投稿者: anzen-kaigo 一覧

  • 09/11
    2024
    2024.09.11
    デイサービス送迎車の人身事故、1年前に同じ地点で起きたヒヤリハットが活かされず!

    【検討事例】
     ある日の夕方、利用者送迎中のデイサービスの送迎車が、保育園の裏口の付近を通過しようとしました。保育園の裏口には、園児を迎えに来た母親が道路の脇で何人も立ち話をしていたので、運転手はこれを避けて通過しようとしました。その時、立ち話をしている母親の間から園児が飛び出してきて、徐行している送迎車の左前に衝突しました。すぐに119番通報し警察を呼びましたが、幸い軽症で済みました。翌朝のミーティングで、所長が他のドライバーに前日の事故について説明し注意を促すと、ドライバーの一人が「1年前に同じ場所で同じヒヤリハットがありました。今でもヒヤリハット報告書を持っています」と言いました。
    ■事故防止に活かさせないヒヤリハット
    このデイサービスの所長は、日頃から事故防止活動に熱心に取り組み、「ヒヤリハットシートをもっとたくさん出すように」と職員を厳しく指導している人でした。その事故防止活動の管理者が、提出されたヒヤリハットシートの情報を読みもせずにバインダーに眠らせていたのですから、所長は立場がありませんでした。
    “ヒヤリとした”“ハッとした”とう事故寸前の体験を記録し、この情報を職員が共有して事故防止に活かすことが、ヒヤリハット活動の目的です。ところが、このデイサービスではヒヤリハットシートを書いて提出することが活動の目的になっていて、ヒヤリハットシートが事故防止活動に全く活かされていませんでした。ヒヤリハット活動の本来の目的が忘れられていて形骸化しているのです。
    特養などの施設でも同じことが言えます。特定の利用者などの転倒のヒヤリハット情報なども、シートに書いて提出するだけで、他の職員との情報共有さえできていないのです。せめて「ヒヤリハット情報は毎朝ミーティングで報告する」というルールにして、1年前のヒヤリハット情報を共有していたら、本事例の事故は防げたかもしれません。
    ■交通事故のヒヤリハット情報はどのように共有すべきか?
     さて、送迎中の自動車事故のヒヤリハットはミーティングで報告するだけで、正確な情報が共有できるのでしょうか?転倒のヒヤリハットであれば「〇〇さんの歩行の介助中に膝折れして転倒しそうになった」という情報を職員が共有できれば、他の職員もその利用者の歩行介助時に膝折れによる転倒に備えることができます。
     しかし、送迎中の自動車事故のヒヤリハットの場合、ヒヤリハット発生地点を正確に把握して、危険に対処する運転をしなければなりません。ヒヤリハット発生地点は、ヒヤリハットシートの文書を読んでも、また住所で示されても正確に把握することはできませんし、具体的なリスクの発生状況も文字では把握しきれません。では、ヒヤリハット地点と具体的なリスク発生状況を、どのような方法で共有したら、自動車事故防止に活かせるのでしょうか?
    ■ヒヤリハット発生地点は危険箇所マップで共有する
    東京都のある社会福祉法人では、全てのデイサービスでヒヤリハットをビジュアル化する取組をしています。具体的には、危険箇所マップを作成してヒヤリハット発生地点を地図上で把握し、ドライブレコーダーの画像でリスクの発生状態をビジュアルに把握する活動をしているのです。
    初めに危険箇所マップによる、危険箇所の把握と共有方法をご紹介します。送迎エリアを1枚の大きな地図にしてデイルームの隅に貼り出します。送迎中にヒヤリハットが発生すると、ドライバーはヒヤリハットシートを記入し提出した後に、マップ上のヒヤリハット発生地点に付箋を貼ってどのようなリスクが発生したのかを書き込みます。図のように、保育園のお迎えのママさんの影から園児が飛び出して来たら、「保育園送迎飛び出し注意」と記入します。もちろん、翌朝の朝礼でヒヤリハットを報告しますから、他のドライバーは発生地点を地図ですぐに確認できます。
    デイサービスを訪れた利用者の娘さんがこのマップを見て、「私も注意しなくちゃ」と言って、スマホで写メして帰ったそうですから、家族にも事故防止の姿勢が伝わって評判は上々だそうです。
    ■ドライブレコーダーの画像を閲覧
     次の事故発生状況の把握と共有方法です。ドライバーからヒヤリハットシートが提出されたら、所長はドライブレコーダーの画像をWEBで入手します。パソコンにヒヤリハット情報の画像をダウンロードしたら、始業点検前にドライバーを全員呼んでヒヤリハットの画像を見ながら注意を促します。ドライバーは臨場感溢れる画像で、自らがヒヤリハットを体験したと同じように感じるため細部にわたる安全配慮運転ができるようになります。図のような自転車の飛び出しの場面を見ていると、反射的にブレーキを踏もうとして思わず足が突っ張ってしまいます。
     このようにして、ヒヤリハット発生地点と発生状況をビジュアルに把握することによって、その危険箇所地点に差し掛かった時に、自然に徐行運転ができるようになります。この社会福祉法人では定期的に全てのデイサービスの送迎車ドライバーを一堂に集めて、ヒヤリハット事例についてグループで討議する検討会も行っています。

  • 09/11
    2024
    2024.09.11
    トイレの外で待機中に便座から転落して重症、ドアを閉めているから見守りはできない。

    【検討事例】
     特養の職員Hさんは、左片麻痺で車椅子全介助の利用者をトイレに連れて行き、便座に移乗させました。Hさんは、座位は安定しており本人の強い希望もあって、トイレ誘導で介助をしています。「終わったら呼んで下さい」と言ってドアを閉めて外で少しの間待ちました。1分もしないうちに、ゴンという鈍い音がしたのでドアを開けてみると、利用者が麻痺側の左前方に転落していました。利用者は床に頭部を強打して、意識不明となり救急搬送されました。Hさんは「座位が安定しない利用者はオムツでも仕方がない」と事故報告書に書きました。
    ■トイレ内に入れないので見守りでは転落が防げない
     Hさんは転倒事故も転落事故も、職員の見守りによって防がなくてはいけないという考え方ですから、見守りができないトイレ内で便座から転落する危険があれば、「トイレでの排便は無理」という結論になってしまいます。Hさんは「座位が安定しない利用者はオムツでも仕方がない」と決めつけていますが、大切なことを忘れています。それは「便座から転落しないような対策」と「転落してもケガをさせない対策」を何もしてないで、自力での排泄は無理としていることです。まず、便座から転落する原因と、大きな事故につながる原因を考えてみましょう。
    ■便座から転落する原因
    ① 便座がその人にとって高すぎる
    多くの高齢者は体格が小柄で便座に座った時、両足の踵がしっかり床についていないため、座位が安定しません。80代の女性の下腿長(膝下の長さ)の平均は36センチで、普通の便座は床から42センチの高さですから、6センチも足りないことになります。
    ② 移乗した時座位の安定を確認していない
    便座への移乗を介助した時、介護職は座位の位置を確認しているでしょうか?便座は微妙なカーブを描いていて、正確に中心に座らないと座位が安定しません。移乗しただけで中心に座っているとは限りませんから、位置の確認が必要なのです。
    ③ 便座が大き過ぎる
    体重が30キロ前半のような体格が小柄な女性では、お尻が小さすぎて便座の穴にすっぽりハマってしまう人もいて、便座の穴が大き過ぎてバランスを崩す人もいます。
    ④ 座位上の安定を支えるものがない
    便座上で座位の安定を支えるものとして、壁の横手すりにつかまったり、可動式の手すりに捉まることが考えられます。しかし、手すりに捉まって座位を保持するには握力が必要ですので、握力の弱い人はかなり難しくなります。
    ■大きな事故につながる原因
    ①座位から直接頭部を床にぶつける
    施設のトイレは健側にL字手すりがついていて、麻痺側がかなり広いスペースになっています。施設は車椅子が入るスペースがあるので麻痺側のスペースが広くなっていますから、この方向に転落すると頭部を直接床にぶつけて生命にかかわる大事故につながります。
    ②床が固すぎる
    最近の入所施設ではトイレ内にもクッション性のある床材が使われおり、頭部を打った時の衝撃が吸収されるようになっています。しかし、多くの施設では床がタイルやクッション性がない硬い床材ですから、頭部を直接強打すれば生命にかかわる事故につながります。
    ■座位を安定させて転落を防ぐ対策
    前述の便座から転落する原因と、大きな事故につながる原因を踏まえて対策を講じるとどうなるでしょうか?
    ① 踏ん張れるように足台を作る
    下腿長が便座に対して6センチも足りないのでは、両足の踵がしっかり床につきませんから、ほとんどの利用者に足台が必要になります。足を広げた状態でないと踏ん張れませんから、広めの足台を作ります。少し高めの足台を作り、少し膝が浮くくらいの物を作るのが良いでしょう。膝が少し浮く程度の方が臀部が少し沈んで、座位が安定するからです。
    ② 移乗した時座位の安定を確認する
    便座に移乗させてすぐにドアを閉めてしまう介護職がいますが、これでは安定した座位になっている確率は低いでしょう。まず、左右のズレがないか正面から確かめて、体幹が便座の中心に来ているかを確認して下さい。できれば、少し腰を浮かして「座りなおしてあげる」ほうが良いでしょう。本人に「座りやすいですか?」と確認することも忘れないで下さい。L字手すりの横手すりに手を置いてあげればより安定します。
    ③ 補助便座を使う
    体重が29キロという特別小柄な女性利用者は、お尻も小さく臀部も痩せていたため、お尻がスッポリ便座の穴にハマってしまいました。ハマらないまでもこの状況に近い人は、座位が安定しません。幼児用に売っている補助便座を取り付けてあげれば、座位は確実に安定します。入所施設でこの補助便座を使っている施設はあまり見たことがありませんが。
    ④ 座位の安定を支える道具
    最近では、L字手すりや可動式の手すりの他に、両側に稼働式の肘掛(肘置き)がついているものが多くなりました。握力のない利用者でも腕を両側に載せることができますから、座位が安定すると同時に、左右にバランスを崩しても便座からの転落も防いでくれます。
    また、数年前に座位の安定を支える画期的な道具として登場したのが、「前手すり」です。便座に移乗した後、壁から利用者の前に降りて来て、両腕を載せることができます。この「前手すり」は最近の入所施設では、「標準装備」と思えるくらいたくさん付いていて大変安心です。両側の肘置きと前手すりに囲まれていると、バランスを崩して転落しそうになっても、まず落ちることはあり得ませんから転落防止の切り札と言えます。
    ■転落しても大ケガをさせない対策
     さて、最後に便座から転落しても大ケガをさせない対策を考えます。本事例のように、左片麻痺の利用者が麻痺側前方に転落すると、床に頭を直接打ち付けるために生命にかかわる事故となります。もちろん、床材をクッション性の高いものに替えたり、前手すりなどを設置できればこのような事故が起こることはありません。しかし、かなりの費用がかかりますから、気軽に設置すると言う訳には行きません。
     本事例の施設では、フロアごとに2つだけトイレを改修して肘置きと前手すりを付けました。便座からの転落の危険のある人だけ、このトイレを使うことに決めたのです。また、ある施設ではL字手すりを使えない重度に利用者に対しては、逆向きのトイレの使い方に変えました。つまり、左麻痺の利用者は左側にL字手すりがあるトイレを使うのです。こうすれば、麻痺側に転落した時、壁に寄りかかるので床に頭を直撃しないで済みます。自力で手すりにつかまれない利用者であれば、手すりの位置はどちらでも同じですから。

  • 09/11
    2024
    2024.09.11
    デイサービスの送迎時に玄関で奥様に介助を任せたら転倒、デイに責任は無い?

    【検討事例】Dさんはデイサービス利用している86歳の男性利用者です。通常移動は車椅子介助ですが、送迎時は居宅の門から玄関まで車椅子が使えず介助員が手引き歩行をしています。ある日、介助員がDさんの手を引いて玄関まで歩いたところで、奥様(82歳)が玄関のドアを開けて「ここでいいですよ」とDさんに手を差し伸べたため、介助員は「ではお願いします」と言って手を離しました。その直後にDさんがふらつき奥様が支えようとしましたが転倒、大腿骨を骨折してしまいました。デイサービスは「奥様にお引渡しした後なのでデイの責任はない」と主張しています。
    ■「ここでいい」と言われたら家族に任せて良いか?
    原因分析に入る前に「奥様にお引渡しをしたのでデイの責任はない」という主張の是非について検討してみましょう。まず、デイサービスの送迎業務はどこで終了するのでしょうか?どこまでお送りすれば良いのでしょうか?「居宅の玄関まで送れば良い」と場所で理解している人も多いのですが、そうではありません。デイサービスの送迎業務の範囲は「居宅の玄関まで」などの場所ではなく、「居宅に帰着し安全な状態と認められるまで」です。なぜなら、送迎業務は単に利用者を輸送する業務ではなく、車両乗降や屋外歩行を介助して移動させるという施設の介護業務の一環とみなされるからです。  このような前提で考えると、介助員が奥様に利用者の歩行の介助を任せた時点では、送迎業務は終了していないことになります。そうすると、介助員が送迎業務中に家族から「こちらで介助しますのでいいですよ」と、介助を辞退されたことになります。では次の問題として、介助業務中に「家族自身で介助する」と介助を辞退されたら、家族に利用者の介助を任せても良いのでしょうか?答えはNoです。
    ■家族に任せる時は安全であることが条件
     もちろん、たとえデイサービスや施設の業務であっても、家族がこれを代わりに介助することは、悪いことではありませんから、全てがいけないという訳ではありません。特別養護老人ホームなどでも、面会に来た家族が食事の介助をしています。しかし、本来施設職員が行うべき介助業務を家族に任せるのであれば、「家族で安全に介助できる場合」という条件が付くのです。  このように考えると、デイサービスの送迎の介助員は、本来車椅子介助の利用者を立位で手引き歩行している訳ですから、たとえ奥様が介助を申し出ても「ここでは危険ですからおうちの中で交替して下さい」と申し出を断って介助を続けなければならなかったのです。
    ■家族に介助を任せる時の注意事項を徹底する
    本事例のように、家族が介助を申し出てこれをお願いする場面は送迎時だけではありません。デイサービスでも家族が来所されて、介助の手伝いをすることはありますし、入所施設の面会時にも同様の場面が考えられます。ですから、色々な場面における「家族に介護業務をお手伝いいただく要件」をある程度決めておいた方が良いと思われます。 デイサービスでは、家族が毎日居宅で利用者を介助していますから、家族が介助を申し出た場合、居宅での介助方法について家族と擦り合わせをする良い機会です。「デイサービスではこのように介助をしていますが、ご自宅で奥様はどのように介助をしていますか?」とお聞きして、介助方法についてプロとしてアドバイスができれば素晴らしいと思います。一方で、入所施設などでは、「家族が入所後の身体機能低下を理解していないため、昔の介助方法でやろうとしたらできなかった」というケースもありますから注意を要します。以上のように、本来施設がすべき介助を家族が申し出た場合については、介助をお願いする時の注意事項をまとめておいた方が良いでしょう。では、本人自身が介助を辞退して、「自分でやるから介助は必要ない」と申し出た場合はどうしたら良いでしょう?
    ■本人が介助を辞退したら自立動作に任せて良いか?
    この場合も、家族が介助を申し出た時と考え方は同じです。つまり、本人自身が独りで安全にできると判断できる場合には、利用者の自身の自立した動作に任せて良い事になります。介護保険制度や福祉サービスの理念の大きな柱に「自立支援」という考え方があります。「本人自身でできることは本人にやっていただく」ということは介護職員の常識です。何でも気を回して本人ができることを介護職が手伝えば、過介護になって本人の自立を妨げますし、「人の手を借りずに自身でやりたい」という自尊心も奪ってしまうことになるからです。 ところが、このような介護の常識が裁判所には理解してもらえないらしく、介護職にとっては厳しい裁判の判決が出ていますので知っておいて下さい。次のような内容です。
    デイサービスの利用者(要介護度2で杖歩行)が、デイサービス終了時にトイレに行きました。この時職員は介助を申し出ましたが、本人が「一人で大丈夫だから」と言って、トイレのドアを閉めてしまったので、トイレ内までは付き添いませんでした。ところが、被害者はトイレ内で転倒し大腿骨を骨折してしまったのです。被害者の家族は、たとえ本人が「一人で大丈夫だから」と言っても、歩行が不安定で転倒の可能性が高く介助すべきであり、デイサービスに過失があると訴訟を提起。裁判所は原告の訴えを認め賠償金の支払いを命じました。 (H17年3月20日横浜地裁判例)
    事故の賠償訴訟の裁判では「危険があれば事故を回避する措置を講ずる義務がある」という考え方のみで過失を判断します。その考え方には、自立支援という介護業界では当たり前の観念が全く存在しません。「多少でも危険があると判断したら危険を回避するために介助しなさい」と決めつけるのです。自立支援も本人の自尊心への配慮も関係ないのです。 立場が違うと考え方も異なるので仕方ないのですが、裁判官にも少しは介護される人の気持ちも理解してもらいたいと思います。「危ないから」と言って自立した動作をさせてもらえず、全て制限されたり介助されたら、人は身体的機能が低下するだけでなく、生活意欲や精神の自立も失ってしまいます。前述の裁判官は将来自分が要介護になった時、「自分でできることは自分でやるから余計なことはするな」とは言わないのでしょうか?

  • 09/11
    2024
    2024.09.11
    口を開かないので鼻をつまんで無理に食べさせたら誤えん事故、これ虐待でしょ?

    【検討事例】虐待とも考えられるような介助方法で誤えん事故が起きました。ある介護職員Aが食事介時に、認知症の利用者がなかなか口を開かないため、鼻をつまんで口を開かせ食べ物を口に入れたのです。気管に食べ物が侵入し誤えん事故となりましたが、幸い命は取り留めました。もちろん、食事介助の方法として、無理矢理口を開かせて食べさせて良い訳がありませんし、これは明らかに虐待行為です。しかし、この事故を起こしたAは「危険な介助方法だとは思わなかった」「主任が“鼻をつまめば口を開くよ”言ったから」と申し開きをしました。話を分かり易くするために“もしこの事故が死亡時になったらどうなるのか”という仮定で、問題点を考えてみましょう。
    ■故意と過失では罰則が異なる
    この誤えん事故で利用者が死亡すると、刑法の犯罪として刑事告訴される可能性があります。通常ルール違反や危険が明白であるような行為を行って事故を起こし、相手が死傷するような重大事故につながると業務上過失致死(傷)罪に問われることがあります。ただし、この介助行為がルール違反もしくは非常に危険だということを認識していたかどうかで事情は変わってきます。つまり、ルール違反であることや非常に危険であるということの認識がありながら、故意にその行為を行うと更に罪は重くなり、重過失致死(傷)罪になるかもしれません。 さて、介護職員Aは「危険の認識は無かった」と主張しています。しかも、上司の指示に従ったのだから、自分は利用者を危険に晒すつもりは無かったのだと言っているのです。この主張は認められるでしょうか?この場合介護職員Aのこの行為が、誰の目にも明らかに危険であると考えられれば、彼の主張は認められません。 鼻を塞がれた状態で口に食べ物を入れるとどうなるでしょう?鼻で呼吸ができず口で呼吸をしますから、口に入った食べ物が気管に侵入する危険は極めて高く、誤えん事故に至る必然性があります。ですから、介護職員としてはこの危険を認識して当然であり、「認識していなかった」という抗弁は通用しないかもしれません。もちろん、Aの食事介助の行為が介護マニュアルで「危険なのだからやってはいけない」と具体的に明記されていればルールですから、Aの主張は議論の余地はありません。
    ■「上司の指示に従った」という抗弁
     次に、「上司が“鼻を摘まめば口を開くよ”言った」と主張はどうでしょうか?彼の罪を軽くする抗弁になるのでしょうか?この主張は認められるかもしれません。もちろん、介護職員Aがベテランであれば、自分で危険を判断して行動しなければなりませんが、経験の浅い介護職員であれば上司の指示に従ってしまうかもしれません。  もし、Aの介護職員としても経験が浅く、上司の発言によってこの行為を行っても危険は無いと判断したのであれば、Aの罪は軽くなる可能性があります。しかし、同時に上司である介護主任が同じ業務上過失致死(傷)罪に問われるかもしれません。業務上の事故では介護事故の起こした職員本人の刑事責任と同時に、管理監督責任がある上司や管理者が同様に罪に問われることは珍しくないのです。
    ■管理者が罪に問われる可能性も
    以上のように、利用者にとって危険が明白な介助方法によって事故が発生して重大事故になれば、本人の認識如何を問わず刑事事件につながる可能性が高くなります。Aの食事介助の行為は、介護に従事する職員から見れば「誰から見ても危険」という行為で議論の余地はないでしょう。しかし、介護職場では安全な介助のルールが文書になっている訳ではなく、その判断は現場に任されているのが現状です。 誰から見ても危険という介助方法が職場で常態化しているにもかかわらず、管理者がこれを是正する措置をとらずに今回のような事故が起きれば、管理者が刑事責任を問われ可能性があります。管理者は職場の安全管理に対して、包括的な重い義務を負っているからです。管理者が「危険な介助方法の実態」を全て把握できる訳ではありませんから、施設内で職場リーダーを中心に「不安全行動(※)」を点検してみてはどうでしょうか? ※不安全行動:労災事故では事故につながる危険のある従業員の行動をこう呼んでいる

  • 09/03
    2024
    2024.09.03
    10月安全な介護主催セミナーのご案内

    ■一斉配信動画セミナー「新しい転倒骨折事故防止対策(10/1)」
    ■安全な介護セミナー「事例から学ぶ重大事故への対応策(10/4)」
    ■オンライン職員研修「事故防止対策後編(10/24)」
    ■無料オンラインセミナー「苦情申立事例から学ぶ介護サービストラブルの対応策(施設編)(10/28)」≫セミナーリストはこちらから

  • 09/02
    2024
    2024.09.02
    安全な介護にゅーす9月号発行

    「夏祭りで発生した現金の盗難、施設の対応で混乱」
    夏祭りの最中に家族が現金を盗まれた」と言ってきました。調査をしましたが分からず疑われた職員は辞めてしまいました。施設の対応を考えます。盗難事件の対応マニュアル差し上げます。≫読者登録はこちらから

  • 08/19
    2024
    2024.08.19
    セミナーリスト2024年度下期版のご案内

    ちょっと気が早いですが、弊社セミナーリスト(対面・オンライン)を作成しましたのでご案内いたします。開催をご検討いただける場合は、テキストなどの資料をご提供いたしますので、メールでお問い合わせください。Mail:soudan@nanasha.co.jp
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  • 08/01
    2024
    2024.08.01
    オンライングループ討議セミナー「事例から考える虐待防止の具体策(9/6)」のご案内

    虐待・不適切なケアが大きな問題になっています。以前は認知症利用者への対応で理性を失って起きる虐待がほとんどでしたが、最近では虐待の原因は多様になってきました。そこで、施設・法人単位でグループ参加できるオンラインセミナーを企画いたしました。7つの事例を討議する研修で、自施設(法人)の問題点を見つけるきっかけになります。
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  • 08/01
    2024
    2024.08.01
    安全な介護にゅーす8月号発行

    「高齢ドライバーが運転中に脳梗塞を起こし利用者が死亡」
    酷暑が続くのでドライバーの健康管理を徹底しましょう!「送迎車ドライバーの健康チェック表」を差し上げます。
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  • 07/08
    2024
    2024.07.08
    リスクマネジメント情報室プレミアム会員のご案内

    8月1日からリスクマネジメント情報室プレミアム会員をスタートします。プレミアム会員になると、リスクマネジメント情報室のサービスにプラスして、法定職員研修動画など約160本の動画がいつでも自由に視聴することができます。年会費は1施設55,000から。
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