「母が悪質商法に騙されていることになぜケアマネジャーが気付かなかったのか?」

クレーム・トラブル対策

悪質商法から利用者を守るのは事業者の社会的責任

《検討事例》
Mさん(72歳女性)は慢性関節リウマチがある要介護1の利用者です。息子さんが海外勤務のため独居ですが、生活はほとんど自立しています。利用している介護サービスは、居宅介護支援と週2回の訪問介護で、同じ会社の併設事業所を利用しています。Mさんは年金が十分で生活に余裕があり、以前は良く古い友人と出かけていましたが新型コロナの外出自粛で家に籠るようになってしまいました。
 ある日息子さんからケアマネジャーに電話があり、「母の様子がおかしいので帰国して調べてみたら、高額な羽毛布団を5セットも買っていた。気付かなかったのか?」と言いました。ケアマネジャーは「羽毛布団を買ったので良く眠れるとは聞きましたが、5セット買ったとは聞いていません」と答えました。その後、Mさんが多額の健康食品を購入した上、貴金属を不当な値段で買い取られていたことが分かり、息子さんは被害の回復に奔走することになりました。息子さんは事業所に「ケアマネジャーや訪問介護のヘルパーが頻繁に訪問しているのに、気付かなかったとは考えられない」とクレームを言ってきましたが、社長は「法的責任がある訳ではないから対応する必要はない」と言い、息子さんは市に苦情申立をしました。

《解説》
■居宅介護支援事業者に法的な責任は無いが・・・
介護事業所の社長が言うように、居宅介護支援事業者や訪問介護事業者に、利用者を悪質商法から守る法的な義務がある訳ではありません。ですから、本事例のトラブルに対して事業者が補償などの対応を行う必要はありません。
しかし、在宅介護事業者は地域の高齢者を特殊詐欺や悪質商法の被害から守る社会的責任は大きいのです。銀行ではATMに行員を配置して高齢者に声を掛けていますし、郵便局の配達員も高齢者の生活の異変に早く気付き積極的に声をかける活動を以前から行っています。高齢者の生活に密着して生活援助を業務とする介護事業者が、高齢者の詐欺や悪質商法の被害に無関心では困ります。コロナ禍で社会との関係性が希薄になり、被害に遭いやすくなっているのですから尚更です。
 オレオレ詐欺だけではなく、本事例のような悪質商法は年々新たな商法(?)が現れ手口が巧妙になっており、自らの意思で契約を行うため未然に防ぐことが困難なのです。ですから、悪質商法から高齢者を守る上で重要なことは、騙されていることに周囲が気づいて迅速に代金回収などの対応を取ることです。本事例もケアマネジャーやヘルパーがMさんの購入したものに気付いて早く対応していれば、被害の多くが防げたかもしれません。

■増え続ける高齢者の悪質商法被害への対応
今や「オレオレ詐欺の手口を知らない人は皆無」というくらい、特殊詐欺防止対策の徹底が図られていますが、それでも騙される判断力の衰えた高齢者が後を絶ちません。特殊詐欺と同じくらい高齢者を騙して甘い汁を吸っているのが悪質商法です。訪問販売やマルチ商法などの悪質商法には、特定商取引法で規制されているにもかかわらず、訪問購入などの新しい手口がどんどん増えて高齢者がターゲットになっているのです。
特定商取引法とは、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律で、訪問販売(購入)、電話勧誘、通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。
購入契約から8日以内に契約を解除できるクーリングオフは誰でも知っていますが、本事例のように通常消費する量を著しく超える購入契約(加量販売契約)であれば、1年間は契約を解除することができます。クーリングオフは時間的制約が厳しく気付いた時には手遅れというケースが多いのですが、過量販売契約の解除権は1年間行使できますから救済の大きな武器なのです。本事例でも社長が息子さんに過量販売契約の契約解除権についてアドバイスをして、被害救済に協力していれば苦情申立にはならなかったでしょう。

■消費者庁から「身近で心強い味方」と名指しされている介護事業者
 さて、高齢者などを周囲が見守ることで被害から守ろうとする取り組みの中で、消費者庁から名指しで協力を求められているのが訪問介護事業者などの在宅介護事業者です。ヘルパーやケアマネジャーは、独居の高齢者や少し判断力が低下した高齢者などの居宅を訪問して業務を行っているのですから、立場の弱い騙されやすい高齢者の最も身近に居る人なのです。
当然、日常の会話の中でSF商法の店舗などに通っていることを知ったら、注意を促し被害を未然に防ぐこともできますし、騙された高齢者を早期に発見して代金回収などのアドバイスを行うことも可能です。消費者庁が作成した「高齢者の消費者トラブル見守りガイドブック」 の冒頭にはこう書かれています。
このような消費者トラブルを食い止めるためには、高齢者ご本人が問題意識を高めると共に、ご家族やまわりの方々に日頃から高齢者の様子を気にかけていただき、地域の諸機関と連携して見守ることが必要です。中でも民生委員やヘルパー・ケアマネジャーの方々は、高齢者にとって身近で心強い味方です。
 見守りガイドブックは、被害事例や被害防止の取り組み事例がたくさん掲載されているだけでなく、本事例の「過量販売契約の契約解除権」など、被害救済の方法についても優しく解説されている素晴らしいガイドブックです。在宅介護事業者の方は是非研修に浸かっていただきたいと思います。

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