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投稿者: anzen-kaigo 一覧
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20242024.10.03- 10月安全な介護にゅーす発行
今月の安全な介護にゅーすは、「トイレ内での転倒転落の原因はトイレの設備である」です。みなさんも「介護用(障害者用)トイレの設備ってなぜ標準規格がないのか?」と思ったことありませんか?≫読者登録はこちらから
- 10/01
20242024.10.01- 情報室会員向けコンプラ動画無料配信
10月1日からリスクマネジメント情報室会員向けに、職員向けコンプライアンス動画の無料配信をスタートしました。≫詳しくはこちらから
- 09/19
20242024.09.19- 動画「知的障害者施設のリスクマネジメント」のご案内
動画セミナー「知的障害者施設のリスクマネジメント」をリリースいたしました。知的障害者の事故防止のポイントは、環境リスクの改善と損害軽減策の工夫です。≫YouTube抜粋版はこちら
≫パンフレットはこちら
- 09/13
20242024.09.13- 無料オンラインセミナーも録画配信付き
毎月の無料オンラインセミナーも録画配信付きになりました。職員全員でノウハウが共有できます。≫セミナー案内はこちらから
- 09/11
20242024.09.11- 年間3件の誤嚥事故「なぜ誤嚥事故が多いのか?」と新任管理者、「加齢で誤嚥リスクは高くなる?」と職員
【検討事例】M所長は同じ法人の他のデイサービスからさくら苑に1か月前に異動してきましたが、異動直後に誤えん事故が起こりました。えん下機能に障害の無い右半身麻痺の利用者の食事介助中に誤えん事故が発生し、異物除去の対応を施しましたが回復せず救急搬送しました。幸い命に別状は無く1週間ほどの入院となりました。相談員は家族に「えん下機能障害も無く普通食なので、偶発的な誤えんで避けられなかった」と説明し、家族も納得してくれました。
M所長は主任に指示して事故カンファレンスを行うことにしましたが、過去の事故報告書を調べて驚きました。過去1年間にえん下機能に障害が無い普通食の利用者が、他にも2名誤えん事故を起こしているのです。所長はカンファレンスで「このデイは他の施設に比べて誤えん事故が多い。何か原因があるのではないか。細々したことも大事だからみんなで検証してみよう」と切り出しました。すると、主任と相談員が口を揃えて「年を取れば誤えんのリスクは誰でも高くなります。たまたま偶然事故が重なっただけだと思います」と言います。
■誤えんの原因は嚥下障害だけか?
〇半身麻痺も誤えん事故の原因になる
主任と相談員は「誤えん事故の原因はえん下機能の障害(低下)である」考えているようですが、誤えん事故の原因はそれだけではありません。一昔前はえん下機能(食べ物を飲み下す機能)の障害が原因で誤えん事故が発生すると考えられていましたが、現在は摂食えん下機能の全てが関わっていると考えられています。
摂食えん下機能とは食べ物を口に入れて食道に送り込まれるまでの、全ての生理的機能を言います。
・咀嚼する(食べ物を細かく噛み砕く)
・食塊形成(唾液と混ぜて食べ物を塊にする)
・送り込み(食べ物の塊を喉の奥へ送る)
・喉頭蓋閉鎖(気管の蓋が閉鎖する)
・食べ物が食道に送られる
・喉頭蓋開放(気管の蓋が開く)
障害によってこれらの摂食えん下機能のどれか一つでも働かなくなれば、誤えんの危険が高くなるのです。例えば、半身麻痺の利用者は口の中の機能も麻痺して、食塊形成や送り込みがうまくいかなくなることがあり誤えんの原因となります。食塊形成や送り込みの機能には、舌・頬・唇など口の中の筋肉全てが滑らかに動かなければならないからです。半身麻痺の利用者は口の中の筋肉も麻痺側がうまく働かなくなることがあり、誤えんのリスクが高くなるのです。
また、摂食えん下機能が円滑に働くためには、次のような条件が必要です。
・覚醒していること
・口の中が潤っていること
・顎を引いていること
・前かがみの姿勢を取っていること
・鼻で呼吸ができること
十分に目が覚めていなければ摂食えん下機能が働きませんし、口が乾いていれば食べ物を飲み込みにくくなります。また、顔が上を向いて顎が挙がっていたり、上半身が後ろに反り返ることで食べ物が飲み込みにくくなります。
これらの安全な食事の条件が整っていなければ、誤えん事故の発生リスクは高くなるのです。このように考えると、誤えん事故は裁判で過失とされるような顕著な事故原因の他にも、たくさんの要因が重なって起きることが分かります。
■誤えん事故の防止対策は多岐にわたる
誤えん事故の原因はたくさんあって、全ての安全対策を講じることは難しいのですが、「食事の環境や条件」と「食事介助の方法」は重要ですので、注意点を確認しておきましょう。
〇食事の環境や条件
・前かがみの姿勢
車椅子上で食事をすると背もたれの傾斜によって、上半身が後ろに反りかえります。お尻が前にズレてズッコケ座りになれば尚更です。食事の前には前かがみ姿勢が取りやすいように、座り直しの介助を行って下さい。また、背もたれと背中の間に少し硬いクッションを入れると、安定した前かがみ姿勢が取りやすくなります。
・身体に合わない椅子とテーブル
著しく小柄な女性利用者が普通の椅子とテーブルで食事をすると、テーブルが高すぎて顔が上向きになり食べ物が飲み込みにくくなります。小柄な利用者には低い椅子と低いテーブルを用意してあげてください。
(テーブルは通常高さ70cmを64cmに、椅子は通常高さ40cmを36cmにすると良いです)
・口腔内の状態
脱水状態になれば口の中が乾いてしまいますから、マメな水分摂取を促してください。また、向精神薬や利尿剤などの服薬の影響で口腔内が乾燥するケースもありますから、これらの利用者へは水分補給が大切です。冬季には加湿対策も効果があります。
〇食事介助の方法
・覚醒の確認
時々車椅子上でうたた寝をしている利用者を見かけます。このまま食事介助をしたら摂食えん下機能がうまく働かず、誤えん事故の原因になりますから、覚醒を促し十分時間を開けてから食事を始めてください。
・口腔内を潤す
食事の前には必ず白湯またはお湯を口に含んでいただき、口腔内が潤った状態で食べ物を口に運んでください。比較的パサパサした食べ物であれば、途中でもちょっとお茶を飲んでいただくと良いと思います。
・低い位置で食事介助をする
背の高い介護職員が高い椅子に座って食事介助をすると、口に運ぶスプーンが上からやってきます。顎が挙がり誤えんの危険が高くなりますから、低い椅子に座って低い位置からスプーンを運んでください。
・急がせない
食事をなかなか飲み込めずに介助に時間がかかる利用者がいます。急がせるような素振りを見せると「早く食べないと迷惑をかける」と思い無理に飲み込もうとして誤えん事故につながります。「ゆっくり食べてください」とマメに声を掛けて、飲み込んだことを確認してから次のスプーンを出しましょう。
以上主だった誤えん防止の“細々した対策”をご紹介しましたが、利用者本位の介護を徹底している施設に比べるとまだ半分くらいのようです。全てを完璧にこなすのは難しいとは思いますが、個別の利用者を良く見てリスクに合わせた方法に取り組んでください。
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- 09/11
20242024.09.11- グループホーム外出行事中の行方不明事故で捜索の遅れに激怒する家族、原因は職員配置?
【検討事例】
グループホームの外出行事で、有名な神社に花見に行きました。出発した時は曇りでしたが、到着すると小雨が降って来て、傘をさして参拝することになりました。職員3名と利用者5名(うち1名は車椅子)で参拝し、送迎車に戻ろうとすると、Mさんが見当たりません。まだ、午後2時だったので、神社を職員でくまなく探しましたが、5時になっても見つからず家族連絡の上警察に捜索願を出しました。デイの職員総出で探しましたが、その日は発見に至らず、3日後になって隣の市で警察に保護され、家族と大きなトラブルになりました。
■職員配置は事故原因ではない
この事故で、家族と大きなトラブルになったグループホームでは、重大な問題と受け止め原因と対策を話し合いました。すると、「職員配置に問題があった」という意見が大半を締めました。つまり、5名の利用者(1名は車椅子)に対して職員3名では少ないので、人数を増やすべきだったというのです。本当にそうでしょうか?では職員を何名に増やしたら事故は防げたのでしょうか?
介護職員は自分たちの見守りによって、全ての事故を防ごうとするので、事故が起きると職員数が足りなかったなどと、的外れな指摘をしてしまいます。この事故では、職員配置の問題より「なぜ小雨の中人が混んでいる神社に行かなければならなかった」という方が問題なのです。外出行事は施設内とは環境が異なり、天候などの外的な条件に著しく左右されますから、本事例の事故原因の第一は、「わざわざ小雨の中人混みに出かけたこと」だったのです。
職員は外出行事先の選定の問題になると、「この地域だったら○○神社が有名だから」と、名所のような場所を選びますが、利用者はそんなことにこだわるでしょうか?何十年も地域で暮らしていれば、名所など何度も訪れていて今更行こうと思わないでしょう。外出行事はみんなででかける非日常が楽しみなのですから、場所はどこでも良いのです。
■なぜ職員だけで捜索するのか?
次の原因は、職員だけで3時間も探していたことです。人出の多い混雑した神社で、職員2名(1名は他の利用者の対応)で認知症の利用者を探し出せる訳がありません。たとえ、天候などの外的な条件が悪くなくても、職員が利用者を見失うというミスは起こり得るのですから、もっと有効な対応方法を決めておかなければなりません。具体的には、神社の管理事務所などの係員に応援を求めたり、放送を使って呼び出しをすると決めておけば良いのです。結果的に、すぐに発見できなかったことで、神社の外へ出て隣の市まで歩いて行ってしまい、翌日夜まで発見できず大きな騒ぎになってしまったのです。行方不明の対策は見失わないことも大切ですが、見失った時どのように効果的な捜索ができるかにかかっていると言っても過言ではありません。
また、見失ってすぐに家族連絡を入れなかったことで、家族トラブルが大きくなりました。こんな時家族は「すぐに発見できたら行方不明は起きなかったことにするつもりだったのだろう」と隠ぺいの意図を疑い、著しく信頼感を損ないます。
■あらかじめ予想されるトラブルへの対処方法を決めておく
グループホーム内だけでは、単調な生活になってしまいますから、散歩に行ったり外出行事を行いのはとても良い事ですが、施設内と違い屋外は天候などの外的条件に左右されますから、場所とタイミングを選ばなければなりません。まず、大雨など極端な悪天候であれば行事を中止にできますが、今回のように微妙なケースは判断に困ります。このようなケースに対応するには、あらかじめ屋内の外出先を決めておき、前日に変更することで対応できます。利用者はみんな楽しみにしていますから、「目的地に着いてみたら小雨が降って来た」というケースでは、ほとんど中止できず決行してしまうからです。
さて次の問題は、外的条件が悪くなくても利用者を見失うというミスは起こり得るのですから、見失った時の対応方法をあらかじめ決めておかなければなりませんでした。この事例の最も大きな失敗は、午後2時に利用者を見失った後、職員だけで3時間も探してしまったことです。大きな施設であれば、必ず管理事務所がありますから、捜索の協力をしてもらったり、施設の放送設備で呼び出してもらって来場者に協力を求めることができます。3時間も経ってからではもう施設内を出てしまっていたでしょうから、捜索協力を求めても無意味です。見失った直後に職員の一人が管理事務所に応援を求めに行けば、施設内で発見することができたかもしれません。
このように、利用者を見失うというミスを想定して、「管理事務所に職員が応援を求めに行く」というルールにしていなければならないのです。当然、管理事務所があって迷子(※)の呼び出しができるような施設をあらかじめ選んでおかなくてはなりません。
■外出行事中だけ利用者に目印を付けてはいけないか?
私たちは、幼児を連れて遊園地に行って子供を見失ってしまったら、管理事務所に行って迷子の呼び出しをしてもらいます。この時、子供が誰から見ても判別できる特徴がある服を着ていると、発見が早くなります。逆に言えば、幼児を連れて人混みに出かけるのであれば、「特徴がある服を着ているといざと言う時見つかりやすい」ということになります。かつて私の家でも子供とディズニーランドに行く時は、特徴のある服をわざわざ着せていましたから、「スターウォーズと書いた赤のTシャツを着た男の子が…」と呼び出してもらうとすぐに見つかったことがあります。
同様にグループホームの外出行事でも、利用者に特徴のある服を着てもらえば、施設内放送で呼び出しを行った時に見つかりやすくなります。高齢者のパッケージツァーなどでは、コンダクターが旗を振って旅行者がみな同じワッペンを胸に付けています。ツァーの参加者ははぐれたら困りますから、少し恥ずかしくても素直に目印を胸に付けているのです。
グループホームの外出行事の時に、まさか「○○グループホーム」というワッペンを胸に付ける訳には行きませんから、本人が抵抗なく付けられ、また尊厳を損なわないような工夫をしてあげれば良いと思います。あるグループホームで行事参加者に、「式典の来賓の胸に付ける胸章リボン」を付けたところ、「何の行事ですか」と周囲から尋ねられたという話がありますが、人を探すとき目印になるものであれば何でも良いのです。
施設の職員は行事先の下見などをして、不都合が起こらないかどうか下調べを熱心に行いますが、不都合が起きた時の対応も想定してルール化して欲しいのです。
※大人の場合、正式には「迷子」ではなく「迷い人」と呼びます。
- 09/11
20242024.09.11- デイ送迎車の送迎中の追突被害事故が利用者が後に脳梗塞発作の原因?なぜ施設にも責任?
【検討事例】
真夏のある朝、デイの送迎車が一人目の利用者Yさんを乗せた直後に、他車に追突されました。バンパーに傷もつかない程度の衝突で、Yさんの身体にも影響は無く救急車を断りました。ドライバーはすぐにデイに連絡を入れ、他の利用者のお迎えの手配をして、現場検証の間Yさんと30分くらい車内で過ごしました。ところが、デイに到着するとYさんに意識低下が起こり、病院に救急搬送しましたが、高血圧症の悪化による脳梗塞発作と診断され、介護度が悪化してしまいました。Yさんは血栓予防薬と血圧降下剤(利尿剤)を服用していたので、追突事故での興奮と脱水が原因とされました。デイサービスでは、追突事故の加害者が補償するものと考えていましたが、加害者の自動車保険から支払われずデイの責任だとして家族から賠償請求されました。
■なぜ追突事故の加害者から補償されないのか?
追突事故が起こらなければYさんは脳梗塞にはなりませんでしたから、一見Yさんの脳梗塞発作は追突事故の被害のように思えます。しかし、Yさんは事故発生時に身体に何のショックも受けていません。つまり、この追突事故とYさんの脳梗塞には、「直接的な因果関係が無い」ことになります。事故で骨折し入院した後に肺炎で亡くなっても、事故と肺炎には因果関係が無いため、通常加害者が加入している自動車保険から死亡保険金は支払われないのです。
また、追突事故の加害者は被害者に対して救急車の要請を申し出ており、警察の届け出も行っていますから、事故発生時に被害者に対して行うべき道路交通法上の義務(事故発生時の救護措置)を全て果たしています。すると、加害者側(損害保険会社)の“事故と脳梗塞には因果関係が無い”という主張は正しいことになり、Yさんの脳梗塞の責任を追突事故の加害者(保険会社)に負わせることはできないのです。では、Yさんの家族が主張するように、Yさんの脳梗塞による損害に対してデイサービスの責任はあるのでしょうか?
ご存知のように、デイサービスの業務中に発生した事故で利用者に損害が発生し、デイサービス側に過失があれば安全配慮義務違反として、損害賠償責任が発生します。この追突事故発生時のデイサービスのYさんへの対応に過失があるかどうか検証してみましょう。
■デイサービスの安全配慮義務は広範である
デイサービスでは入所施設ほど厳密ではありませんが、既往症や疾患などの健康状態の情報を把握し、レクリエーションや入浴前には、基本的な健康チェックを行っています。このように、デイサービスでは入施設ほどではありませんが、介護事業者としての健康管理に関する基本的な安全配慮義務を負っています。
ではYさんの場合、デイサービスに求められる健康上の安全配慮義務はどのようなものでしょう?Yさんは脳梗塞の既往症がありますから、脱水や低カルシウム血症などには注意しなければなりません。また、高血圧症ですから血圧上昇につながる高温の環境などには注意が必要ですし、血圧降下剤として利尿剤も飲んでいることから脱水は要注意です。
ところが、Yさんは事故発生時後送迎車内で30分間待たされてしまいました。Yさんは高血圧症で多発性脳梗塞の既往症がありますから、事故現場の車内に長時間留め置かれて、車内から出たり入ったりすれば血圧上昇と脱水が起こるかもしれません。珍しい体験に興奮すれば血圧に拍車がかかります。
このようなYさんの健康状態に配慮すれば、Yさんを居宅にいったん戻して涼しい場所で落ち着いてもらったり、デイのスタッフを呼んでデイにお送りすることもできたはずです。もし、事故後に現場に長時間留め置かれたことがYさんの脳梗塞発症の原因だとすれば、デイサービスの過失は否定できないかもしれません。
■送迎中のアクシデント全てに適切な対処できるか?
さて、本事例の場合運転手の対応に問題があるとしても、そもそもこのような状況で運転手に全ての判断を委ねて良いのでしょうか?送迎車の運行中には様々なアクシデントが起こります。高齢者ですから、運行中に利用者が体調急変を起こすかもしれませんし、持病が悪化するかもしれません。
最近では外注や嘱託の運転手など介護の知識の乏しい運転手が多くなっていますから、利用者の疾患など基本的な利用者の情報を知らない運転手に対して、アクシデント発生時に適切な対処を期待することに無理があるのです。「送迎中に予期せぬアクシデントが発生した時は、デイに連絡を入れスタッフの指示に従う」として、デイのスタッフの指示に任せているところもありますが、デイのスタッフも適切な対応ができる保証はありません。
運行中に最後列のシートの利用者の姿が見えなくなり、施設に到着した時はシートに横たわっていた、という事例があります。運行中の想定されるアクシデントが明確になっていませんから、運転手はアクシデントの発生に気付かないのです。このように、「送迎時のアクシデントへ対応方法」が場当たり的で、基本的なルールが無いのですから、適切な対応を望むべくもありません。
■アクシデント発生時の対応のルール化
送迎時に発生するアクシデントを具体的に想定して、「どのようなアクシデントにどう対応すべきか?」を決めておかなくはなりません。次のようにアクシデントを想定して、対処方法を決めておくと良いでしょう。
①運行中に発生した利用者の異変(急変)②車内での利用者の事故(転倒やシートからの転落)③居宅と送迎車間の移動中の事故④自動車事故による利用者のケガや遅延⑤その他の交通状況などから発生するアクシデント
この5項目に分けて、具体事例を挙げて運転手が何をすべきか、デイサービス側ではどのようにフォローするのかを具体的に決めます。例えば、「送迎車運行中に利用者が意識混濁を起こした」とアクシデントが発生した場面を想定してみましょう。
【運転手自身の対応】「その場でハザードランプを付け路上の安全な場所に停車する。」「利用者は動かさず安静状態を保つ」「場所が分かれば携帯で救急車を要請、分からなければ近所で住所を聞いて119番する」「デイのスタッフが到着するまで利用者の経過を報告する」
【デイのスタッフの対応】「家族連絡を入れ状況を説明して了解を得る」「本人対応のため相談員などスタッフが現場に急行する」「搬送先が判れば家族に連絡する」「他の利用者の迎えに行く車両を手配する」
このように様々なアクシデントを想定して、運転手とデイのスタッフの対応をルール化しておけば、いざと言う時にも適切な対応ができるのです。
- 09/11
20242024.09.11- 1日5回口腔ケアをすべきという家族の要求を断ったら、施設サービス計画書で反論された
【検討事例】ある特別養護老人ホームに入所した91歳の女性利用者の娘さんが、1日5回口腔ケアをして欲しいと言ってきました。「以前肺炎で入院した時に、口腔ケアを徹底するように医師から言われた」というのです。「1日3回で十分口腔内は清潔にできます」と言うと、娘さんは「施設サービス計画書に書いてあるのだからやるべきだ」と言います。計画書を確認すると「誤えん性肺炎防止のために口腔ケアを徹底する」と書いてあります。相談員は「計画書は援助目標を書いてあるので、口腔ケアの回数を言っているのではありません」と理解を求めましたが、娘さんは納得してくれません。口腔ケアは1日何回やるべきでしょうか?
■施設サービス計画書は契約書である
施設サービス計画書は相談員が言うように、ケアプランのように援助目標を記載するものなのでしょうか?実は施設サービス計画書は、契約書と同等の法的拘束力がありますから、計画書に記載してしまったら、契約条項と同じ意味を持ちます。ですから、施設サービス計画書に記載したことを実行しなければ債務不履行、つまり契約違反となります。
施設と利用者との間で締結される契約内容は、入所契約書のみで決まる訳ではありません。通常入所契約を取り交わす時には、入所契約書と重要事項説明書に印鑑を押しますから、この2つの書類が契約書であると思われていますが、そうではありません。
入所契約書や重要事故説明書には全ての契約者に共通する一般的条項しか記載されていません。施設の個別の利用者にどのようなケアを具体的に提供するのかは、施設サービス計画書に記載されて初めて明らかになるので、計画書も契約書の一つなのです。ですから本事例のように、 「誤えん性肺炎防止のために口腔ケアを徹底する」と記載した場合、他の利用者と同じ回数では徹底したことにならず、少なくとも1日4回以上の口腔ケアを約束したとみなされます。
■「歩行は常時見守り必要」と計画書に記載したが
本事例のように、口腔ケアの回数であれば家族に説明して理解を求めることもできますが、もっと重要な事項を間違って記載して大きな問題になった事例があります。あるデイサービスで、認知症の利用者が椅子から急に立ち上がって、そのまま転倒して骨折してしまいました。デイサービスでは、「急に立ち上がって転倒した場合、職員は対応しきれない」と理解を求めましたが、家族は「通所介護計画書に“歩行は常時見守りが必要”と書いてある。見守ってくれなかったから転倒した」とデイの責任を追及してきました。
通常防ぎきれない事故であれば、過失にはなりませんから賠償責任は発生しません。しかし、通所介護計画書に「常時見守り」と書いてしまったら、見守らずに転倒させれば契約違反になり、債務不履行として賠償責任が発生します。利用者を常時見守ることは不可能ですから、できないことは計画書に書いてはいけません。
■契約書であるという認識で作成を
以上のように、施設サービス計画書などの介護計画書は、個別利用者に具体的にどのようなサービスを提供するのかを記載する重要な契約書なのです。しかし、計画書の内容をチェックしてみると、本事例のように「徹底する」「努力する」などの曖昧な表現が多く、いざという時トラブルになりかねません。施設のケアマネジャーは、介護計画書が契約書であるという認識で、できる限り正確な表現で記載する必要があります。
ある施設のケアマネジャーが、本人が希望しているからと言って「年内に墓参りに連れて行く」と計画書に記載して問題になりました。何の相談も受けていない介護主任は「ほとんど寝たきりで外出には危険が伴うので絶対に無理だ」と主張します。家族が「ご厚意はありがたいのですが、うちのお墓は高い階段の上にあるのでとてもたどり着けませんよ」と言ってくれたので、幸いトラブルにはなりませんでした。
居宅介護支援事業所のケアマネジャーが作成するケアプランであれば、「援助目標」の欄に“墓参り”と書いて、実現に努力する旨を記載しても良いのですが、施設サービス計画書は、提供するサービスを記載する契約書ですから、慎重に作成しなければなりません。
- 09/11
20242024.09.11- 転倒事故を防止できなかった職員の責任を追及したら、身体拘束(不適切なケア)につながった
【検討事例】
特養の入所者Dさんは認知症が重い利用者で、車椅子からいきなり立ち上がり転倒することがあるため、職員が交代で見守りをしています。ある時、介護職がDさんの近くで記録を書きながら、見守っていました。すると突然Dさんが立ち上がり、そのまま前に転倒しました。介護職はDさんの動きに気づきましたが、気付いた次の瞬間にはもう転倒していたのです。Dさんは救急搬送され、頭部打撲のためしばらく入院することになりました。家族は「近くに居た職員がもっと注意していれば防げたはずだ」と介護職の謝罪を求め、施設長もこれを認めたため謝罪することになりました。しばらくすると、介護職たちはDさんが立ち上がれないように拘束してしまいました。
■職員がそばに居れば転倒事故が防げるか?
本事例のように、職員がそばで見守りをしている時に、利用者が突然転倒し駆け寄ったが間に合わずに転倒させてしまう事故が、施設では頻繁に起こります。管理者は「そばで見守っているのだから注意していれば転倒は防げるはず」と考えているので、「もっと注意して見守りをすべき」と指導します。また、本事例のような賠償金を請求してくる弁護士も同様に、「介護職員がすぐそばに居たのであるから、十分に注意していれば事故は容易に防げたはず」と決めつけます。事故が裁判になった場合の裁判官の判断もほとんど同じです。
しかし、そばに職員が居たからと言って、常時利用者に顔を向けてじっと見守っていることはありませんから、近くに居たからと言って転倒が防げるはずがありません。また、仮に職員が利用者を注視している時に転倒事故が起こったとしても、すぐに駆け寄って利用者を支えることができるかも疑問です。このように、利用者の近くに職員が居るような場面で転倒が起こっても、現実に防げるケースはわずかなのです。
ところが、「介護職員がすぐそばに居たのであるから、十分に注意していれば事故は容易に防げたはず」と主張されると、施設も過失を認めてしまいますし保険会社も仕方なく保険金を支払ってしまいます。介護現場の状況をよく考えてみてください。介護職員はプールの監視員とは異なり常時利用者が転倒しないように注視している訳ではありませんから、何の予兆もなくいきなり転倒する利用者を駆け寄って支えるなどということは不可能なのです。
■科学的根拠が無いから無過失を主張できない
さて、前述のように防げる確率が低い事故なのに、安易に過失と認定されてしまうのは、なぜでしょう?理由は、職員が近くに居るとどれくらい転倒が防げるかの科学的実証データがないことです。弁護士や裁判官のみならず、介護の現場でも「転倒事故は注意して見守っていれば防げる」と管理者や職員自身も考えていますから、過失と認定されても誰も異議を唱えません。
しかし、「転倒防止のためにもっと注意して見守りなさい」という現場の指導のせいで、介護職員は大変大きな負担を強いられている現状があります。また、「立ち上がるから転倒する、立ち上がらないように座っておいてもらおう」などと考える職員もいますから、身体拘束の問題にもつながるのです。
では、「職員がそばに居ても転倒は防げない」という科学的実証データがあったら、賠償請求や訴訟のみならず、現場での転倒防止対策の考え方も変わるのではないでしょうか?「この利用者の転倒事故は防止確率が10%とほとんど防げないのだから、転倒した時骨折しないような対策も考えよう」とならないでしょうか?
さて、弊社(株式会社安全な介護)では、職員がそばに居て利用者が転倒した場合、どれくらいの確率で転倒事故が防げるのか、実証実験を行い転倒防止確率が低いことを科学的実証データとして確認しました。実証実験のデータを一部ご紹介します。
今後は裁判や現場の事故防止活動においても、これらの科学的実証データを活用して、合理的な過失判断を行うとともに、現場の転倒防止活動の見直しをしていただきたいと思います。
■転倒防止の実証実験とは
1.実験方法
(1)歩行介助中の転倒防止実験
◎利用者は左半身麻痺で右手に杖を持って歩行しています。介護職員はやや左後方の手の届く距離に立ち、いざという時支えられるように付き添って歩きます。介護職員は利用者との接触を避け、歩行の障害にならないように、50センチくらい離れて付き添って歩行します。
◎5メートルの距離を歩行して行き一度だけ転倒しそうになり、介護職員は利用者を転倒させないように支えます。
◎転倒の仕方(転び方)
・転倒の仕方(転び方) 「患側へのふらつき」「膝折れ」「つまづき」の3種類
◎転倒を防止する職員
・1回目~15回目:介護職員(経験年数14年)
・16回目~30回目:介護職員(経験年数4年)
(2)見守り中の転倒防止実験
車椅子に座っている利用者が突然椅子から立ち上がり、直後または一歩踏み出した後に前方に転倒します。少し離れた場所にいる職員が駆け寄って利用者を支えます。
・職員の位置は1.5mと3.0mの2種類
・転倒の仕方は「立ち上がってすぐ」「立ち上がり一歩踏み出して転倒する」の2種類
・職員の見守り方法は「じっと見守っている」「利用者を見たり見なかったり」「記録などの作業をしながら見守っている」の3種類
■転倒防止実験の結果(抜粋)
転倒防止実験の結果は次のようになりました。
(1)歩行介助中の転倒防止実験
転倒の仕方 転倒防止回数
患側へのふらつき 9回/10回(90%)
つまづき 2回/10回(20%)
膝折れ 0回/10回(0%)
合計 11回/30回(36.6%)
(2)見守り中の転倒防止実験
見守りの方法 転倒防止回数
じっと見守っている すぐに倒れる 0回/5回(0%)
1歩踏み出して倒れる 3回/5回(60%)
見たり見なかったり すぐに倒れる 0回/5回(0%)
1歩踏み出して倒れる 3回/5回(60%)
作業をしながら すぐに倒れる 0回/5回(0%)
1歩踏み出して倒れる 1回/5回(20%)
合計 7回/30回(23.3%)
■本実験が実証したこと
本実証実験の結果、歩行介助中の転倒に対しては、転倒の仕方によって防止可能性が異なることが分かりました。ふらつきは防ぐことが可能ですが、躓きと膝折れではほとんど防げないことがわかりました。また、見守り中の転倒については、立ち上がってすぐに転倒するとほとんど防げないことをよくわかりました。
つまり、本事例の転倒事故はもともと防げなくて当たり前の転倒事故ということになります。防げないような事故を防げと介護職に強要すると、介護職は立ち上がらないように身体拘束をするようになります。昨年度から身体拘束廃止の取り組みが強化されましたが、防げない転倒を無理に防ごうとするところにも、身体拘束をしてしまう原因があるのではないでしょうか?
- 09/11
20242024.09.11- デイサービス送迎車から玄関までの移動介助中の転倒事故、原因はケアマネジャーにも?
【検討事例】
デイサービスの利用者のBさんは立位が困難で車椅子全介助の利用者です。しかし、Bさんの居宅は玄関から門扉まで15mも距離がある上、通路に砂利と飛び石が敷いてあり、車椅子での移動介助ができません。単独で立位は困難ですが、職員が両側で支えれば立位が取れるため、毎回この場所だけは職員二人がBさんを両側から支えてゆっくり歩行しています。ある日、Bさんが突然膝折れして転倒して骨折してしまいました。家族は職員の介助ミスだと主張しています。
■職員の介助ミスが原因だが介助環境の危険も大きい
もちろん、本事例の事故の直接的な原因は両側から職員二人で介助していながら、利用者を転倒させてしまったことです。ですから、この事故は職員の介助ミスが原因として過失と判断され、デイサービスが損害賠償責任を負わなくてはなりません。しかし、Bさんの居宅の移動介助の環境は安全な環境だったのでしょうか?立位が取れない身体機能の利用者を、砂利道で立たせて介助して歩行させることは、誰の目から見ても危険なことは明白です。
ですから、本来はこの砂利道を舗装することで車椅子介助ができるようにすべきだったのです。ただし、デイサービスはこのような危険な環境であっても、一旦送迎業務を引き受けてしまえば安全に介助する義務が生じますから、後になって居宅の移動環境の危険が事故原因だと主張することはできません。
実は本事例だけでなく、送迎車と居宅の玄関の間の移動環境が著しく悪いために、無理な移動介助を行なっている例がたくさんあります。「エレベーターが無いために団地の3階まで、利用者を背負って階段を上っている」「玄関の手前に大きな段差があり車椅子から降ろして抱え上げている」「居宅前に送迎車が停車できないため、狭い悪路の路地を車椅子移動する」など、送迎員は様々な悪条件の中で苦労を強いられています。そしてこのような居宅の送迎環境の悪条件のために起きている事故が少なくありません。
■居宅の移動環境の危険を是正するのは誰の役割か?
では、もともとその利用者の居宅が危険な環境で、送迎時の移動介助に事故の危険があれば、どのタイミングで誰がこれらを是正すれば良いのでしょうか?そこで問題となるのがサービス提供開始時のリスクアセスメント(リスク評価)が不十分であることです。ケアマネジャーからデイサービス利用のオファーがあった時、相談員はその利用者のサービス利用上のリスクを評価して、デイサービスを安全に利用できる条件が整っているか判断しなければなりません。例えば、利用者の疾患によってデイサービスを安全に利用できないと判断すれば、相談員はデイサービスの利用を断るはずです。では、相談員は居宅の移動介助の環境が安全な状態であるかどうか、なぜチェックをしないのでしょうか?実は、送迎時の移動介助中の事故の本当の原因は、サービス提供開始時に安全な移動介助の環境であるかどうかをチェックしていないことにあるのです。
■ケアマネジャーの役割が大きい
ケアマネジャーからデイサービス利用のオファーがあった時、デイサービス側の安全なサービス利用のチェック項目に、居宅の移動環境が無いことに問題があると指摘しました。では、デイサービスの相談員が居宅の玄関と門扉の間の移動環境の危険に気付いたら、どのようにこれらの危険を改善すれば良いのでしょうか?次の手順で取り組んでみてはいかがでしょうか?
①玄関の中や外の段差、敷地内の通路など居宅側の移動環境の危険を評価する
まず、ケアマネジャーからサービス提供のオファーがあった時点で、居宅での送迎業務の環境を点検し、著しく危険な箇所があれば改善を求めます。介助員一人での移動が難しければ、ケアマネジャーに依頼して、送迎介助のヘルパーの導入を求めることも考えなければなりません。
②居宅敷地内の移動環境が悪ければ住宅改修の制度も利用する
ケアマネジャーは、居宅敷地内の移動環境が著しく悪く、安全なサービス提供の大きな障害になると判断すれば、家族に対して住宅改修の制度などを説明し改善の協力を求めます。よく「独居の利用者なのでそこまで要求はできない」などと、簡単に諦めてしまうケアマネジャーも居ますが、家族が近所に住んでいる場合などは、「ご自宅の通路は極めて危険で介助歩行も車椅子移動も無理な環境です。事故の危険が高いので改善に協力して下さい」と、家族に交渉しなければなりません。
③改善が不可能であればサービス提供を断ることもあり得る
デイサービス事業者は、ケアマネジャーからデイ利用のオファーがあると、サービス提供を行なうことを前提にそのままの環境を容認してしまいます。もし、ケアマネジャーと家族に環境改善を依頼した上で、どうしても改善が不可能で著しく危険であれば「安全なサービス提供はできない」という理由で、サービス提供を断ることもあり得るのです。
■移動環境の改善は知恵を使えば様々な方法がある
次に、デイサービスの送迎時の移動環境が著しく悪く、知恵を使って改善できた事例をご紹介しましょう。
あるデイサービスでは、築42年の木造アパートの2階に住んでいる独居の男性利用者Hさんを、背負って階段を上り居室まで送迎しており、不安に感じていました。築42年の木造アパートですから、木製の階段もギシギシと音がして手すりがぐらつくなど、介助員はいつも不安を感じていたのです。ある日、利用者を背負って階段を上っている時、介助員がふらついて手すりに捉まると、手すりが根元で折れてしまいました。幸い転落は免れたものの危ういところでした。介助員が大家さんに謝りに行くと大家さんが言いました。「もう古い家だから手すりも折れるよ。1階の居室が空いているから、移ってもらったら楽になるんじゃないですか?」と。早速ケアマネジャーと相談し、Hさんは1階の部屋に移り無理な送迎はなくなりました。大家さんのご厚意というのもHさんのサービス提供を支える大きな社会資源だったのです。
また、あるケアマネジャーさんは、市営住宅の5階に住んでいる独居の男性利用者(車椅子使用)のデイサービス利用の話が出た時に、すぐにデイサービス利用をプランニングしませんでした。「エレベーターが無いこの市営住宅では5階までの上り下りが大変なので、高優賃の1階を申し込んで引っ越しができたらデイサービスを利用しましょう」と言って、高優賃の1階を申し込んだのです。半年後に引っ越しができたので、楽にデイサービスを利用することができました。デイサービスの送迎環境の危険は、利用者の生命にかかわる事故にもつながります。もっとケアマネジャーが関わって改善して欲しいと