デイのエントランスで転倒、いつもと違う歩行機能

居宅のアクシデントが原因でデイで起きる事故

【検討事例】
 Hさん(女性72歳;要介護2)は、軽い左片麻痺がある杖歩行のデイサービスの利用者です。認知症も無く行動は慎重なので、ゆっくり杖を使って歩き転倒したことはありません。ある日、デイに到着したHさんは、いつものように杖歩行でデイルームに向かおうとしましたが、突然健側の右足が膝折れして転倒してしまいました。大腿骨の骨折と診断され、家族から「職員が付いていながら手も差し伸べていないのは、おかしいのではないか?」と言われました。しかし、その後に前日に自宅のトイレで、右ひざをぶつけてかなり痛みがあったことがわかりました。
■デイサービスでは居宅のアクシデントは把握できない
デイサービスの利用者は居宅で生活していますから、居宅生活で起こる全てのリスク要因を、デイで把握することは困難です。ですから、本事例のように「居宅でのアクシデントが原因でいつもは安全にできる動作ができなかった」というような事故が起こります。
毎日のように頻繁にデイサービスを利用している方であれば、居宅での生活も比較的把握しやすいのですが、週1回利用というような利用頻度の少ない利用者は、なおさら日常の居宅での生活を把握しきれません。
どのデイサービスでも利用者が来所した時に「いつもとお変わりありませんか?」と、その日の健康状態や生活意欲などに変化がないか、確認しています。しかし、この時間帯は職員が最も忙しい時間ですから、全ての利用者にていねいに訪ねている時間がありません。また、看護師のバイタルチェックはデイルームで落ち着いた後ですから、本事例のように到着直後の事故は防げないのです。
すると、本事例のように到着直後に起こった転倒の要因は、デイサービスで事前に把握することは困難ですから、居宅でのリスク要因を把握する仕組を作る必要があります。
■デイサービスの事故につながる居宅での出来事
 居宅で起こるリスク要因の把握方法を考える前に、デイサービスでの事故につながる居宅でのリスク要因はどんなものがあるのでしょうか?本事例のように、自宅で起きた小さなケガによって痛みがあり、いつもできる動作に支障が出ることもあるでしょう。デイ利用日の前日に熱があり風邪薬を飲んで1日中寝ていたとしたらどうでしょうか?当然、いつもより動作能力が低かったり、歩行時にふらつくかもしれませんし、服薬の影響でふらつくかもしれません。
 このように考えると、利用者の体調変化やアクシデントのみならず、様々な要因がデイサービスでの事故につながります。あるデイサービスで洗い出した「居宅で発生するリスク要因」は次のようなものです。
① 利用者の身体機能に関すること
・居宅でのアクシデントで小さなケガをして痛みがある
・居宅で風邪を引くなどして薬を飲み安静にしていた
・持病の調子が悪化して膝の痛みなど出てきた
・いつも飲んでいる薬を医師が変更した
② 福祉用具や私生活用具などの変化
・いつも使っている杖を変えたら使い勝手が違う
・車椅子の手入れ不足でブレーキが緩んでいる
・補聴器を紛失して耳が聞こえにくい
③ その他家族関係に関連すること
・家族とケンカをして悩み生活意欲が低下していた
・兄弟や大切な友人が亡くなって塞ぎ込んでいた
 数え上げたら切りがありません。そのくらい私たちに日常は変化に溢れています。これらの、事故の要因となる居宅生活での変化をできるだけ把握して、デイサービスの事故防止に活かすには、どうしたら良いでしょう?
■デイサービスの事故防止には家族の協力が不可欠
さて、デイサービスでは、来所時に本人に「お変わりないですか?」と声をかけますし、看護師のバイタルチェックで体調変化も把握します。しかし、職員がどんなに努力しても、デイの事故につながる居宅での生活変化を全て把握することは出来ません。ですから、事故の原因となるような居宅での出来事について、誰かに情報を提供してもらわなければなりません。もちろん、利用者の生活を一番知っている家族からの情報提供も大切ですが、ケアマネジャーも利用者の生活変化の情報をある程度把握しています。また、訪問看護などの本人に関わる介護事業者も、同様にデイサービスが知らない情報を持っているかもしれません。
このように、家族を中心に絶えず利用者の生活の変化の情報を収集することによって、「昨日居宅で転倒して歩行に支障があるのですから、今日1日は大事を取って車椅子でお過ごしいただきましょう」という配慮をすることができるようになります。では、家族やケアマネジャーなどから、どのように利用者の生活変化の情報を収集したら良いでしょうか?
■事故につながる居宅での出来事をどうやって把握したら良いか?
本事例のデイサービスでは、Hさんの事故の後に「デイサービスでの事故防止のための情報提供のお願い」というチラシを、全ての家族にお送りしました。居宅での生活の変化やアクシデントなどで、デイサービスでの活動に影響があったり事故の原因になることが起きたら、デイサービスに電話で連絡をくれるように依頼したのです。
すると、ご家族から「こんなに色々な配慮をしてくれるのは嬉しい」という感想が寄せられました。また、「昨日から急に歩行がしんどくなってきた」とご連絡をいただくなど、デイサービスと一緒に事故を防ぐ取り組みをしてくれようになりました。
 デイサービスの利用者は居宅の生活とデイサービスでお過ごしいただく時間があり、デイと家族が両輪で生活を支えています。ですから、デイで起こる全ての事故を職員だけで防ごうとするのではなく、家族にも事故防止に対する協力を依頼すれば、家族も喜んで協力してくれます。家族に事故防止に対する意識をもってもらうことは大変重要な取組で、家族が“事故防止に取り組む仲間になる”ことで、事故が起きた時のトラブル防止にも大きな効果が期待できます。

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