クレーマーとの面談で相手に無断で録音したら「盗聴は犯罪だ」と言われた

相手の了承なく会話を録音することは違法か?

【検討事例】
介護付きホームの入居者Hさんの息子さんは、入所時に「母を転ばせないで」と強く要求しました。相談員は「最善を尽くします」と答えましたが、転倒事故が起こると「転ばせないと約束したのになぜ転ばせた」と大きな声を出します。その後も身勝手な要求を繰り返し、こちらが言ってないことを「言った」と威圧的な態度でゴリ押しします。ある時息子さんが「〇〇と言ったはずだ」と言ってきたので、詳細な会話の記録を見せると、記録など当てにならないと言います。相談員は「録音して記録したのだから間違いない」と言ってしまいました。息子さんは「勝手に会話を録音するのは違法だ」と言います。交渉相手との会話を録音したら違法なのでしょうか?
■無断録音は盗聴ではない
Hさんの息子さんのように、こちらが言っていないことを「言った」と強引に主張して、暴力的・威圧的な態度で理不尽な要求をしてくる相手に対しては、防衛手段として会話を録音する必要があります。相手の同意を得て録音すれば何の問題もありませんが、Hさんの息子さんが会話の録音に同意するとは思えません。では、相手の同意なしに会話を録音したら違法なのでしょうか?
私たちは、無断で会話を録音する行為は、後ろめたく違法性があるように感じます。隠しマイクで人の会話を録音することを「盗聴」と言いますから、盗撮のように犯罪と思えるのです。他人の容姿を無断で撮影すればプライバシーの侵害ですから、無断録音も同様に権利の侵害とも受け取れます。
しかし、相手の同意なく会話を録音することは、違法ではありませんし犯罪でもありませんから、正確な記録のために録音することは構いません。他人同士の会話を隠れて録音する行為、すなわち「盗聴」はそれだけでは犯罪にはなりません。盗聴器を仕掛けるために住居に不法に侵入したり、電話回線に盗聴器を仕掛けて会話を受信するような行為が犯罪になるのです。
また、他人同士の会話を無断で録音すればプライバシーの侵害になりますが、相対して話をしている相手と自分の会話を無断で録音する行為(無断録音)は、権利侵害の程度が低く問題にならないと考えられます。
■威圧的な相手との会話は録音すべき
 Hさんの息子さんは威圧的な態度で無理な要求をしてくる人です。その上、こちらの言っていないことを「〇〇と言った」と、自分の都合の良い主張に変える人です。このような相手と交渉する場合には、後日のトラブルに備えて準備が必要です。
 まず、相手のとの交渉には必ず2名で臨み、1名が相手との交渉を担当し、もう1名が記録を取ります。単独で交渉に臨むと、後日「言った言わない」という争いになった時、こちらの主張の正当性が弱くなってしまうからです。そしてこちらの主張を裏付ける記録を正確に取るために、相手の同意が無くても会話を録音します。交渉の場で相手がこちらを脅かすような暴言を吐けば、脅迫罪になるかもしれませんから、後日この録音を証拠に相手を刑事告訴できるかもしれません。また、暴力的で威圧的な相手に対しては、録音を条件に交渉に臨むと相手に伝えることで、暴力的な行為をけん制することもできます。
 このように、会話の録音自体は違法ではありませんし犯罪でもありませんが、録音したことが相手に分かれば相手との信頼関係を損ねます。また、こちらが相手に敵対意識を持っていると受け取られますから、信頼関係を重視している相手に対しては録音したことが分からないようにしなければなりません。
■録音データの取扱いには注意が必要
さて、無断録音は違法性がありませんから会話の録音は構いませんが、録音したデータの取扱いには注意が必要です。録音されたプライバシー性の高い内容が職員から口外されれば、プライバシーの侵害で賠償請求される可能性もありますから、厳重に管理して他の職員がアクセスできないようにしなくてはなりません。
消費者保護の観点での配慮も必要です。2人の職員が1人の相手と交渉し無断で録音までしているのですから、消費者保護の観点から好ましい光景とは思えません。相手が威圧的でやむを得ない場合のみ録音するとした方が無難でしょう。介護福祉事業は公共性が高く利用者保護への配慮が必要とされていますから。

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