投稿者: anzen-kaigo 一覧

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    ショートステイで緩んだ入れ歯が外れて破損、「施設が預かるべき」という家族

    《検討事例》                   ≫[関連資料・動画はこちらから] 
    Sさん(96歳女性)は認知症のある利用者で、月1回M特養併設のショートステイを利用しています。Sさんは義歯(総入れ歯)が合わなくなっており、就寝時に口から外れてしまうことがありますが、認知症が重く自分で義歯を安全に管理することができません。初回利用時に、家族が介護職にそのように言うと「夜寝る時には入れ歯はこちらで保管しておきますね」と言ってくれたので、毎回就寝時には義歯を保管してもらっていました。
    ある時、夜勤の介護職がSさんの義歯を保管せずに寝かせてしまったので、義歯が外れて布団の中で割れてしまいました。介護職はショートステイに異動したばかりだったので、Sさんの義歯を保管することを聞いていなかったのです。
    この報告を聞いた施設長は家族に対して次のように説明しました。「ケアマネジャーが作成したケアプランにも、こちらが作成した介護計画書にも“就寝時に義歯の保管が必要”とは、記載がありませんし、ご家族からもそのような依頼も受けたことがありません。従って、施設には義歯を保管する義務がありませんから、賠償することもできません。」
     家族は義歯が高価だったこともあり、この施設長の説明に納得できずに抗議しましたが受け入れられなかったため、後日市に苦情申立書を提出しました。
    《事例検討解説》
    ■認知症利用者の義歯について保管義務は無いか?
     本事例において、施設長が主張するように義歯の破損について、施設側に責任は無いのでしょうか?認知症があり自分で義歯を管理できない利用者に対して、施設は臥床時や就寝時に利用者の義歯を預かるなどの、義歯を安全に管理する義務はないのでしょうか?
     本事例の場合、初回利用時に就寝時には義歯を預かる必要性を家族に説明して、「入れ歯は施設側で保管する」と申し出ています。介護のプロが利用者のケアに必要な措置であると判断して家族に申し出て、その後も繰り返して実行しているのですから、ケアプランや介護計画書に記載がなくても契約として履行する義務が生ずるかもしれません。たとえ口頭であってもサービスの提供方法について、お客様と個別の約束をすれば、契約内容の一部とみなされ履行の義務が生ずることがあるのです。家族から義歯を保管するよう依頼があって、これを了承した場合も同じです。
     ですから、施設長は利用者から義歯を預かるようになった経緯をきちんと調べ、賠償責任の判断についてもっと慎重に検討しなければなりませんでした。
    ■利用者の身の回り品の管理のルールは?
    利用者がショートステイ利用時に身に付けてくるものはたくさんありますが、破損や紛失などのトラブルの原因になる高価な物は義歯だけではありません。高価な補聴器を紛失したことで、トラブルになった例はたくさんあります。では、利用者がショートステイに持ち込む装具や身の回り品などで、高価な物は全て施設側で預かり安全管理をしなくてはならないのでしょうか?
     ショートステイにおけるサービス提供の内容については、家族の要望やケアプランに沿って決める必要がありますが、「利用者の居宅での日常生活の状況や家族の介護方法に沿って必要なケアを提供すべき」であると考えられます。ですから、居宅でも家族が就寝時に義歯を保管しており、介護サービス提供上必要であれば義歯を保管しなければなりません。
     「破損の危険がある高価な物はお預かりします」というショートステイを良く聞きますが、あくまでも「利用者の生活に必要なケア」という観点で判断すべきで、高価な物かどうかは関係ありません。「総入れ歯が緩んでいて外れると困るので食事中は外して保管しておきます」という施設がありましたが、義歯は食事をするための装具であり、義歯が無ければ食事という大切な生活行為ができなくなってしまいます。義歯が外れないように歯科医師に調整してもらうか、その場は入れ歯安定剤で外れないようにすることが必要かもしれません。
    ■義歯が緩んでいることも大きなリスク
    施設側も家族も義歯が緩んで外れて破損することばかり気にしていますが、本来義歯が緩んでいること自体が問題なのですから、義歯が緩むことで発生する他のリスクについても家族に伝えなければなりません。義歯が緩んでいれば咀嚼がうまくできなくなりますから、誤えん事故の原因になるかもしれません。
    義歯が外れることで起こる事故はあまり知られていませんが、次のような事故も発生しています。
    ・食事中に総入れ歯を紛失し食卓や厨房の残飯なども全て調べたが見つからず、3日後利用者の排泄物の中から発見された。
    ・食事中に差し歯の金具が口腔上部の口蓋に刺さっており、口腔外科で処置をしたのが2時間だった。くしゃみをした弾みで外れて刺さったらしい。
    総入れ歯や差し歯などの義歯が合わなくなれば様々なリスクが生じますから、具体的なリスクを説明して義歯が暗転するような処置を家族に依頼する必要があります。食道に詰まるような事態になれば生命の危険にかかわることも考えられるのですから。
    ■義歯を外すことのリスクは無いのか?  
     最後に少し異なる視点から検証してみましょう。高価な義歯も多いので、施設も家族の義歯の安全管理ばかりを問題にして、「義歯を預かるべきかどうか」が論点になってしまいます。しかし、就寝時や臥床時に義歯を外してしまうことで、利用者の生活に与える悪影響があることも考慮しなければなりません。
     具体的には、総入れ歯を外して仰臥位で臥床すると、舌の位置が固定できずに舌根沈下(舌が喉の奥に落ち込んでしまう)を起こして気道を狭めるため、低酸素脳症となり意識障害を起こすことがあります。私たちが仰向けに寝ても舌の位置が安定しているのは、舌の先を前歯上部の根元に押し付けているからなのです。また歩行ができる利用者であれば、総入れ歯を外すことで歩行が不安定になり転倒事故の原因にもなります。ですから、義歯の安全だけに配慮するのではなく、義歯を外すことで起こる利用者の生活への悪影響についても家族にていねいに説明しなければなりません。

  • 02/21
    2025
    2025.02.21
    リスクマネジメント情報室会員向けに基本課題動画12本を常時無料配信(2025年度)

    2025年度より情報室通常会員向けに、リスクマネジメント基本課題の動画を常時配信します。年間22,000円でマニュアルダウンロードや動画ニュース配信など多彩なサービス。2025年度会員募集は3月25日までですのでお早めに。≫動画配信のご案内 ≫パンフレット

  • 02/19
    2025
    2025.02.19
    ショート動画「介護現場実践シリーズ」スタート!3月31日まで無料配信!

    「介護現場実践シリーズ」は、事故事例から原因分析と再発防止策検討を解説する介護職員向けの10分の動画です。短時間で事故防止対策のポイントを理解することができます。安全な介護にゅーす読者には、3月31日まで6本無料配信しています。≫読者登録はこちらから ≫サンプル視聴

  • 02/18
    2025
    2025.02.18
    2025年度「対面・オンラインセミナー(事例検討ができる)」のご案内

    2025年度の対面・オンラインセミナーのリストをご案内させていただきます。来年度は新たにほとんどすべてのセミナーで、事例検討のグループ討議が可能になりました。セミナーデータから紹介動画・テキストや検討事例などがご覧いただけます。≫セミナーリスト

  • 02/10
    2025
    2025.02.10
    会員制情報サイト「介護リスクマネジメント情報室」4月会員募集のご案内

    「介護リスクマネジメント情報室」は、動画やニュース配信、マニュアルダウンロードなどのサービスが受けられる通常会員と、160本の動画セミナーがワンクリックで常時視聴できるプレミアム会員があります。ご加入をご検討ください。≫ご案内はこちらから

  • 02/04
    2025
    2025.02.04
    法定職員研修年間プラン(10回)のご案内

    今年度に引き続き、2025年度の川村講師による法定職員研修(オンライン)の年間プランを募集します。セミナー録画配信に続き、今年度をは現場職員用ショート動画をその都度配信します。忙しい現場で短時間の研修も可能ですのでご検討ください。≫ご案内はこちらから

  • 02/02
    2025
    2025.02.02
    2月安全な介護にゅーす:「転倒事故が前年比30%増加」はなぜ問題なのか?

    毎年5月頃になると法人本部が前年度の事故件数を集計して、「今年の事故防止目標は・・・」と言ってきます。なぜ事故が増えると問題なのでしょうか?意味のない分析止めましょう。≫読者登録はこちらから

  • 01/04
    2025
    2025.01.04
    リスクマネジメント情報室ライブラリーに「事故&トラブル対策事例集」追加

    リスクマネジメント情報室(弊社会員制情報サイト)のライブラリーに「事故&トラブル対策事例集」が追加になりました。11テーマ193事故トラブル事例を徹底解説!会議や勉強会などでご活用ください。
    ≫事例集見本   ≫リスクマネジメント情報室案内

  • 01/03
    2025
    2025.01.03
    1月安全な介護にゅーす:送り忘れて送迎車に一晩放置、「真冬だったら凍死していたぞ!」

    送迎車の降ろし忘れ事故はお迎えだけではありません。自宅に送り届けたと思い施設に連れ帰り、駐車場に一晩放置した事故も起きています。お送りの送迎も降ろし忘れ防止点検を!≫読者登録はこちらから

  • 12/30
    2024
    2024.12.30
    介助中の職員に「介助がヘタだ」と文句を言い続ける息子、職員は適応障害に

    《検討事例》                   ≫[関連資料・動画はこちらから] 
    Hさん(女性・83歳)は認知症がある左半身麻痺の利用者で、特養に入所してきました。キーパーソンの一人息子は介護に熱心で、自ら初任者研修の資格を取得しており、ショートステイ利用中も何かと職員に注文を付けていました。
    Hさんが入所すると息子は2日に一度来所し、居室担当の女性職員の介助方法に文句を言うようになりました。当初は「ホントにおまえは介助がヘタだな」と文句を言うだけでしたが、職員が従わないと「このど素人が何やってんだよ、お前資格持ってんのか?」などと、介助している間職員を罵倒し続けます。
    見かねた介護主任が「お母様の介助方法については任せていただきたい」と言うと、介護実技のテキストを持ってきて「施設のほうが間違っている」とを1時間も主張しました。施設長に相談しても、「介護熱心な家族で間違ったことを言っている訳ではないから」と対応してくれません。
    ある時、居室担当の女性職員が息子の介助方法に反論すると激高して、「母に事故でもあったらお前殺すぞ!」と言って、近くの椅子を職員の方に蹴飛ばしました。その後職員は出勤する時に激しい動悸に襲われ、心療内科を受診し適応障害と診断されました。
    報告を受けた主任が息子に対して、「横暴な態度を改めないと利用を断ることもあり得る」と強く抗議すると、「自分たちの介護のやり方が間違っているのに、退所をちらつかせて家族を脅した」と市に苦情申し立てをしました。市から対応を求められた施設長は、主任に「息子さんの態度が少し悪くても利用拒否はできないから」と注意しました。主任は翌月退職し市内の他の施設に移って行きました。

    《事例検討解説》
    ■暴力的行為でなくても大きな精神被害
     この介護熱心な一人息子の要求や言動は、施設長が言うように“介護熱心な家族で間違ったことを言っている訳ではない”のでしょうか?執拗に自分の介助方法を職員に要求し、従わない職員を介助中ずっと罵倒する行為は許されるのでしょうか?この息子の行為は明らかなカスタマーハラスメントであり、施設もしくは法人が組織的に対抗しなければなりません。このように、違法性や不法性が不明確なハラスメントは大変多く、施設では「困った家族の振舞い」程度の認識しかないので、悪質クレーマーからの職員の被害が増えているのです。
    一般的にカスタマーハラスメントは、「従業員に対する嫌がらせや暴力的・威圧的な要求や言動」とされていますが、この息子の要求や言動を一つ一つ検証すれば明らかなハラスメントであることが分かります。
     介護職員が利用者を介助している間ずっと文句を言って罵倒し続ける行為は、間違いなくハラスメントです。介護職員は介助行為を行っている間、執拗に介助方法を否定され罵倒され続けられたら、強烈な精神的な苦痛を受けます。たとえ、暴力的・威圧的行為でなくても「執拗な精神的攻撃による嫌がらせ」はハラスメントなのです。ひどい精神的苦痛を継続的に受けると、強度のストレスによってストレス障害、うつ病、パニック障害など精神面身体面での症状が出ます。「母に事故でもあったらお前殺すぞ!」という言葉と、「椅子を職員の方に蹴飛ばしました」と言う暴力的な行為によって、恐怖心も加わり激しい動悸と言う適応障害の症状につながったのでしょう。
     それでは、主任の抗議は正しかったのでしょうか?息子の職員へのハラスメントが、たとえ違法行為や不法行為であっても、いきなり「利用拒否もあり得る」という告知は妥当とは言えません。特養の入居者に対して利用拒否とは退所を意味しますから、その主張を行うにはきちんと根拠を示して警告や予告などの手続きを踏まなくてはなりません。
    では、この息子に対してはどのような根拠を示して、どのような手続きを踏んで対抗すれば良かったのでしょうか?
      
    ■ハラスメント行為の検証を行う
     カスタマーハラスメントに対抗するには、まず相手の言動を検証して執り得る対抗手段を明確にしなければなりません。その上で、相手の違法行為や不法行為などを主張し法的な対抗手段を示さなければなりません。まず、この息子の行為を分析・評価してみましょう。
     前述のように、たとえ介助方法が家族の要望にそぐわなくても、介助中に後ろから罵倒し続ける行為は、職員の被る精神的苦痛を考えれば、不当な嫌がらせ行為と言えます。家族であっても、職員の介助行為の妥当性について説明を聞き、施設側と話し合わなければなりません。不当な嫌がらせ行為による精神的苦痛によって職員の適応障害が引き起こされたのであれば、不法行為による損害賠償請求が可能かもしれません。
     次に、自分の介助行為に反論されたことに腹を立てて、職員に「母に事故でもあったらお前を殺すぞ!」と言って椅子を職員の方に蹴飛ばしましたという行為を分析してみましょう。「お前を殺す」という言葉はただの暴言ではなく、刑法の脅迫罪に該当する犯罪行為になるかもしれません。職員に向かって椅子を蹴飛ばすという行為は、職員に椅子が当たらなくても暴行罪になります。

    ■法的対抗手段を明示して通告する
     家族が施設職員に対して、刑法に抵触する犯罪行為を行えば刑事告訴も可能ですし、契約解除つまり利用拒否の正当な理由にもなります。また、家族の不法行為によって職員がメンタルに不調をきたして受診したのですから、不法行為責任を理由に損害賠償請求を行うこともできますし、債務不履行責任による解約解除も可能になります。
     このように、クレーマーの不当な行為に対して刑事告訴や不法行為責任による賠償請求などの法的対抗手段を明示した上で、「ハラスメントを止めなければ契約解除も辞さない」と警告する必要があります。当然、口頭ではなく文書で通知することも必要ですし、施設長や相談員ではなく法人本部の担当者から通知する方が効果的です。このようなケースを解決するために、私たちは法人本部の「顧客相談室長」の名前で通告書を作成して、内容証明郵便で郵送することがあるのです。
     カスタマーハラスメントを行う悪質クレーマーの多くは、自分の行為が犯罪行為であるという認識もありませんし、精神的苦痛を理由に賠償請求され得ることも念頭にありません。厳しい対抗手段を警告し自分の悪質な行為を認識させて止めさせなくてはならないのです。管理者は「根気よく説得する」という言葉を使いますが、職員に被害を与える悪質クレーマーに対して気長に説得する余地などありません。ハラスメント行為の重大さを認識させ、愚かな行為によって自分が被る不利益を理解してもらわなくてはならないのです。
    最後に、みなさんは労働契約法の事業者の義務として、「職場環境配慮義務」があることをご存知でしょうか?労働契約法第5条によれば、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明記されているのです。
    つまり、使用者はパワハラ・セクハラ・カスハラなどのハラスメントによって、職場の環境が損なわれないようにする労働契約上の義務「職場環境整備義務」があるのですから、もっと積極的にクレーマーにハラスメントの中止を求めなければならないのです。

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