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投稿者: anzen-kaigo 一覧
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20242024.11.20- 介護職員が利用者の写真を顔加工して人格を貶めた、家族が市に虐待通報
【検討事例】ある特養の職員通用口の外の喫煙所で、二人の若手男性職員がスマホを見せ合って大きな声で笑っています。「この顔のいじり方最高におもしろ!ラインで送れ」「みんなにも送ってやれよ、受けるぜ」と。どうやら今流行りの顔加工アプリで遊んでいるようです。そこへ運悪くある利用者の息子さんが、駐車場へ行くための通路を歩いて来ました。息子さんに気付いた職員がすぐにスマホを隠して、もう一人に「おい、しまえ」と言って息子さんに会釈しました。
息子さんは「今何を隠したんだ?」と笑いながら、背を向けていた職員のスマホをのぞき込みました。画像を見た息子さんは血相を変えて「それ、うちの母親だろう!」と職員の腕をつかみました。職員は「違いますよ、〇〇さんじゃありませんよ」と言いましたが、そこには顔が加工され首から下を入れ替えられた、他の女性利用者の写真が写っていました。
息子さんが職員からスマホを取り上げ、施設長に抗議すると、施設長は「悪ふざけでも少し行き過ぎていますから、二人にはよく言って聞かせます」と答えました。息子さんは激怒して「介護職員がこんなことをしていいのか?これは虐待だろ!」と主張し、取り上げた職員のスマホを撮影してそのまま市役所に行って介護保険課に提出しました。
市の介護保険課では、「虐待認定はできないが介護職員として不適切な行為であり、コンプライアンスを徹底するよう指導する」と回答しましたが、息子さんは納得しません。今度は家族会で問題にして、「施設は不適切なケアが蔓延している。職員を懲戒処分すべきだ」と主張します。施設では「法律や就業規則に違反した訳では無いので、懲戒処分にはできない、コンプライアンス管理を徹底する」と回答しましたが、息子さんの追及はなかなか収まりません。
■コンプライアンス違反の行為とは何か?
市は「コンプライアンスを徹底するように指導した」と言い、施設は「コンプライアンス管理を徹底する」と言います。最近このような明確に違法性が指摘できないようなケースで、頻繁にコンプライアンスという言葉が使われます。コンプライアンスとはどういう意味で、この施設は何をどう徹底するのでしょうか?
「コンプライアンス」という言葉は通常「法令順守」と訳されますが、法令を守ることだけではありません。もっと広い意味で「法令順守も含め企業が自主的に企業倫理に沿った企業運営をすること」を意味します。
ですから企業は社員が企業倫理に反する行為をしないように体制を作り、社員には企業倫理に沿った行動を守らせなければなりません。ここで企業倫理とは企業に都合の良いものではなく、社会倫理に沿ったものであることは言うまでもありません。ですから、社員は法律に違反しなくても企業倫理や社会倫理から外れる行動をすれば、コンプライアンス違反となるのです。
整理すると次のようになります。
①法律(法令)に違反する行為 (刑法や条例に違反し罰則が科させる)
②他人の権利を侵害する行為(不法行為として賠償責任が発生する)
③お客様との契約に違反する行為(債務不履行として賠償責任が発生する)
④就業規則など業務上の規律に違反する行為(懲戒処分の対象となる)
⑤社会倫理に反する行為(社会のモラルから外れる行為)
⑥介護の職業倫理に反する行為(不適切なケア・介護職員として不適切な行為)
ところで、本事例の職員の利用者の顔加工行為はどのコンプライアンス違反に当たるのでしょうか?施設側では、「介護職員として不適切な行為」として④の行為として捉えているので、懲戒処分を行き過ぎと考えているようですが、これは間違いです。
人の容姿を本人の了解なく撮影する行為は、肖像権の侵害という人権侵害行為であり、不法行為となりますから、②に該当することになります。顔の加工方法が本人に侮辱的なやり方であり、多数の人の目に触れれば刑法の侮辱罪で①該当する恐れもあります。
コンプライアンス違反のクレームは、過度な正義感に基づくクレーマーのように考える傾向がありますが、事業者はもっと慎重に違法性などをチェックしなければなりません。本事例で施設は、顔加工の方法が侮辱的かどうかを判断して、加工された画像がどこまで拡散したかを確認の上、本人と家族に報告して謝罪すべきだったのです。
■コンプライアンス研修
さて、市から指導された「コンプライアンス管理の徹底」とは、具体的に何をしたら良いのでしょうか?「職員にコンプライアンスを守らせろ」と管理者に指導しても、コンプライアンスが何かをきちんと整理できている管理者は少ないですから、前述の4種類のコンプライアンス違反行為を管理者に徹底しなければなりません。管理者研修では事業者や職員個人に対する法的責任などについて教え、管理の徹底手法についてポイントを講義します。
〇コンプライアンス管理の手法
・守るべきルールを事例を交えて具体的に教える
・ルール違反に対する罰則を具体的に教える
・ルール違反に至った原因を分析しルール違反をなくす
管理者研修の次に、職員には具体的な違反事例を示して研修を行う必要があります。私たちは次のような介護事業で重要なコンプライアンス違反の行為について、具体的な事例を挙げて職員研修を行い「やってはいけない行為」を説明しています。
〇職員研修で教えるコンプライアンス違反行為
1.虐待行為
高齢者虐待防止法で定義される虐待行為のほとんどが、刑法の犯罪に該当しますから「虐待行為は犯罪」と認識しなければなりません。
2.身体拘束
不当な身体拘束は介護保険法に違反するだけでなく、悪質な場合刑法の逮捕監禁罪になることもあります。
3.ルール違反などの悪質な事故
介護マニュアルの安全ルールに違反して、故意に危険な介助を行い重大事故を起こせば、業務上過失致死傷罪として裁かれることもあります。
4.契約違反
個人情報の漏洩などお客様との契約に反する行為で損害が生じれば、その損害を施設が賠償しなければなりません。
5.就業規則や服務規律違反
お客様に損害が発生しない行為でも、職員として業務上守らなければならない就業規則や服務規律に違反すれば、懲戒処分の対象となります。
6.不適切なケア、不適切な言動
明確な虐待や身体拘束に至らない行為でも不適切なケアを行ってはいけませんし、介護職員として相応しくない不適切な言動も慎まなければなりません。介護職員には労働契約上の職務専念義務や企業秩序遵守義務があり、懲戒処分になることもあります。
少し前から、保育従事者のコンプライアンスが問題にされ、「不適切な保育」と言う新しい言葉を耳にするようになりました。0歳児の足を持って逆さに吊るす行為は明らかな違法行為ですが、幼児に下着のまま食事をさせることも「不適切な保育」とされて糾弾されました。
当初は企業行動の法令順守が目的とされた“コンプライアンス”はその意味が拡大し、一般市民が要求する多様な規範基準が企業に突き付けられるようになっています。SNSによる私的正義感による企業行動の糾弾も、コンプライアンスの拡大を助長しています。このコンプライアンスの膨張拡大の影響を経営者や管理者はきちんと理解し、市民的倫理規範に合わせていかなければなりません。
先日デイの外出行事で利用者の持っていた障害者手帳で障害者割引を使ったら「制度の趣旨を逸脱している」と家族から抗議がありました。法律にも規則にも違反していませんが、介護福祉従事者という一段高い職業モラルを基準に考えれば、家族の指摘はもっともなのです。
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20242024.11.20- 利用者のセクハラ行為の情報を事業者に伝えたケアマネージャー、個人情報漏洩?
【検討事例】訪問介護サービスを利用している認知症が無い男性利用者Hさん(66歳)は、時々ヘルパーにわいせつな行為をして問題を起こします。事業所の管理者はサービス提供中止の意向をケアマネジャーに申し出ますが、ケアマネジャーがHさん厳しく言うとしばらくの間おとなしくなります。ところが、ある時Hさんがヘルパーの下半身に触る行為があったため、事業所は明らかな違法行為であるとしてサービス提供の中止を決めました。ケアマネジャーは苦労して後任の事業所を見つけ、ていねいに引継ぎを行いました。後任の訪問介護事業所の管理者は、ケアマネジャーに前任の事業所がサービス提供を中止した経緯を尋ね、ケアマネジャーはHさんのわいせつ行為について説明し注意を促しました。
ところが、ケアマネジャーが後任の事業所にHさんのわいせつ行為を伝えたことがHさんの耳に入り、ケアマネジャーにクレームを言ってきました。ケアマネジャーはHさんに「ケアマネジャーは介護サービスが円滑に提供されるよう他の事業所に情報を提供する義務がある」とその正当性を主張します。Hさんは、「ケアマネジャーは個人情報を漏洩し公的なサービスを受ける権利を侵害した」として県の福祉局に苦情申立を行い、弁護士を通じて慰謝料を要求してきました。
■利用者の不利益につながる個人情報は提供してはいけない
ケアマネジャーは、「ケアマネジャーは介護サービスが円滑に提供されるよう他の事業所に情報を提供する義務がある」と言っています。利用者のハラスメントに対しては事業所に情報提供を行って、事業所の従業員を守るのが当然だと考えたのでしょう。利用者はわいせつ行為が違法であることを知りながら行為に及んでいるのですから、ケアマネジャーの言い分にも一理あります。
しかし、一方で利用者の個人情報の利用には法的な制限があります。ケアマネジャーが本人の承諾を得ないでわいせつ行為の情報を他の事業者に提供することは、個人情報保護法違反や契約上の債務不履行になる恐れがありますので検証してみましょう。
個人情報保護法では、事業者が取得した個人情報を他の事業者に提供する場合、本人の承諾が必要となります。しかし、介護サービスの提供では事業者間で利用者の個人情報を共有しなければ、適切なサービス提供ができませんから、サービス提供契約時に契約書などで包括的に利用者の承諾を取り付けています。ですから、利用者の障害の状況やサービス提供内容などの情報を、他の事業者に提供しても個人情報保護法には抵触しません。
しかし、本事例のHさんのわいせつ行為の情報は、契約時に本人の承諾を取り付けた「個人情報の第三者提供」の対象になるのでしょうか?
契約時に本人の承諾を取り付けている個人情報の第三者提供では、本人に対する介護サービスの提供に必要不可欠の最低限の情報でなければなりません。そして最も重要なことは、本人の利益になる情報であることが条件となります。本人の不利益になり本人へのサービス提供の支障になるような、個人情報はたとえ連携する事業者間でも提供してはいけないのです。
このように考えると、Hさんの「ケアマネジャーは個人情報を漏洩し公的なサービスを受ける権利を侵害した」という主張が正しいことになります。では、ハラスメントなどの利用者の違法行為などの情報について、ケアマネジャーはどのように取り扱ったら良いのでしょうか?本事例のケースでは、後任の事業所が直接利用者本人に確認しなければならないことになります。
■介護サービスに必要な情報と本人の不利益にならない情報
介護事業者は本人から個人情報の第三者提供の承諾を取り付けていますが、どんな個人情報でも提供できる訳ではありません。しかし、現状はどのような個人情報は提供してはいけないのか明確になっておらず、本事例のようなトラブルが発生するのです。
では、どのような個人情報は連携する介護事業者に提供してはいけないのでしょうか?本事例から明らかになったことは、次の2点については明確にしておく必要があります。1.本人の介護サービス提供に必要な情報に限られること
これは「個人情報の利用目的の範囲内での取り扱い」という個人情報保護法の規定にもある通り、介護事業者は利用者の個人情報を介護サービスの提供以外の目的で利用してはいけませんし、第三者に提供する場合も同様です。
例えば、家族の情報は全てが直接利用者への介護サービスに必要な情報ではありませんから、限定して取り扱わなければなりません(ただし虐待など本人の安全にかかわる情報は除外)。
2.本人の不利益にならない個人情報であること
契約時に第三者提供について包括的に承諾を得てはいますが、原則は本人の承諾が必要なことは変わりません。本人の不利益につながるような個人情報は本人が承諾するはずがありませんから、包括承諾の対象外になります。
本事例のHさんのわいせつ行為の情報は、事業者や従業員の利益になる情報ですが、Hさんにとっては介護サービスを受けるに際して不利益になる情報です。家族からの理不尽で身勝手な要求などの情報も同様です。
■要配慮個人情報にも注意する
平成27年の個人情報保護法の改正において、要配慮個人情報について取得時に本人の承諾を得ることが義務化されました。要配慮個人情報とは従来センシティブ情報と言われていた、その漏洩が重大な人権侵害につながるようなプライバシー性の高い次のような個人情報を言います。要配慮個人情報については、契約書で包括的に承諾を得ていたとしても、他の事業者に情報提供する場合には個別に承諾が必要と考えなくてはなりません。
(1)人種 (「在日○○人」、「○○地区・○○部落出身」、「日系○世」など)
(2)信条 (信仰する宗教、政治的・倫理的な思想など)
(3)社会的身分 (「非嫡出子」や「被差別部落の出身」であることなど)
(4)病歴 (「肺癌を患っている」や「統合失調症で通院していた」など)
(5)犯罪の経歴 (裁判で刑の言い渡しを受けてこれが確定した事実)
(6)犯罪により害を被った事実 (「詐欺被害に遭った」「インターネットで事実無根の中傷を受けた」など)
(7)身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)など(「医師などから、身体的、精神的な障害があると診断されていること」「障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳などの交付を受けていること、本人の外見から」「明らかに身体上の障害が認められること」など)
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20242024.11.20- 「Mに“はたかれた”」と職員を名指しで虐待を訴える利用者、対応が遅れ市に虐待通報
【検討事例】ある特養で職員の虐待を訴える事件が起きました。軽度認知症の女性利用者Sさんが「Mにはたかれた、見ろ、はたかれた跡や」と顎を示して、職員を名指しで主任に訴えてきたのです。確かに顎に少し赤みがかった跡らしきものがあります。M職員(男性)は日頃から言葉遣いや振舞いに少し問題があったため、主任は「もしかしたら」と考えすぐに施設長に相談しました。
施設長はすぐにM職員を呼んで、「Sさんが“Mにはたかれた”と言っている。顎に跡も付いている。どうなんだ?」と問いただしました。M職員は「虐待なんてする訳がありません。Sさんは認知症がありますから、自分でぶつけたのを勘違しているんじゃないですか?」と否定します。
施設長は主任と相談員を呼んで対応を相談しました。主任は「M職員は荒っぽい性格だから虐待の疑いがある。すぐに通報すべきだ」と言います。相談員は「認知症のある人の訴えを信じる訳にはいかない。家族と話し合って対応すべきだ」と言います。施設長は「証拠も無いのに虐待と決めつける訳にもいかない」と迷い、対応方針が決まりません。
このように施設長室で相談をしていると、面会に来た娘さんがSさんの訴えを聞き施設長室にやってきました。「父が職員に“はたかれた”と言っている。虐待じゃないか!」と大変な剣幕です。施設長が「今職員に事情を聴いていますので」と言うと、娘さんは「父は多少認知症はあるけど大事なことを間違えたりしない。本人がMだと言っているんだから間違いない」と主張します。娘さんは自ら市に虐待通報し「施設は虐待を隠そうとしている」と言いました。
■なぜ虐待通報されてしまったのか?
本事例では、本人からの訴えを施設で把握していながら、「家族からの虐待通報」という最悪の事態になってしまいました。では虐待の訴えがあった直後にどのような対応をするべきだったのでしょうか?重要なことは「迅速な事実確認と家族連絡」です。
まずは迅速に事実確認を行わなければなりません。訴えがあった時点で施設長が直接利用者と職員双方から詳しく事情を聴き、口頭で家族に連絡します。本事例のように対応を相談してボヤボヤしていると、本人が面会に来た家族に訴えてしまいます。家族は施設からの報告よりも本人の訴えを先に聞けば「なぜすぐに家族に報告しないのか?隠そうとしているのだろう」と隠ぺい工作を疑います。家族には訴えがあったことを迅速に連絡しなければなりません。
次に、利用者と職員双方から聞き取った記録を家族に示して説明し、施設としての対応方針を説明します。虐待の疑いへの対応で最も重要なポイントは、この施設の対応方針をていねいに説明することです。施設の対応方針を家族が納得すれば、対応方針通りに調査などの対応を進めていきますが、市にも連絡を入れておきます。家族と協議した対応方針を書面で送り、調査結果について報告すると連絡します。家族には施設が隠すことなく公明正大な対応を行うことを理解してもらえば、当面大きな混乱は避けられます。
■虐待の訴えに対する対応手順はあらかじめ決めておく
どの施設でも利用者からの虐待の訴えが起こることは考えられますが、この時の対応を決めている施設はほとんどありません。本事例のように訴えの直後にモタモタして、適切な対応ができなくなってしまいますから、あらかじめ対応手順を決めておく必要があります。次の通り対応手順をまとめましたので参考にしてください。・訴えの直後に利用者、職員双方から事実を聴き取り記録する。
訴えの信ぴょう性を評価する必要はありませんから10分程度で迅速に行います。
・他の職員や利用者などから目撃情報などを聴き取り記録する。
その場に居合わせた職員や他の利用者などにも、心当たりが無いかを確認します。
・利用者と職員への聞き取り後速やかに家族に連絡する
「利用者から職員による虐待の訴えがあったのでこれから調査などの対応を行うので、対応方針を説明したい」と連絡します。
・利用者と職員の聴取記録から被害事実の信ぴょう性について家族と協議する。
たとえ認知症があっても被害の訴えが事実である可能性は高いので、訴えの信ぴょう性の評価は家族の判断に従う。
・被害事実の可能性が高いと判断すれば、事故と虐待の両面から調査を行う。
「“職員の手がぶつかった”という事故を、利用者が虐待と誤解するケースは良くありますから、虐待の有無だけではなく事故事実を綿密に調査します。
・役所や警察への通報について説明する
「施設で調査を行って虐待の事実が判明すれば、施設から市や警察に虐待通報をしますが、現時点では市に連絡を入れ随時報告を入れます」と説明します。
・疑惑のある職員の処遇について説明する
当面は被害を訴えている利用者の不安に配慮し、虐待疑惑のある職員の職場を変更します。
・調査の期間は3日~5日程度として調査を行い施設の判断を家族に伝える。
必要な調査を行い職員による虐待の可能性を家族に報告します。虐待の可能性が極めて高い場合は、証拠が無くても「虐待の事実があった」と判断して報告します。
・虐待と判断した場合は役所に報告し、場合によっては警察にも通報します。
市への報告は施設の義務であり、警察への刑事告発は家族の判断であることを家族にはきちんと説明しておきます。
・虐待の事実が判明した時は、職員の懲戒処分を行い家族に説明する。
法人の懲戒規程に則って適切に行うことを説明する。
■虐待の事実が確認できなかったら
施設では利用者と職員の聴取記録や、他の職員や利用者への聞き取り、また日頃の職員の勤務態度や過去の賞罰などを調査し、最終的な結論を出します。職員が虐待の事実を認めればすぐに決着しますが、ほとんどの場合職員は否定しますから実際はそれほど簡単ではありません。
たとえ、職員が否定しても客観的に判断して虐待の可能性が極めて高いと判断されれば、施設は虐待が発生したと判断して家族に説明し、通報などの対応を行わなければなりません。施設から警察に職員を刑事告発することもあります。
では、虐待の可能性が極めて職員が頑強に否定したらどうすれば良いでしょうか?証拠も無いのに懲戒処分にすれば、懲戒権の濫用として労働者への人権侵害となりますから注意が必要です。多くの場合、懲戒処分を行わずに他の職場に異動ということが考えられます。
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20242024.11.20- 「毎日入浴させろ、当然の権利だ」というクレーマーに根負けした施設長!
【検討事例】
Hさん(84歳女性・要介護3)は、在宅で息子さんが介護していましたが、息子さんの仕事の都合で介護付き有料老人ホームに入所することになりました。入所前の施設の説明に対して「え?週3回しか入浴できないのですか?」と不満を漏らしました。入所後すぐに施設長に面会を求め、「母は肌が弱くきれい好きなので毎日入浴させて欲しい。家では毎日きちんと風呂に入っていた」と要求してきました。「週3回の入浴は施設の決まりですから」と施設長が断ると、「契約書には3回しか入浴できないとは書いてない。『個別のニーズに応えます』というのは嘘か?」と主張します。
その後も「施設長だって毎日風呂に入るだろう」「身体が不潔だとストレスになり病気になるし認知症も悪化する。そうなったらアンタ責任取るのか?」と執拗に要求してきます。施設長は息子さんに理解を求めようとしましたが、相手を納得させるような根拠を明確に示して説得することができません。ついに息子さんは、「毎日入浴するなんて最低限の文化的な生活だろう」ともっともらしい理屈を付けて主張し、施設長は根負けして要求を受け入れてしまいました。Hさんの息子さんは、介護職員に対して「イマドキ毎日入浴するのは当たり前だからね」と勝ち誇ったように言います。しばらくして、息子さんは1日5回の口腔ケアを要求してきました。
■なぜ施設長は息子さんの要求を受け入れてしまったのか?
最近では入所施設でも家族によるカスタマーハラスメント(威圧的・暴力的要求)が問題になっていますが、ハラスメントの前提には理不尽で身勝手な要求があります。これらの要求に対抗できずに安易に受け入れてしまうと、増長して次々と無理な要求を繰り返してクレーマーに変貌してカスタマーハラスメントにつながるという構造があります。ですから、これらの身勝手な要求に対しては、毅然と対抗してNoと言わなければなりません。
相手はその要求根拠として一見もっともらしい理屈を付けてきます。この理屈に対して、相手が納得せざるを得ないような根拠を示して要求を断らなければなりません。Hさんの息子さんの要求根拠は、「毎日入浴しなければ病気になる」であり、その正当性の根拠は「イマドキ毎日入浴するのが当然」などでした。人によって考え方は異なりますから、これらの屁理屈のような要求根拠を、“バカらしい”と否定することもできません。では、これらのもっともらしい理屈の付いた要求に対して、どのように納得性のある根拠を示して要求を断れば良いのでしょうか?
■ 「契約上できない」とは言えない
介護付き有料老人ホームの入居契約書で「週3回を超える入浴はできない」との記載はありませんから、「契約上できない」という理由で要求を拒否することはできません。無理な要求をしてくるクレーマーの中には、契約書を隅々まで読んで自分の要求が契約上正当であることを示してくる手ごわい相手が少なくありません。
また、特養や老健などの入所施設では提供するサービスに上限が決められていませんから、もっともらしい理屈を付けてサービスの上乗せ要求をされると断りにくいという面があります。居宅サービスで「息子のご飯もついでに作って欲しい」と要求されても、「規則でできません」と容易に断ることができます。しかし、施設サービスは介護度に応じた定額の包括サービス契約であって、「飲み放題・食べ放題」と同じなのです。では相手に負けないように理論武装をして、納得せざるを得ない根拠を示して対抗するにはどうしたら良いでしょうか?
■誰もが納得できる根拠を示して拒否する
介護保険サービスは、公的な制度に基づいたサービスですから、制度運営上公平性が重視されます。ですから、本事例のように自分の利益のために特別に手厚いサービスを要求してくる場合には、公的制度であることを理由に次のように主張すれば良いでしょう。
・介護保険のサービスは介護保険制度という公的な制度で運営されているサービスなので、特定の利用者に対する過剰なサービスは利用者の公平性の観点から適切ではない。
・職員配置は介護保険制度で決められており、介護報酬も定額であり職員は増やせないので、現状の職員配置では毎日の入浴は業務の支障となる。
また、健康管理上の理由やケアの必要性を根拠に無理を言って来る場合があります。例えば、「褥瘡防止のためには2時間おきの体位変換をすべきだ」とか、「誤嚥性肺炎防止には1日5回の口腔ケアが必要だ」というような要求です。これらの要求については、「医学的根拠が無いのでケアを増やすことができない。医師の指示があれば検討する」と答えれば良いでしょう。
以上のように、クレーマーに変貌してカスタマーハラスメントにつながるような無理な要求に対しては、あらかじめ対抗手段を決めておかなければなりません。一度無理な要求を受け入れてしまうと、必ずエスカレートするのもクレーマーの特徴ですから。
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