ショートステイ入所直前に体調不良を理由に施設側からキャンセルでトラブルに

クレーム・トラブル対策

「入所申込前だったのでキャンセルしてもらった」と施設は言うが・・・

《検討事例》
Sさんは居宅で訪問介護を利用しながら奥様の介護を受けている86歳の要介護5の利用者です。奥様の体調がすぐれないことから、ケアマネジャーの勧めである老健のショートステイを1週間利用することになりました。利用開始日の朝、ショートステイの職員がSさんを迎えに行き、奥様もご一緒に来所されました。奥様に入所申込書を記入していただく前に看護師がバイタイルチェックを行なうと、呼吸音不良、意識レベル低下、酸素濃度低下があり、Sさんのかかりつけ医に連絡し相談しました。すると、医師からは「救急搬送が適切」と指示があり、奥様も同意の上救急車を要請し病院に搬送することになりました。奥様には「申込前なのでショートはキャンセルさせて下さい」とお願いし、救急車への同乗をお願いし病院へ搬送していただきました。1時間後には他の利用者から緊急にショートの要請があり、入所させたためショートは満床になってしまいました。
ところが、奥様が救急車に同乗してSさんを病院へ搬送すると、病院の医師は「軽い脱水症状があるので点滴をするが、入院の必要はないので自宅で安静にして下さい」と居宅療養が妥当と判断しました。タクシーで帰宅した奥様は、ご自分の体調がすぐれないことから再度ショートの利用を打診しましたが、「他の利用者にベッドを貸しているためショートは利用できない」と断られてしまいました。近所に住んでいる息子さんが再度施設に説明を求めると、施設では「ショートステイは病院ではなく生活の場なので著しい体調不良の利用者は入所できない。在宅サービスでの利用者の体調管理は家族が責任を持ってもらいたい」と言われました。息子さんは翌日「ショートステイのキャンセルは不当だ」と、市に苦情申立を行いました。

《解説》
■Sさんの体調不良は利用中なので施設が対応する義務がある
 施設側は、「入所申込書を記入する前にバイタルチェックを行ったら著しい体調不良の状態にあり、契約締結前に利用は難しいと判断した」と考えているようです。ですから、家族に病院への救急搬送を任せてしまい、ショートステイの利用をキャンセルしてしまったのです。しかし、本当にこの施設の判断は正しかったのでしょうか?Sさんのバイタルチェックを行い救急搬送が妥当とされた時点は契約締結前だったのでしょうか?詳しく検証してみましょう。
 まず、この短期入所生活介護のサービス利用契約はどの時点で成立したのでしょうか?Sさんの奥様が施設に電話をして「○○日から××日までショートステイを利用させて下さい」と申込み、施設が「はい、承りました」と了解した時点で契約が成立します。つまり、施設が主張する「入所申込書を記入する(契約締結)前であるから」という主張は間違っているのです。その上、契約が成立したショートステイのサービスは、居宅に迎えに行った時から利用開始となります。
 つまり、Sさんが施設の到着しバイタルチェックを行い病院への救急搬送が妥当と判断された時は、ショートステイの利用中ということになります。ショートステイ利用中に利用者に重篤な体調急変が起きているのですから、家族任せにして病院へ搬送してもらって良い訳がありません。本入所の利用者でもショートステイの利用者であっても、利用中の体調急変に対する安全配慮義務には差異はありませんから、看護師が責任を持って病院に搬送しなければからなかったのです。この行為は契約違反であると同時に、運営基準133条(健康管理)※にも違反することになります。
※「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」133条
指定短期入所生活介護事業所の医師及び看護職員は、常に利用者の健康の状況に注意するとともに、健康保持のための適切な措置をとらなければならない。
 
 ■重篤な体調急変でも入院しなければ、ショートはキャンセルできない
 さて、前述の通りSさんが施設に到着して重篤な体調急変であると判明した時は、既にショートステイの利用中だったのですから、利用中のショートステイを正当な理由なく一方的にキャンセルすることはできません。利用中に発生した体調急変はサービス提供を拒否する正当な理由にはなりませんから、この行為も債務不履行であると同時に、運営基準140条(提供拒否の禁止)※に該当します。
では、病院に救急搬送された後でキャンセルすることは出来ないのでしょうか?本入所のように入院しても一定期間ベッドを確保しておくことは、ショートステイでは難しい対応です。搬送先の病院で医師が入院の決定をした時点で、キャンセルになると考えなければなりません。なぜなら、制度上医療保険制度における入院と介護保険制度におけるショートステイは重複して利用できないことになっているからです。逆に言えば、極めて重篤な状態で病院に救急搬送しても、入院が決まるまではショートステイはキャンセルできないのです。
 Sさんの場合、病院の医師が医療面で在宅での生活が可能と判断して、入院の判断をしませんでした。つまり、在宅での生活が可能と医師が判断して、ショートステイの利用も可能な訳ですから、キャンセルせずに利用を継続できるようにしておくべきだったのです
※「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」140条(9条の準用規定)
指定短期入所生活介護事業所は正当な理由なく介護サービスの提供を拒んではならない。
 
■居宅で生活できる程度の体調であればショートの利用を断れない
特養や老健では「施設は生活の場であって病院ではない」とよく説明します。もちろん、病気やケガの治療を目的として医療サービスを行う病院と、生活に支障がある高齢者の生活を援助する施設では目的が異なります。しかし、「ショートステイは病院ではなく生活の場なので著しい体調不良の利用者は入所できない。在宅サービスでの利用者の体調管理は家族が責任を持ってもらいたい」という施設の主張は適切なのでしょうか?
まず、ショートステイが利用できないような体調不良とはどの程度の状態を言っているのでしょうか?入院治療の必要がなく在宅での生活が可能とされる程度の体調であれば、施設の利用ができると考えなくてはなりませんから施設の主張には根拠がありません。居宅で生活ができるレベルの利用者の体調不良を理由に利用を断れば、間違いなく「正当な理由なしにサービス提供を拒否した」ことになるでしょう。また、「ショートステイは在宅サービスなので利用者の体調管理は家族責任」というのも、前出の運営基準133条(健康管理)の趣旨から外れていますし、看護師が配置され居宅に比べより高い医療的配慮ができる施設の体制を考えれば根拠がありません。
ショートステイは「稼働率100%以上が当たり前」と回転率を上げることが使命になっており、在宅の利用者や家族への配慮が欠けた対応が目立ちます。「在宅サービスだから」と言うのであれば居宅での利用者や家族の事情にもっと配慮すべきでしょう。

お問い合わせ