒処分にする訳にはいきませんから、対応の方法が問題となります。逆に事実でないと判断してメールを無視した場合、発信者が押さえている“証拠”(おそらく録音音声)をマスコミなどに公表されたら、経営には大きな痛手となります。家族の名を語った職員の内部告発かもしれません。発信者が匿名故にその対応が難しいのです。
    経営者の意識が高ければ、メールに書かれた職員の暴言の真偽を慎重に判断して、よほど信憑性に欠けない限り事実である可能性が高いと判断するでしょう。では、事実である可能性が高いと判断した場合は、経営者はどのように対応したら良いでしょうか?
    ■発信者に改善の対応を伝える
    告発メールが事実であると判断した場合、調査を行いその結果をもって迅速に改善の対応を行い、これを発信者に伝えます。なぜなら、発信者に施設の改善の対応が伝わらなければ、“証拠”を公表されるかもしれないからです。対応の手順は次の通りです。まず、当該職員に告発メールの事実を伝え、暴言とされる発言の真偽を問います。本人が事実ではないと回答した場合でも、日常の業務態度や管理者の指導状況から職員の回答の信憑性を判断します。本人が否定しても、様々な状況から事実であると判断すれば、改善の対応を行わなければなりません。
     重要なことは、虐待の嫌疑など職員の不正を疑うクレームがあった時、職員への事実確認はそれほど意味を持たないということです。刑事処分の可能性がある不正に対して、事実を述べる職員は少ないからです。大切なのは「その職員が不正を行った可能性が高いか?」を、経営者が公正に判断することです。「本人が否定しているから不正は無いと判断しました」という対応では、クレームの申立者は納得しません。
    ■どのように改善の対応を行うのか?
    本人が否定したにもかかわらず、虐待の可能性が高いと経営者が判断した場合、どのような対応をすれば良いでしょうか?証拠がなければ本人を懲戒処分にすることはできませんから、「業務の都合による配置転換(人事異動)」という対応が良いでしょう。ただし、配置転換の権限は使用者にありますが、合理性を欠く場合は権利の濫用とみなされることがあります。ですから、クレーム内容と職員への調査から、クレームが事実である可能性が高いと役員会で公正に決定します。役員会で公正な意思決定をしても、本人から異議を唱えられたら少し弱いとは思いますが、リスク回避のためには経営判断もリスクを伴うのです。最後に施設の掲示板に、「職員の不適切な発言についてご家族よりクレームがあり、改善の対応を行った」と告知分を貼り出します。もちろん、職員名は伏せておきます。
    このように、匿名のクレームや内部通報は扱いが難しいのですが、経営者は危機に遭遇した時最悪のケースを想定した対応をしなければなりません。老人ホーム紹介業のサイトの口コミなどに、書き込まれて炎上したら会社の存亡にかかわります。

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